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俺は新(異)世界の神となる! ~そのタイトル、死亡フラグにしか見えないんで止めてもらえませんか~  作者: 獅東 諒
神様Help!!

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選手交代、お願いします。

「それまで!」


 審議員の制止の声が掛かる。

 俺の目の前に、体格の良い筋肉隆々の男が泡を吹いて倒れている。

 この男は力自慢で知られたガラハットという剣闘士らしい。

 がら空きだった脇腹に少し強く肘打ちを入れたら、身長差もあって下からかち上げるような感じに肘が入いり、肋骨(ろっこつ)を折ってしまった。

 力自慢を象徴するような肉体の割に痛みに耐性が無かったのか、泡を吹いて気絶してしまったのだった。


 フーッ、やっと5人目。

 次を勝てばデビッドと戦うことができる。

 さすがにここまで勝ち進んできた奴らだけあって、試合のたびに相手の力が上がっているのは分かる。 コイツこんな魔法とは縁もゆかりもなさそうな外見をしていながら、いきなり魔法を使ってきやがったしな。

 前までの試合では使ってなかったんでかなりビックリしたよ。と言いつつ一撃で倒しちゃってるんで観客から見たら「何言ってんだコイツ」状態なんだけどね。

 たぶん外見はこんなで、力自慢という触れ込みだが、その力もたぶん魔法を使ったものだったんだろうと思う。だから俺の一撃でああなったのだろう。

 でもファイヤーボールなんて初めて見たよ。

 本当に火の球が飛んでくるんだから一瞬感動してもろに受けてしまうところだった。でもあれって直接相手に火を付けられないのかね、その方が避けようもないしダメージでかいと思うんだけど。

 しかしモグラが巨大な竜になったり、何も無い空間から物を取り出したりというのにもビックリはしたが、やっぱりこうファンタジー的な世界ならばやはり魔法なワケですよ!

 そして俺にとって魔法と言われて想像するのはやっぱりファイヤーボールなんだよね。

 ……魔法、本当にあったんだなぁ。

 俺にも【憑獣の術】というのがMP消費があるから魔法なのかもしれないんだけど、天界では使えなかったんだよ。シュアルさんからの守護かと思ったら違ったんだよね。

 俺は試合場(アレーナ)から控え通路に戻ると、貸し出された装備を外し興行師のベルバドに渡す。


「ヤンマーの兄ちゃん、まさかアンタがここまでの使い手だとはな。バルトスの旦那が無理矢理ねじ込んだときには旦那の目も遂に曇ったんじゃないかと思ったが、目が曇ってたのは俺の方だったな」


 ハッハッハッ、とバルバロイのように嗤う。せっかく奴と別行動なんだからあまり思い出させないで欲しい。

 まあ、彼の見た目はビヤ樽みたいなんだけどね。

 バルバロイとアンジェラからデビッドの件を聞いたあと二人と話し合った結果。俺はトーナメントを戦いつつ闘技場の関係者を、バルバロイはアンジェラたち自分の巫女や神官が、それまでに調べ不審に感じたもの達を中心に調べていた。

 俺が一人で行動しているのは(おとり)でもあるからだ。

 魔の使徒が力のある者を取り込もうとしているなら、このトーナメントで快進撃を続ける新人には興味があるだろう。

 神であるバルバロイの目を誤魔化すほどの奴だから、彼が張った結界にも気付いているはずだし警戒もしているだろう。

 だが結界が張られてから三年以上経っているらしいので、そろそろ油断しているかも知れない。


 いまのところ俺に接触してきたのは5人。みな興行師でベルバドの所から契約を移らないかという勧誘だった。

 いわゆるヘッドハンティングだ。

 当初は軽い挨拶のような調子だったが、試合に勝つたびに条件が良くなっていて前回の試合に勝った後にはベルバドへの違約金を払うから自分の所へ移ってほしいと懇願する者まで現れた。

