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俺は新(異)世界の神となる! ~そのタイトル、死亡フラグにしか見えないんで止めてもらえませんか~  作者: 獅東 諒
神様Help!!

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殺しの免許は要りません!

「でっ、どういうことか説明が欲しいんだけど」


 俺の言葉はテーブルを挟んで目の前に座るバルバロイにかけたものだ。

 アンジェラさんは泣きはらした赤い目のまま、俺達が露店で買い込んだ食べ物をテーブルの上に広げている。


「ああ分った分ったそんな目で見るんじゃねぇよ」


 俺のジト目に、バルバロイが珍しくたじろいだ表情を浮かべる。

 なにか後ろめたい事があるんだろう。俺もそうそう彼の強引さに良い顔ばかりはできない。


「先ずは、コイツを紹介しとこう。――名前はアンジェラ。まっ、俺の筆頭巫女ってヤツだ」

「ああッ――思い出した! TVショッピングの人だ!」


 思わず口に出してしまったが、あの映像よりだいぶ歳が――ゲフン、ゲフン!

 大人びていたんで今まで気が付かなかったよ、確かにあの濃い顔立ちのインストラクター風の女性だ。


「あっ、その……若気の至りです。お忘れくださいお願いいたします。――バルバロイさま、まだアレをお使いなのですか!?」


 TVショッピングという言葉は分からないだろうが、その言葉がなにを指しているかは分かったのだろう。

 アンジェラは消え入りそうに羞恥を浮かべて俺に懇願する。

 バルバロイに向けた瞳に軽く恨みがましい光が見える。

 あの映像のを思い出すと、たぶん二〇歳前後に撮られたものだろう。

 確かにいまも使っているなら一〇年以上も使い回しだ。俺だって呆れる。

 それに三〇過ぎてもあのテンションの人いるけど、彼女は違うらしいから、それは恥ずかしいだろう。

 神殿の奥、バルバロイのために(しつら)えられた隠し部屋にいるからだろう、先程からアンジェラさんが『バルバロイ』と神名を呼んでいる。

 俺にもハッキリわかるほどの強力な結界が張られているから問題ないんだろうけどさ、さっき「地上ではバルトスと呼べ」と言われたばかりな気がするんだが。


「人気あるんだぞアレ……、まあ、ここ数年は使ってねぇけどな……」


 バルバロイの言葉には切れがない。って、この三年俺に付きっきりだったからだろあんた。


「まさか、アイツがあんなことになるとは――俺も迂闊(うかつ)だった」

「いえバルバロイさま。近くにいた私があの人の心の内を推し量れずに、その予兆を見逃してしまったのがいけなかったのです」


 バルバロイとその筆頭巫女が共通の話題で悔やんでいる。

 いや、だからそれを説明してほしいんですが。


「ヤンマー、オメエあの映像のデビッドって剣闘士のことは憶えてるか」

「ああ……うん」


 骨皮筋右衛門に突っ込んだことはとても記憶に残ってます。

 顔は……たぶんアンジェラと同じで――見れば思い出すだろう。


「アンジェラ、コイツはヤンマーだ。まあ地上での名前だが、……神名はそのうち教えてくれるだろう……なあ?」


 バルバロイが思わせぶりに俺の名前をアンジェラに紹介した。

 俺個人としては、教えても良いんだが気軽に神名を名乗らないようにとサテラに念押しされたんだよな。

 まあ、ロンダン村のときはサテラが、狼人族の気質を見て大丈夫だと判断していたから良かったようだが。

 邪なモノと縁を繋いでしまうと、様々な弊害が起こるらしく、まだこの世界のルールに詳しくない俺に対して、変な縁を繋がないように、サテラと、さらにシュアルさんにまで心配されてしまった。

