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シン人生に幸運を  作者: 秋風葉菜
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飛行術のハプニング

  師匠のことは尊敬している。

  俺が初めて使った魔法と、師匠の魔法は誰が見てもわかるほどに差があったから。

  俺の魔法がメモだとすると、師匠の魔法は報告書だ。根本的なところが同じでも、そこへの磨きのかけ方が違った。

  そして今、俺はそのときのと同じくらい感動している。


『そそ空を飛べるって、こんなにも素晴らしいことなんですねえええ!』

『もうちょっと落ち着け。』


  飛行術を初めてやってみた。空を飛び、風に当たるという感覚はかなり気持ちいい。しかし、あまりに興奮すると、箒にかける魔力量にブレが生じるので、冷静にやらなければならない。

  でも、初めてなのに興奮せずにやったという人がいるだろう風に。いやいないだろう。それくらい素晴らしいことなのだ。

  師匠も飛行術をしながら俺の会話相手をしている。俺はさっきから上下左右に動きまくりで、全然前に進めていないというのに、師匠は地面と平行に、進んでいる。前後移動も緩やかで、急激にスピードアップとかがない。


「ほんと楽しい!」

『レン語使った。アウト。』

「ぎゃあああ!」


  会話はティデット大陸東で使われている、モイウ語でしかしない。きちんと言語の勉強もしてきたので、意外とできる。


『いやほんと、昨日までの悩みがふっとんだ気分です!』

『ああ、昨日。‥‥‥改めて謝罪させてくれ。あんなこと言ってしまって、申し訳ない。』

『そんなに謝ることではないのでは?』

『謝ることだ。ひどい言葉を送ってしまった。なぜできないかなんて、お前が一番疑問だっただろう。自分の教え方や適性を考えず、お前の責任にしてしまった。本当にすまない。』

『‥‥‥俺は教育というものをよく知らないのですが、それはそんなに言ってはいけない言葉なんですね。』

『ああ。』

『俺はもう気にしていないので、大丈夫ですよ。』

『ありがとう。ところでシギン、どんどん高度が落ちているが。』

『え?ってうおおおおお!』


  地面すスレスレで高度を上げる。なぜ視線が落ちていることに気づかなかった。俺は想像以上にバカなのか。



  その日は魔力切れまで飛んで、師匠と会話しまくった。師匠は、『これでモイウ語は完璧だ。』と言ってくれた。そして、飛行術も、初めてとは思えないと褒めてくれた。よっしゃ。

  師匠はよくうちの食卓に来るようになった。カーネさんが、ぜひ、ぜひと言って譲らないのだとか。

  ‥‥‥おかげでネーシェが師匠を兄と認識していることに気づいた。


「このスープ、どうやって作るんだ?」

「ああ、それはですね‥‥‥」


  カーネさんと師匠が並んで立つことが多くなってきた。師匠は料理が苦手らしく、よくカーネさんやタンプさんに教わっている。‥‥‥なんか、ネーシェが兄と勘違いをするのも仕方ないといえる光景だ。ネーシェも師匠になついているし、まるで本当の家族だ。


*************************************

 

  飛行術を習ってから数ヶ月。

  今日は、師匠が一日中町に出ているため、授業休みだ。なぜかと聞くと、知る必要はないと言われた。でもそう言われるともっと気になると言ったら、帰ったら教えると約束してくれた。