 試合の賞金の分配もベルバドとの契約より良いものだった……。

 いや、移りませんよ……。

 ……いや、ホントに。


「なかなか見事な戦い振りですね。この地で見た戦士の中では筆頭剣闘士のデビッドと遜色ない力を持っていると推察しました」


 頭の中で契約金の金額が踊っていた俺に、凜とした声が掛かった。

 目の前には見事なブロンドの髪を、生え際から編み込むように引っ詰めた感じで結い上げた女剣闘士が立っていた。

 上半身にはトゥニカを(まっと)っているが下半身は男の剣闘士と変わらない三角形の腰布(スプリガークルム)という装いで、ちょっと()日本の(ふんどし)のような感じなんで正直視線のやり場に困ります。

 俺の世界のローマ時代の女剣闘士は、上半身ハダカだったって話だから、それから考えると全然問題ないんだろうけど。

 まあその辺りが、そのほとんどが罪人や戦争に負けて奴隷の身になったローマ時代の剣闘士と、こっちの世界のある意味職業ショーの傾向が強い剣闘士の違いなんだろう。

 それにしても女性の(ふんどし)姿を見ても、ここまで堂々とされているとエロスを感じないのは何故だろう?

 まあこれは個人の感想なんで、欲情する奴はするだろうが。


「あなたヤンマーといいましたか、次の試合よく見ていなさい。では」


 女は俺の返事を待たずに背を向けると試合場(アレーナ)へと進んでいく。

 良い形の白桃がぷりぷり揺れているが…… 感じていませんよ――エロス。


「いまの女性(ひと)は?」

「兄ちゃんアンタ……まあ大物ってことか。あの女は今回のトーナメントで大本命って言われてるヴリンダ嬢だ。旅の剣士って話だが確かもう3年ほどエルトーラに留まっててな、これまで俺も含めた興行師が何人もこのトーナメントに参加させようと口説いていたんだが、なかなか興味を示さなくてな。それが、何を思ったのか今回は急に参加を決めたんだ。ったく、俺の所に登録してくれるようにあれだけ頼んでいたんだがな。まあウチも兄ちゃんが登録してくれたおかげで儲けさせてもらってるぜ」


 ベルバドがまたハッハッハッと(わら)う。ついでにバシバシと俺の背を叩く。

 だからバルバロイ思い出すからそれ止めて。

 しかしこの間までは参加人数がまだ結構多かったんで、トーナメントの方は自分の試合前後と次の対戦相手くらいしか見てなかったんだよな。

 バルバロイにデビッドと戦うのがもう決まっているような調子で話されていたんでその気になっていたが、強い奴は他にもいるだろうし、そうすればそちらに魔の者が接触するって可能性もあったんだよな。


「ヤンマーの兄ちゃん、見に行こうぜ。兄ちゃんじゃないが、ヴリンダ嬢も一瞬で綺麗に相手を倒しちまうからさ、しっかり見とかねぇとすぐに終わっちまうぜ」


 ベルバドが言葉と共にアレーナへ向かう通路へ歩いていく。彼の後について行くと丁度試合が始まるところだった。

 ヴリンダという女剣闘士は、(かぶと)を着けていないこと以外は、彼女の前にいるトラキア剣闘士(トラークス)と装備は変らない。相手は通常の装備なので冑があるぶんあっちが有利に見える。しかも体格が全然違っていて、彼女は相手の肩程までしか身長が無い。


「ヴリンダ嬢の相手は、後数年もすれば筆頭剣闘士になるとも言われているマニウスだ。まあここに来てデビッドがまだ力を増すとは誰も思っていなかったから世代交代はまだ先かと思ったんだが……。まさか、ダークホースが二人も現れるとはな」


