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シン人生に幸運を  作者: 秋風葉菜
8/14

使えない

「主よ。悪しき者を罰する聖なる力を与えたまえ。ボレット!‥‥‥ダメかあ。」


  シドスさんの指導の後、ずっと攻撃魔術の詠唱をしているが、使える気配がない。

  彼は俺に期待してくれているのだろう。だから、それに応えたい。彼に失望はされたくない。


「あ、シギン、まだ起きてたの?」

「あ、うん。」

「もうかなりの時間やってるじゃない。魔法が好きなのは分かるけど、体を大事にして。もう寝なさい。」


結構時間が経っていたのだろう。練習は明日するとしよう。


「おやすみ~。」

「おやすみ。」


  ベットに入ってからも詠唱を続けていたが、やっぱり使えなかった。というか、魔力が減っている気配もない。

  俺は前世で、攻撃魔術が使えない奴は見たことがなかった。魔術師は、ほとんどの確率で兵として雇われるから、攻撃魔術が使えないのは死活問題になる。今はどうなのか分からないが、変わらないのだとしたら、俺は魔法師にはなれない。

  それは嫌だ。明日早く起きて練習しよう。


*************************************


  結局、使えないままシドスさんは来てしまった。

  なんだかウキウキしている感じがした。俺が攻撃魔法を使うのを楽しみにしているのだろうか。


「魔力よ。私は攻撃の刃を望む。望みに応えてみよ。ボレット。」


  シドスさんが詠唱に合わせて杖を振るう。杖の先から弾丸が生まれ、数メーゼ飛んで、落ちた。


「亀裂を入れる魔法ではない。弾丸一つを作り出し、数メーゼ先まで飛ばす魔法だ。やってみろ。」


  おそらく、できない。詠唱は違うが、魔術のボレットと同じようだ。


「?どうした。うつむいて。具合が悪いのか?」

「‥‥‥いえ、大丈夫です。」

「ならはやく来い。」

「‥‥‥はい。」


  うつむきながら詠唱を唱える。


「魔力よ。私は攻撃の刃を望む。望みに応えてみよ。ボレット。」


  ‥‥‥なにも起きない。やっぱり、俺は攻撃魔法は使えない。攻撃魔法は他にもあるが、ボレットラインはその中の基本だ。それが使えないなら、おそらく何も使えないだろう。


「‥‥‥何も起きないな。」


  シドスさんの顔を見れなかった。俺は、指導を受けられないのだろうか。


「もうちょっとよくイメージしてみろ。自分の前に亀裂ができるのを。もう一度、手本を見せてやる。」


  シドスさんはそう言って俺のとなりに立った。


「詠唱は覚えているな?」

「はい。」

「じゃあ省く。ボレット。」


  シドスさんの前に、また弾丸が飛んで落ちた。長さはパッと見全く変わらない。

  シドスさんが手招きしたので、シドスさんの側に立って、杖を受けとる。


「きちんとイメージして、やってみろ。」

「はい。‥‥‥魔力よ。私は攻撃の刃を望む。望みに応えてみよ。ボレットライン。」


  風の渦巻きが出た。渦巻きは少し地面を抉って、消滅した。

  また使えなかった。


「先生、俺、攻撃魔法使えないみたいです。」

「落ち着け。魔法の発現は生まれたときから五歳までだ。まだ発現する可能性はある。」


  そうなんだ。時間が経てば解明されるのはあたりまえだけど、魔術では生まれたときに決まると言われていたからな。


「とりあえず、今日は攻撃魔法はやめて防御魔法を練習するか。たしか、得意分野だと言っていたな。また明日、攻撃魔法を練習する。」

「はい。」



  防御魔法は、自分でも驚くほどに上手くいった。シドスさんも誉めてくれて、強化や広範囲でのやり方を教えてくれた。

  でも、攻撃魔法は、翌日もできなかった。その翌日も、そのまた翌日も。

  五歳になっても。


*************************************


「‥‥‥やっぱりダメでした。」


  その日は、久しぶりにシドスさんの顔を見た。今まで、『時間はまだある。』と言い続けてくれた彼は、時間切れになってどんな反応をするのか気になった。

  シドスさんは、今までずっと待ってくれた。だから、責められずにまだ待ってくれるかもしれないと思った。


「‥‥‥俺は丁寧に教えた。なぜ、この程度のことができないんだ?」


  違った。彼は真っ向から俺を責めた。こんな簡単なものもできないのかと言われた。

  俺は彼を失望させてしまった。


「‥‥‥すみません。なんとか使えるように頑張ります。」

「無駄だ。前にも言ったが、魔法は五歳までに発現する。一回も使おうとしなかったならともかく、お前のように毎日やって一回も使えなかったのなら、一生使えないということになる。」


