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俺は新(異)世界の神となる! ~そのタイトル、死亡フラグにしか見えないんで止めてもらえませんか~  作者: 獅東 諒
神様の家出。

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73/80

ダンジョン攻略、厄介ものは謎少女に駆逐されました。

 アラクネーの張った糸に囚われてしまったペルカ。

 彼女の体勢は。俺の方に足を向けた仰向け状態だ……文明レベル的に見てもパンティーがないことは分かっていた。

 ……大事な部分を護る布は太め、しかしある意味ヒモパンのような下着がしっかりと俺の目に入った。


「ダイ! キサマ! ペルカさんになにしてるんだ!!」


 氷の棘の向こうからクリフの怒号が響いてくる。

 うっかり、お尻の形が綺麗だなどと口走ろうものなら、後で極刑にされること間違いない。

 頭の隅でそんなことを考えながらも、俺はアラクネーから放たれている氷の礫を弾き続けている。

 そんな中ひとつ分かったことがことがあるとすれば、アラクネーのヤツ、二つの魔法を同時に使えるものの、どうやら同系統の魔法を同時に使うことが出来ないようだ。

 先程から風の壁(ヴィント・ウォール)は使ったままのようだが、氷の礫(アイス・ブリット)氷の棘(アイス・パイン)は状況を見ながら使い分けている。

 それに、これはまだ憶測の段階だが、もしかしたら魔法を使っている間は身体を動かすことも難しいのではないだろうか?

 そう考えれば格好の間合いに居る、あの糸玉とペルカを攻撃しない事が納得できる。


「女将さん! こっちに来れそうですか!」

「悪い! ダイ――そっちはまかせるよ!」


 やはり女将さんは当てに出来そうにない。どうしたら……ハッ、そうか!