 先ほどの遣り取りで俺が出場している剣闘士の情報に疎いことを察したベルバドがすかさず解説してくれる。

 このオッサン、何気に遣り手っぽいよな。

 試合開始の合図が示されると、ヴリンダに対峙したトラキア剣闘士(トラークス)姿のマニウスが駆け寄り剣を振るった。

 ヴリンダは軽く右の足を引き身を反らせただけでその剣をかわす。

 優勝候補とはいってもあの体格差だ、マニウスは一撃必殺を狙ったのだろうが大振りを躱されたためにに軽く体勢を崩した。

 あっ、終わりだ。

 俺の目にはすり抜けざまに男の脇腹に吸い込まれるヴリンダの剣が幻視された。

 ……が、彼女は剣を振るうこと無く、歩くようにすり抜けた。

 マニウスも決められると思ったのか一瞬不思議そうな挙動を示したあと、一転して怒濤の攻撃を始めた。

 馬鹿にされたと感じたのだろうが、その攻撃はことごとくを体裁きで躱される。

 どういうことだ? 彼女の動きの軽やかさを考えると、攻撃を決められるタイミングは幾つもあったはずなんだが。

 彼女がすり抜けたマニウスに向き直る。その合間に俺と視線が合った。

 フッ、と彼女の口元に笑みが浮かぶ。

 (よく見ていなさい)そう言った彼女の言葉を考える。もしかして――俺に力量の差を見せつけようとしてるのか。


「ヴリンダ嬢どうしちまったんだ? これじゃあ兄ちゃんの試合みたいじゃないか。これまでは面白味もなく一撃で終わらせてたんだが」


 ベルバドの言葉に引っかかるものが有った。いや、確かに俺トドメは一撃だけど、取りあえず相手の技とか一応見てから倒してるからそれなりに時間掛けてるけどさ。

 あれ? でも。

 そう、この展開どこかで見たことがあるような気が……? アッ!!

 この展開、俺のトーナメントの初戦と全く同じ流れじゃないか?

 いや、でも――そんなことができるのか?

 相手の動きまでコントロールしなくちゃ同じ流れで戦うなんてことできるわけが――!?

 驚きと共にヴリンダを注視すると、マニウスが攻撃に移る一瞬前に、彼女は体制を変え目線の動きで巧みに相手の攻撃を誘っている。

 だがマニウスはそれに気付かず、まるで冗談のように彼女の誘導通りに攻撃しているのだ。

 しかもマニウスの筋肉の動きを見ているのか、彼女の意図しない攻撃を繰り出そうという動きが見えると、瞬間的に威嚇による気を当てその行動を押さえ込んでいる。

 これレベルの差どころの問題じゃないぞ、まるで将棋や囲碁でチョッと指せる素人とプロが対戦している試合を見てる感じだ。何手も先まで、それこそ決着が付くまでの戦いの流れが全て彼女によってコントロールされている。

 ……ということは。と俺が思う間もなく。

 ヴリンダが手に持ったシーカ刀の柄で、相手の攻撃を避けざまに兜から覗く首筋を撫でるように打った。

 マニウスが意識を失い糸の切れた操り人形のように足下から崩れおちる。


 ああ、やっぱりこうなる訳ね。展開は分かったが、驚くことにマニウスが倒れた姿と場所までが俺の初戦とまったく同じだった。

 ねえ、俺これと次戦うの?

 無いわー。正直デビッドの件、彼女にお願いした方が良いんじゃない。

 俺の試合の後、彼女が言ったとおりなら、デビッドは俺と実力的に変わりが無いらしいし。

 ここだけの話、実は俺、いまだにデビッドを確認していないのだった。

 バルバロイの話だと、対戦者の確認をするためにトーナメントが進めば見物に出て来るだろうということだったが……、ついでに言うと怪しいというデビッドの付き人も現れない。

 うーん直接対決まで確認出来ないんだろうか?

 いや、それ以前にヴリンダ嬢に勝てる気がしないんですが。


「ねぇアナタ。ワタシ、アナタとお話ししたいことがあるんですけど」


 突然、俺の後ろから声が掛かった。

 その言葉は強い湿気に包み込まれたようなねっとりとした質量を伴っていた。

 振り向いた俺の目に入ったのは、淫靡(いんび)という言葉がそのまま人の形を取ったような何ともエロティックな女性だ。見た感じ、まだ20代前半くらいだろうか。

 鴉の羽のような、濡れた光沢を放つ黒髪は、シュアルさんの夕闇に星を(ちりば)めたような髪色と違い、なんとも怪しい雰囲気を放っている。

 その髪の中心にある顔は綺麗に整っていて抜けるように白い。

 赤い目には光の加減によって時折銀光が走り、白蛇を連想させる神秘さをも併せ持ってっていた。


 服装は一見、神殿に仕える巫女のようにも見える。だが胸元は広く開いていて、しかもあれは乳首だよね?