 ……お調子者の自覚はあるが、そこまで軽率じゃないよ。

 しかし巫女や神官が名前を広めて(あが)められるぶんには問題ないというから、巫女や神官がどれだけ神にとって大事な存在か分かるだろう。

 俺も、ペルカを大事にしないといけない。


「まあ、そのうちね。……ところで、そのデビッドに何かあったの?」


 バルバロイに話の主導権を持たせておくと話が進まないんで促すように言葉を挟んだ。


「まあ聞け、デビッドとこのアンジェラはあの映像が縁で結ばれてな、俺も、奴が英霊として天界に迎え入れられる戦士として成長すると見込んでいたんだが……、そのデビッドが三年前に魔に墜ちた」


 バルバロイの言葉が途切れ、苦虫をかみつぶしたような表情が浮かぶ。アンジェラも沈痛な面持ちだ。


「………………? ……どういうこと?」

「ヤンマー、オメエ、この前地上に降臨し(おり)たとき魔のモノと出会ったんだろ?」


 バルバロイが、俺に呆れたような表情を向けるが『魔に墜ちる』なんて言葉は初めて聞いたよ。

 言葉の感じでなんとなく分かるような気がするけど、これは大事なことな気がするんでちゃんと聞いておきたい。

 これまで気楽に流して何回か痛い目に遭ったしね。

 少しは成長もするのさ。

 ……あれ? なんか情けない気分になってきた。


「魔のモノって、あのアースドラゴンのことかな?」

「ああそれだ。その時ソイツのことをどう感じた?」

「何か、邪悪な感じを受ける黒い(もや)みたいなモノを全身に(まと)っていたのは憶えてるけど」


 殺されかけたけど(実際には殺されたんだが)、三年も前だからなあ。

 それにそのあとのバルバロイのムチャ振りの方が鮮明に記憶に残ってるんだけどね。

 黒い靄はたまにサテラとかも発してるが、存在自体を染め上げているような感じに見えたのはアイツだけだったな。


「未熟とはいえ、流石はアイツ(主神)の力を受け継いでいるだけのことはあるってぇことか。オメエの目に見えたのは邪気ってぇ奴だ。別に邪気自体は俺達だって持ってるもんだから、それが見えても必要以上に神経質になる必要はねぇ、だがな全身――そして魂までが邪気に染まっちまってる奴はまずい。ソイツは魔に墜ちた奴らだ」

「……魔?」

「そうだな――オメエ、アースドラゴンって種が総て魔神の眷属だとか思ってねぇか?」

「えっ、違うの!?」

「違う。――まあ龍族を魔神が創ったってのは間違いねぇんだがな。厳密に言うと魔神が魔神になる前に創造したんだ」

「……魔神になる前――ってことは!?」

「そうだ、魔神は普通の神から魔に堕ちたのさ。俺も詳しいことは知らねぇが主神の野郎と何かあったらしい。識神か戦女神辺りなら詳しい話も知ってると思うがな。……まあ、だからなんだ龍族も魔神に付き従った奴らもいるが、多くはそのままの生活をしてるのさ。だから、お前が出会ったアースドラゴンは魔神に付き従った一族の(もん)だろう」

「シュアルさんが言ってたけど、『創造(うみだし)はしたけど基本的にそれだけの関係』ってやつか」

「ああ創造された奴らが一方的に崇めてることも多いが、多くは実際に自分達を守護してくれる神に従っていることの方が多いからな。まあ自分の創造(うみだ)した種族を守護(かわいがり)続けてる(やつ)もいるがな」

「ところで、『魔に墜ちる』とどうなるのかな? 今の話だと、ただ魔神を崇めるってのとも違うみたいだけど」

「そうだな――俺達神々に色々な制約があるのはもう分かってるよな」

「ああ、何だか色々あるみたいだね」


 そりゃあもうね、名前の件もそうだが、聞きたいことが聞けなかったりしてるしね。


「だがな、その中でも特殊な制約を持つ神が何柱かいる、それが主神と魔神だ……もちろんオメエもだぞ」


 ヘッ? ……? うーん、そういわれても、俺まだ色々できるほどスキルも神力も無いからねぇ。


「その顔は、まだ分かんねぇか? まあ、オメエのことは今は良い。魔神は主神との制約で今は地上に直接手を掛けることはできねぇ。そして奴は俺達と同じように自身をただ崇めるモノ達から神力を得ることもできねぇ」


 うわぁ、ナニその縛りプレイ。


「魔神には魔族と使徒と呼ばれる(しもべ)が居てな。そいつらが邪気を集め魔神に奉じなければ力にできねーんだ。ただ魔族や使徒も力を使うのに邪気を必要とするから得られる力は微々たるもんだ。だから魔神自体は今のところ大した力も使えねぇ」


 うわぁ、超縛りプレイでした。もしかして魔神ってM?