「こうすれば、どうだ!」


 俺はアイス・ブリットを避けながら素早く走ると、近くにあった大きな鍾乳石を力任せに打ち砕いた。

 ギーーーーッ

 と、アラクネーが鳴き、巣が大きくゆれる。同時に、

「ふゃいッ!?」 

 というペルカの可愛い叫び声も聞こえたが和んでいる場合ではなかった。

 ビュンッという音とともに鍾乳石の塊が巣の中心に陣取っているアラクネーへと飛び、その身体にぶち当たった。

 アラクネーが怯み、ヤツの近くにできあがりかけていた氷の礫が落下した。

 そのすきに俺はさらに次の鍾乳石へと走る。

 俺が狙っているのは、アラクネーの巣の根元、巣を固定するため、その糸が止められている場所だ。

 さっきのはちょうど力が均等にかかっていた場所なので、糸の付いていた部分の塊が、支えを失った反動でアラクネーへと見事に飛んでいったのだった。

 計算してやったわけではないので幸運だったよ。逆にペルカたちに当たらない場所を選んだくらいなんだから。

 俺は続けて巣の根元を二つ三つと破壊した。

 さすがにもう鍾乳石の塊がアラクネーへとあたることはなかったが、足場が大きく崩れたアラクネーはアイス・ブリットを放つこともままならずに、体勢を立て直している。

 俺は、巣の糸が無くなった空間に素早く走り、アラクネーに攻撃がとどく位置に詰めよった。


「……チェックメイト」


 俺はガラにもなくキメのセリフを吐いて、メイスでアラクネーの頭を狙う。


「ヘッ!?」


 メイスを振り下ろそうとしたとたん突然、俺の視界が反転した。

 急激に足を引っ張られて身体が上空へと引き上げられ、アラクネーが遠ざかる。

 ……ブラ~~ン、ブラ~~ン………………

 足を見ると足首にグルリと白い糸が巻き付いていた。


「クッ――しまった。種族スキルか」


 うっかりしていた。そういえばこいつ躁糸っていうスキルを持っていた。

 クソッ、まさかそこまで器用に操れるものだとは思わなかった。

 結局俺は鍾乳石が吊さる天井にまで引き上げられてしまった。目の前には沢山の糸玉がある。おそらく備蓄用の食料か何かだろう。

 あの子供がなぜ、こんなところに吊されていたかは謎だ。だがこの中には、まだ人が捕えられているかも知れない。

 アラクネーは俺を天井に吊し上げると、これまで能面のように無表情だった顔に邪悪な笑みを浮かべた。

 何を仕掛けてくるのかと身構えると……フイッとヤツの視線が俺から外れる。


「オイッ、どうした! 俺の止めを刺さないのか! やるなら今のうちだぞ!!」


 嫌な予感を感じた俺は、アラクネーを挑発した。

 アラクネーのヤツ、知力が高いとは思ったが、邪悪さも相当なもののようだ。

 こいつ、捕まえた俺を最後にいたぶるつもりだ。

 俺の焦りに満足感を得でもしたように、ヤツは嫌な笑みを浮かべると、ゆっくりとペルカに向き直った。

 邪魔者を無力化したと確信したのだろう。ペルカを先に仕留めるつもりだ。

 ペルカは仰向けの状態で巣に囚われたまま、迫り来るアラクネーを気丈にも睨み付ける。

 獣人の誇りを示すように唸りをあげて威嚇するが、それは悲壮な誇りだ。


「やめろ!! オイッ! やめてくれ!!」


 クッ、こうなったら神気降臨を――俺がそう心を決めた瞬間、


 トクンッ……と、この空間に不可思議な鼓動が走った。


「何だ!?」


 トクンッ、トクンッ――トクンッ……


 この鼓動は、今この空間にいるモノ全員に伝わっているのだろう。上空から見えるクリフも女将さんも、巣に囚われたままのペルカ。そしてこの広間の主アラクネーすらも、鼓動の場所を探るようにして身構えている。

 不意に、俺の眼前にあった糸玉が、白い霧を吹いてビキビキと凍り付いた。

 そしてその糸玉に繋がっていた糸が急激に氷結していく。

 その勢いは凄まじく、見る間にアラクネーの巣全体が凍り付いた。


「うわっ、冷べた!」


 見れば俺の足に巻き付いている糸も凍り付いていた。

 しめた!

 俺は、足に巻き付いていた糸に向かってメイスを叩きつける。

 バキッ! という音を立てて糸が砕けた。

 時を同じく、俺の目の前の糸玉にもヒビが入り、次の瞬間。バンッ! っと砕け散った。

 地面に落ちていく俺の視界の端に、緑の影が走る。

 緑の影は凄まじい勢いでアラクネーに向かって激突した。

 ヤツも頭上には風の壁をつくっていなかったようだ。

 ギギャァァァァァァァァァァァァーーーー

 緑の影にぶち当たられたアラクネーは、凍り付いた巣を砕きながら地面へと叩きつけられた。

 囚われていたペルカも凍り付いた巣から抜けだしたようだ。張付いていた糸玉の子供もしっかり回収していた。


 それにしても今のはいったい?

 アラクネーに激突した後に緑の影が飛んだ方向に目を向ける。


「あれは…………女の子か?」


 鍾乳洞の壁面に女の子がしゃがみ込むようにして止まっていた。

 長い、海藻のような濃い緑の髪をした……おそらくまだ一〇歳になっていないのではと思わせる子供だ。

 ポンチョのような服を纏っているので体型はハッキリ分からないが、見ることができる顔や手先を見るに太いということはないだろう。

 あの冷気もそうだが、壁に張付くように止まっていることを考えると、まさかあの子――モンスターなのだろうか?

 俺は、探査(サーチ)を発動する。


(ステータス)

〈××× 9歳〉人族 女

創造神 (???)

守護神 (無し)

クラス:魔法闘士レベル7

生命力  101/101(80+21)

魔力    78/98 (68+30)

力    55

耐久力  50 + 10(装備修正)

耐魔力  40

知力   48

精神力  41

敏捷性  54

器用度  30

スキル:無詠唱魔法Lv3、格闘術Lv6、体術Lv11、躁気術Lv5、格闘の才、体術の才

魔法:氷撃(MP20)、雷撃(MP20)、炎撃(MP20)

状態異常:緘黙(かんもく)

種族スキル:無し


 ステータスを見るかぎり人間のようだ。しかし、九歳とは思えないほど能力値が高い。

 名前が×××ってなってるけど、もしかして名前が無いのだろうか?

 俺がそんな事を考えている間にも、地面で体勢を立て直そうとしているアラクネーに向かって、少女は追撃を掛けた。

 少女は壁を蹴って、まっすぐにアラクネーへと迫る。そのさなか彼女の片方の足にボウッと炎が生まれた。彼女はアラクネーの眼前まで迫るとクルリと身体を回転させ、炎を纏わせたその足でアラクネーの頭に踵落としを食らわせた。


 ピギュァアアアアアアァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 少女の足に灯った炎は、彼女の足が打ったアラクネーの頭部へと燃え移る。

 そして一気にその身体へと広がった。

 少女はアラクネーの頭を打った反動を利用して、後方へとクルクルと回ってピタリとでもいうように着地した。体操選手なら間違いなく10点満点だ。


 ギィィィィィィィィィィィィーーーーーーーー


 アラクネーが断末魔の悲鳴を上げて燃え落ちていく。

 不意打ちであったとはいえ、俺たちがあれほど苦戦したアラクネーを、これほどあっさりと斃すとは。

 炎のオブジェと化したアラクネーを背後に、スラリと立つ少女が俺に振り向いた。


「………………」

「…………」

「……」


 少女は、ジーっと俺を見ている。


「………………」

「…………」

「……」

「えっ、えーっと、キミは?」


 少女は、つと、つと、つとと俺に近づいてきた。


「えっ、えっ?」


 ピトリ。

 少女は俺の足に抱きついた。


「えっ、ええぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

お読みいただきありがとうございます。



Copyright(C)2020 獅東 諒

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