 薄い布地には乳首が立っているのがハッキリと分かる膨らみ……その突起が微妙な雰囲気を漂わせる皺を作っている。

 さらに腰の辺りを帯で絞っていてその身体付きを見るとメリハリのハッキリしたダイナマイトボディだ。三世怪盗の、アニメの方ではなく原作の峰さんが頭に浮かぶ。ついでに言っておくと腰の辺りの布地の流れを見るに……。

 どう見てもあの服の下マッパだよね。

 うーん露出狂の人とはあまり友達になりたくないなぁ。とはいえ俺たちの目論見通り引っかかってくれたのかな?


「……貴女は?」

「ワタシ、筆頭剣闘士デビッドの付き人をしておりますルチアと申します」


 言いながらルチアという女はススと近付いてきた。その動きは蛇が獲物を狙うときのように巧みで、長いことサテラやバルバロイと戦闘訓練を続けてきて、少しは自信を持っていたのに簡単に懐に入られてしまった。

 これ戦いだったら一撃入れられたよな。


「おいおい、ルチアのネーちゃんウチの期待の新人を誘惑しないでもらいてぇーな」


 驚愕に押し黙った俺の態度を、女の色香に飲まれたと勘違いしたのか、ベルバドが声を掛けた。

 うわー助かったよおっちゃん。こっちが警戒していることをあまり感じさせたくなかったんだよね。


「これはベルバドさま、お久しぶりです。別に興行師ロキニウスの身内として勧誘に来たわけではありませんわ。ワタシの個人的な興味です、魅力的な男性に若い女が心をときめかせるのは決して不思議ではないと思いませんか?」


 うっわー、なんて説得力の無い。それだけムンムンと色気を漂わせて誘惑する気満々にしか見えないけど。

 しかもいま何か力使ったよね。ほらベルバドのおっちゃんの表情が何か虚ろになってるよ。男のしかもおっちゃんのレイプ目なんか見たくないぞ。

 いま女が使った力は弱いものだったが、魔法耐性のない者には劇的な効果があったようだ。

 俺は元々魔法耐性が高いみたいだから大丈夫だったけど。まあ、いまの力の感じだと、この地上に初めて降臨したときの能力値でも効かなかったんじゃないだろうか?

 女も俺にいまの力が効くとは思っていなかったのか、様子の変わらない俺に戸惑っている感じは見えない。内心は分からないけどね。


「ふむ、そうだな。男と女の好き嫌いに口を挟むつもりはないが、くれぐれも勧誘は止めてくれよ」


 ベルバドの言葉には抑揚が無い。精神支配というよりは誘導、それもただ思考の方向性をちょっと短絡させてる感じなんだろうか。

 しかし、なるほど催眠系の魔法に掛かるとこんな感じになるのか勉強になるな~。

 取り合えず下手な騒ぎになって針に掛かった獲物を逃がしたくないからこれはこれで流しておこう。


「うふッ、ベルバドさまのお許しも出ましたし少しゆっくりお話ししたのですが、ここは少々雰囲気に欠けますね。ワタシのお勧めのお店があるので行きましょう」


 ルチアという女は有無を言わさず強引に俺の手を取ると歩き出した。

 腕から感じる彼女の大きな胸の感覚は柔らかく普通ならばその感覚にドギマギしてしまいそうだが、いまの俺には全身を蛇に絡みつかれたような強烈な悪寒が駆け巡っていた。

 グッ、我慢だ我慢。ここで変な反応をするのはマズい。とりあえずコイツが何を考えて俺に接触してきたのか探らないと。

 俺は内心が相手に伝わらないように女に集中していたので、そのとき俺達の背後でヴリンダが真剣な眼差しでこちらを見ていた事には気付かなかった。

お読みいただきありがとうございます。



Copyright(C)2020 獅東 諒

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