 ここのところ、世捨て人の格闘家のような生活をしていたから忘れていたけど、この世界には妙にゲームのような制約があったりするんだった。


「だがな魔族や使徒、魔堕ちした者の数は圧倒的に少ねぇんだが、その代わりに通常のモノ達を超えた力を発揮する。最低でも三倍は能力値(ちから)が上がると思って良い」

「三倍!?」


 やっぱり基本は三倍ですか! やっぱりこの世界でも赤い人の法則は存在するのか!!


「おっ、おおう……? ナニを昂奮してるのか知らねぇが、魔族や使徒たちも魔神の力が強くならなければ自分達の活動圏広がらねぇから色々と策謀を巡らせていやがる。奴らが好むやり方のひとつが、力のある者を堕落させ魔堕ちさせることでな、それは魔に堕ちるときに大量の邪気を回収できるからだ。特に聖なる者が魔に堕ちる時に得られる邪気は魔のモノ達が通常集める邪気の数十年分にもなるんだ」


 バルバロイは三倍という言葉に目をきらめかせた俺を、妙なモノでも見るように説明を続ける。

 うん、そうだよね。俺だって他人だったら同じ反応だよ。

 しかしなるほど、物量の主神側、少数精鋭の魔神側って感じなのか。


「俺達も自身の守護するモノ達には気を使っている。だが俺の隙を突いて魔の者がデビッドに接触していてな。情けねぇ事に、俺は奴が魔堕ちしたときに初めて気付いたんだ。……ホントに情けねぇぜ」


 この神殿に来てからバルバロイは、これまで俺を振り回した空気を読まない強引さが影を潜めて、知的な印象すら与える。


「いま考えると、あの人は力を得て、周りから評価を得たのが遅かったからなのか、その力を失うことに強い恐れを見せることがありました。いまから五年ほど前でしょうか。彼は肉体的な力の衰えを感じ始めたようです。その頃から、その傾向が強くなったように思えます。私も巫女頭になったばかりの忙しさにかまけてしまい。あの人の異変を見逃してしまいました……」


 彼女の泣きはらし赤くなった目にさらに悔恨の涙が滲んでいる。


「いまの話を聞いた限りだと、デビッドの心の弱さを突いて彼を魔に堕とした魔族か使徒ってのが居るってことだよね? ソイツは分かってんの?」

「それが、目星は付けてるんだが、正直なところ分からねぇんだ」

「えっ? でも、邪気で分かるんじゃないの?」

「……使徒だとは思うが、よほど隠行に長けた者だろう。純粋な魔族ならばそう簡単に魔の気配を消すことはできねぇし、それほどの力を持った魔族がこれほどの短期間に地上に出てこれる訳がねぇからな」

「目を付けた奴ってどんな奴なんだ?」


 俺の言葉に、バルバロイは軽くアンジェラに視線を向け、そして俺に視線を戻した。


「若い女だ。デビッドと契約している興行師がよこした付き人なんだが、アンジェラが考え得る限りその女が現われてからデビッドの様子がおかしくなったらしい。トーナメントであと二つも勝てばそろそろデビッドもトーナメントを見に出てくるだろう。そうすれば直接確認できるだろう。曲がりなりにも主神(ヤツ)の力を受け継いでいるオメエだ、何かあの女のことが分かるかもしれねえ」