  そんな話をしていたおぼえはある。でも、全部無駄になるとは思わなかった。何かひとつでも、役に立つと思いたかったのだろう。

  でも、意味がなかった。


「すみません。明日も、魔法、教えてくれますか。」


  俺はシドスさんの顔が見れなかった。


「もちろんだ。」

「ありがとうございます。」


  シドスさんはこう言ってくれたが、心の底では俺に教えることを諦めているだろう。


*************************************


  最近、シギンの様子がおかしい。

  常に下を向いて、俺と目を合わせようとしない。俺が話しかけると、ビクビクしながらこたえる。

  俺は、彼を怖がらせるようなことをしてしまったのだろうか。

  一番の心当たりといえば、全然笑わなかったことだ。仏頂面で指導するより笑いかけながらながら指導した方がいいに決まっている。

  しかし、俺は笑顔が下手だ。やったら今以上に怖がられたくらいには。

  それに、俺はシギンと会ったときからこんな感じだが、彼は初対面から俺を怖がっていた訳ではない。となると違うだろう。


「あ、シドスさん、今日もお疲れ様です。」

「しおーさん。」


  タンプがネーシェを抱っこしながら話しかけてきた。ネーシェも真似するように俺に話しかける。

  シギンのことは彼の家族に聞くのが一番だろう。


「最近、シギンの周りで、彼が落ち込むようなことはなかったか?」

「え?‥‥‥特には思い当たりませんね。でも、確かに五歳になって一週間あたりからちょっと元気がないっぽいですね。」

「そうか‥‥‥。ありがとう。」

「あの、何かあったんですか?」

「あった。でも、ひとまず俺だけで解決してみせる。どうしても無理だったら、協力してくれ。」

「もちろんです。もうお帰りになりますか?」

「ああ。また明日。」


  二人に見送られて、彼らの家を出る。

  五歳になって一週間。そういえばその辺りから、少し異変が起きたように感じる。

  五歳。魔法の発現の限界時期だ。シギンは結局、攻撃魔法の初級、ボレットラインを習得できなかった。あれだけ魔法を使って魔力切れを起こさず、あの年齢で、上級治癒魔法を使えるやつが、どうして初級の攻撃魔法を使えないのかが、全く分からない。ディーダ族流の攻撃魔法の習得は絶望的だ。それに対して落ち込んでいるのだろうか。

  でも、ディーダ族の伝統魔法はそれだけではない。最初にそう説明したはずだ。あそこまで落ち込むことではない。

  だとすると、俺の発言か。たしか、なぜできないのかと、シギンがそれでもやろうとしていたから、止めようとした。それだけのはず。やはり、そこにも思い当たらない。

  明日、彼に直接聞いてみるか。


**************************************


「シギン、お前、何か悩みでもあるのか。」

「どうえ?」


  シドスさんに唐突に話しかけられて、『え?』と、『どうして?』が一緒に出かけた。


「おい、前。」

「え?って、うわわわ!」


  そして、話しかけられたのは上級火属性魔法を使用している途中だった。どれくらい炎を小さくした状態で保てるか、というものだ。

  そして、今は火は見えず、ただ煙だけが宙を舞っていた。それこそ、燃え尽きる寸前だった。

  急いで火を大きくする。


「その状態を保てばよかっただろう。」


  そうだ。大きくする必要はなかった。

  シドスさんは今どんな顔をしているだろうか。蔑視しているだろうか。


「それで、先程の質問の答えはなんだ。」

「え?」

「だから、悩みでもあるのか、という質問に答えてくれ。」


  ‥‥‥何かのテストだろうか。シドスさんは、俺にできるきっかけとして、あんな言葉を送ったのだろうか。

  もしかしたら、彼がもう俺に教えるのが嫌になって、俺が暗い顔でやっているからもう教わりたくないのだと思って言っているのかもしれないそして俺が『もう教わりたくない。』というのを待っているのだろうか。


「‥‥‥俺は、まだシドスさんに魔法を習っていたいです。」

「‥‥‥は?」

「シドスさんの弟子になりたいです。攻撃魔法のひとつも使えないけど。それがなんでかも分からないけど、お願いします。まだ、シドスさんに魔法を教わりたいです。」


  細々と言った。彼を引き留めたかった。でも、無理かもしれない。

  怖くて、彼の顔が見れない。

  俺は、いつの間にこんなに子供になったのだろうか。


「なんで、俺がお前に教えるのをやめるとか言う話になっている。」

「え?」

「俺は、お前の‥‥‥師匠をやめるつもりはないぞ。今の質問がお前を困惑させてしまったようだな。すまない。俺は単純に、お前の悩みを聞きたい。」


  久しぶりに彼の顔を見た。心配している顔だった。

  あのとき彼はどんな顔をしていたのだろうか。分からないけど、俺が思っていたような顔ではないだろう。


「えっと、その‥‥‥。」



  俺は彼に全て話した。


「なるほど。あれは、ただ単純に、お前のできることとできないことの落差が激しくて、つい言ってしまった。でも、あれはそんなにお前を追い詰めてしまっていたんだな。すまない。」


  シドスさんは申し訳なさそうな顔で言った。

  俺は色々、前世の基準で考え過ぎていた。現世は、前世と比べて緩いのだ。魔法の一つ二つ使えないことなんて、些細なことなのだろう。

 

「シドスさん。」

「師匠でいい。俺はもうお前の師匠で、お前は俺の弟子だ。」

「師匠。これからも、俺に魔法を教えてくれますよね?」

「当たり前だ。」


  師匠は笑わなかった。でも、すごく晴れた声だった。

  俺が舞い上がりそうな気分だったから、そう聞こえただけかもしれないが。


「あ、シギン、お前言語の練習はしてるんだよな?」

「あ。」


  早速破門になりそうなことをしてしまった。

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