  そして、コンパスを渡された。

  さらに、行く前に俺に一言。『飛行術で、行きたいところにでも行くといい。』

  というわけで、師匠に勧められた通り、飛行術で日帰り旅でもしてこようと思う。

  畑の手伝いをサクッとやって、ネーシェに構って、次の手伝いをお願いされる前に家を出よう。

  と思ったら、まさかのその日は手伝いナシでいいらしい。確かに、昨日種は結構まいたし、ネーシェも今日はご機嫌だ。

『魔法の腕が上達するほど、作業効率が上がってるから、魔法関連なら全然オウケイ!』だって。


  お言葉に甘えて、朝食を食べてすぐに出かけた。もう箒が無駄に左右上下に飛ぶことはない。快適だ。といっても、俺は比較的酔わない体質のようだが。


「よお、シギン。どこに行くんだ?」

「こんにちは。ちょっとそこまで。」

「そうか。気を付けろよ。お前は無詠唱で魔法が使えるから、あんま危機にはならないだろうけど。」

「はーい。気を付けまーす。」


  こんな感じでご近所付き合いも良くできている。

  しかし、師匠といると、無詠唱で魔法が使えることが、珍しいということを忘れかける。師匠はいとも簡単にするから。当たり前のように。

  というか、師匠以外で魔法使う者をほとんど見たことがない。たまに町に出たとき見かけるくらいだ。

  特に向かうところもない。風向に従って、俺は箒を動かした。



  知らない景色、知らない土地。前世で何度もあったことだが、前世はこんな呑気な気分ではなかった。だからこんなに胸が高鳴ることはなかっただろう。

  ふと、もっと上を飛びたいと感じた。今の俺は数メーゼしか浮いていない。もっと上、百メーゼほど浮いてみよう。そう思い、魔力の流す方向を変えた。

  視界がどんどん上がっていく。木の影でやったため、日が急に目にはいる。思わず目を閉じてしまったが、魔力の流れは止めない。

  そろそろかなと思い、目を開ける。


「‥‥‥おお。」


  その光景は誰もが見惚れるものだった。畑に囲まれた道の先はいつも行っている町。しかし、その規模は、俺が思っていた規模の五倍はあった。

  そして、町のそのまた先。そこには一本道を中心として、草原が広がっていた。きっとあそこに立ったら、視界が全て草原になるだろう。

  そんな草原にぽつんと一つ。目を見張るほどの大きさの、屋敷が建っていた。昔、サダさんに教えてもらった、令嬢が住んでいるという屋敷だろうか。というか、そうでないとおかしい大きさだ。

  さらにその先、一本道は山と山の間を通っていた。まるで地面が割れたかのように、一本道んが通っている場所だけ、急に高度が下がっていた。町があるということは、俺は東に来ている。ここで日の出を見たら、どんな絶景だろうか。

  そう思いながら、俺は草原へと向かった。あそこに、寝っころがってみたかった。



  しばらく経って、草原の始まり辺りに着いた。そこで思った。

  ここを箒で思いっきり駆け抜けてみたらどんなに楽しいだろうか、と。

  衝撃で揺れる草の音に耳を傾けながら、どこまでも続く草原を箒で行く。想像しただけで心が踊る。よし、やってみよう。胸を膨らませながら、俺は草原に向かって急降下した。


「ぐ、うわあああああ!」


  そして、箒に吹っ飛ばされた。

  そうだ。飛行術は冷静が大事だった。もちろん、どんなに感情が昂っているときでも制御して飛べるのが一番だが、俺はそれをまだできていなかった。

  体は地面に向かって一気に落下し始めた。俺は風属性の魔法を出した。向かい風をつくった。しかし、それは気休めにしかならなかった。それでも出し続けた。

  ゆっくり、速度が下がっていく。このままいけば、大丈夫だ。

  ‥‥‥めまいがした。そして、クラクラする。これは、魔力切れだ。飛行術で、魔力を使いすぎた。

  落下速度がまた上がり始めた。全身が震える中、俺はもう一度、風属性の魔法を放った。しかし、その向かい風は、気休めにもならなかった。

  このまま、全身を強打して死ぬ。そう思うと、冷や汗を一気にかいた。全身がさらに大きく震えた。


「うわあああああああああああ!」


  もう一度叫んだ。恐怖を押さえつけたくて。

  地面が一気に近づいて俺は怖さで目を閉じた。

  死にたくない。でも、死ぬ。死んでしまう。

  せっかく生まれ変われたのに。違う人生を歩もうと思ったのに。

  後悔とはまた違う感情が渦巻く中、


「ヒッ!?お、オーバーウィンド!」

 

  誰かの怯えたような、驚いたような声が聞こえ、風属性魔法の詠唱も耳に入った。誰だ。知らない。

  風が俺を包むような感覚を覚え、体の降下速度一気に下がるのを感じた。

  そして、全身が地面につき、土の香りがした。

  おそるおそる目を開けると、


「だ、大丈夫?」


  一人の少女が、俺の顔をのぞきこんでいた。

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