「デビッドも筆頭剣闘士のトーナメントに出てるんじゃないの?」

「このトーナメントは、現在の筆頭剣闘士と闘う権利を得るためのものだからな、デビッドと闘うにはこのトーナメントに勝ち抜かなければならねえ」


 あれ? 既に俺が勝ち抜くこと前提で話されている気がする。


「ところで、そろそろ俺をここに連れてきた本当の理由を聞きたいんだけど」


 俺は、バルバロイに真剣な目を向けた。

 ここまでの話からうすうす感じていたが、この件で俺に何かをさせようとしているのは間違いないからだ。


「……あー、まあ、そうだ……」


 バルバロイは隣に座るアンジェラを気遣うように彼女と視線を合わせると、アンジェラが心を決めた視線をバルバロイに返した。


「デビッドに引導を渡してほしい」


 アンジェラがつらそうに目を伏せた。

 ……えっ! それって……


「……まさか、俺にデビッドを殺せってこと!?」


 ちょっ、チョット待ってよ! 何でそうなるの? デビッドはバルバロイが守護してたんだろ、なら、自分で責任とれよ!


「俺は奴に手を出すことができねぇ……。サテラやシュアルが言っていただろ。俺はデビッドを個人として守護している。奴が魔に墜ちたとしても戦士としての(おきて)に反しない限りは、俺は奴に神罰を与えることもできねぇんだ。戦士ッてぇのは特にその掟の幅が広くてな。騎士なんぞと違って裏切りなんかも神罰の対象にはならねぇからな。――つまり、俺は手を出せねぇ」


 俺の表情から心を読んだのだろう、バルバロイに先回りされて答えられてしまった。神罰与えるのにも制約があるんだ。……この世界の神々ってホントに大変だ。

 俺は、この重圧の中、最も辛い決断をしたのであろうアンジェラに視線を向ける。


「この三年、バルバロイさまと何度も話し合い決断したことです。……私は納得しています。このままでは彼はいずれ魔の使徒へと化してしまうでしょう。そうなれば彼の魂は永遠に魔の領域に捕らわれてしまいます。いまならば彼の魂はまだ光の世界に回帰することも可能なのです」

「……?」

「使徒ってぇのは、元々は魔族では無いモノが魔に堕ち魔族となったモノたちのことだ。純粋な邪気をまとった存在になり、邪気を吸収して自分の力にできるようになる。そうなったモノは魔族と同じように邪気を魔神に奉ずることができるようになるって訳だ。簡単に言っちまえば俺達にとっての神官や巫女のようなもんだ。だがそうなると死後生まれ変わったとしても二度と光の世界の存在にはなれねえ。永遠に魔の眷属となってしまうんだ」


 アンジェラの言葉で俺の理解が及ばなかった所をバルバロイが補足してくれた。……でも、あれ?


「いまのアンジェラさんの言い方だとまだ魂が完全に魔に堕ちていないってことだよね。ってことは、何か他に救う方法が有るんじゃないの?」

「……残念だが……、それは無理だ」


 バルバロイが一瞬俺を見つめ苦渋を吐き出すように言った。

 あれ、なんか俺のせいですか?

 それは彼の態度が”今の俺には無理”だと言っているような感じだったからだ。


「もしかして、俺がもっと神としてレベルアップしていれば助けられたの――かな?」

「オメエ、変に鋭いところがあるな」


 いや、アンタのリアクションがストレートなんだよ。

 でも、やっぱりそうなんだ。

 もしかして、バルバロイがこの三年のあいだ俺を鍛え続けていたのはそれも関係があったんだろうか。


「デビッドの魂だけでも救える期限はもう長くはない。オメエには悪いが奴を救ってやって欲しい」


 やっぱりそうなんだ。

 この三年間バルバロイは俺を鍛えることで、神としても成長することに賭けていたんだな。

 この切迫した状況を考えればあのスパルタぶりも分からなくはない。ところが、あれから俺の神レベルは上がらなかったもんな。


「分かったよ……。でもそれは最後の最後だからな。もし殺さずに救える可能性があるなら俺はそれに掛けるからな」


 取りあえずは、トーナメントが終わるまでにデビッドを救える神レベルに上がれることに賭けるしかない。

 しかし、俺が勝てる前提で話が進んでいる気がするが、勝てるんだよね? ね?

お読みいただきありがとうございます。



Copyright(C)2020 獅東 諒

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