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シン人生に幸運を  作者: 秋風葉菜
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二つの変化

 数ヶ月経った。カーネさんは臨月を迎えた。もうすぐ弟か妹に会えると思うと、気分が上がる。

 俺は中級魔術を一通りできるようになった。特に、治癒魔術、中級レベルのヒーリングは、すぐ無詠唱でできるようになった。

 しかし、攻撃魔術は相変わらずできない。そろそろ諦めようと思う。

 今は念力魔術の練習中だ。鎌を念力魔術で動かして小麦を刈りながら、洗濯をしている。視線は畑の方に向けているが、意識は洗濯の方にいくようにしている。

 念力魔術は汎用性が高いが、ながらでできるようになるには時間がかかる。練習時間はどんどん長くなるだろう。

 今二人は家の中、時間的に人通りもほとんどないので、思いっきり使える。なんなら上級魔術でもやってみるか。


「シギン、来てくれ!生まれる!」


 俺は家に直行した。


 出産は無事に終わった。

 俺はどうすることもできなくて、同じくどうすることもできないタンプさんとあわあわしていた。

 しかし、カーネさんは冷静だった。


「私以上に混乱してる人が目の前にいると、逆に落ち着いてくるよ。」


 とのこと。

 でも、陣痛は痛そうだった。二人で、


『大丈夫か!』

『頑張って母さん!』


 と励ましていたら、


『ちょっと二人とも黙って!』


 と、思いっきり渇を入れられた。でも、最後は、


『二人とも、頑張るからね。元気な赤ちゃん産むからね。』


 と言っていた。


 そして、俺は元気に生まれた妹の前に立っている。名前は前決めた通りネーシェになった。

 ネーシェは、先程泣き止んでカーネさんに抱かれている。


「触ってごらん。」

「え、だ、大丈夫?」

「大丈夫だよ。」


 赤子は、触ったら壊れてしまうような感じがした。

 恐る恐る手を伸ばす。

 あ、指を掴んできた。小さい手で、弱い力で。

 なんだこのわき上がる感じは。今まで体験したことがない。


「かわいい‥‥‥。」

「でしょ?」


 シギンに妹ができた。


 *************************************


「シギン、ちょっといいかな?文字を教えられる魔属の者と話せそうなんだけど。」

「ばあ?」


 ネーシェにいないないばあをしていたときに、タンプさんが話しかけてきた。

 今ここで止められると、俺がいないままなのだが。無視できない速報だ。


「本当?」

「うん、出産も終わったし。」

「いや、今からが大変な期間じゃないの?」

「それはそうだけど、子供の夢を放り投げられないだろう。」


 タンプさんは実にいい父親だ。

  話によると、服やらのものは俺のおさがりでいけるとのこと。そして、ネーシェのために貯めていたお金の中の少しが余ったらしい。そして浮いたお金でその魔属の方に会いに行くための馬を借りられそうらしい。


「魔属の人、結構遠くに住んでるから、そこの予算がギリギリつかなかったんだよね。」

「父さんと俺と二人でいくの?」

「うん。」

「さすがにお金請求されるでしょ。」

「その人温和だって噂だから、大丈夫だよ。」

「それとは関係なくない?」

「まあ、必要とあらば家を売るよ。」

「冗談だよね?」


 タンプさんには言ってないが、できれば他の言語も知りたい。まあ無理だろうが。


 *************************************


「じゃあ、いってくるよ。三日後には帰ってくるから。」

「うん。ネーシェのことは任せてね~。」

「行ってきます。」

「行ってきます。」

「行ってらっしゃい。」


 家を出るとき、ネーシェが手を振ってくれた気がした。

 厩舎まではタンプさんが肩車してくれることになった。そのときは寝なかったので、よく覚えている。

 俺たちは西に向かって進んで行った。途中で人とよく出会った。ほとんどが旅の格好の人たちだった。時々、箒で移動している人も見かけた。

 道中は畑ばかりだったが、厩舎があるところは集落になっていて、町もあった。

 日が落ちかけていたので、ここで一泊するのかと聞いたが、もうちょっと進むらしい。

 今は宿にいる。水属性魔術の練習中だ。外でやりたいのだが、人さらいに会うかもしれないのでやめておく。ここは治安はいいが、それでも出るものは出るのだ。

 中級魔術のウォーターフォールロアの練習。ただの練習ではなく、横に出す練習だ。本来縦に出るこの魔術を念力魔術魔術で方向転換して、横に出す。

 といっても、かなり威力は低い。部屋のなかでしかできないからな。壊しでもしたら、借金生活だ。借金はそこまで高くないかもしれないけど、学校生活なんて不可能になる。

 タンプさんはもう寝ている。さっきから俺が魔術でうるさくしているのに全く起きない。図太い神経だ。

 もう遅いので、今日はもう寝ることにする。明日になったら、今日作った水でも売ろうか。

 ‥‥‥こう考えると、水売りでもやった方がいいかもしれない。いや、この辺、水はたくさんある。売れないか。

 タンプさんの体温で温かくなったベットに潜り込んだ。


 *************************************


「シギン、起きて。朝ご飯だよ。」


 タンプさんの優しい声で目覚める。気持ちのいい朝だ。


「あれ、買ってきてくれたの?」


 タンプさんはパンを抱えていた。


「うん、買って宿で食べた方が安いから。」


 二人で、黒いパンを急いで胃に入れた。なるべく時間は使いたくないとのこと。

 急いでチェックアウトして、馬に乗って目的地へ。


 馬に揺れれること、二時間ほど。

 今は山道を登っている。魔属の方はこの山で暮らしているらしい。


「この辺、なにもないね。」

「まあ、もう収穫終えたからね。もうすぐ冬だから、農地でやることは無いんだよ。」


 なるほど。


「ねえ父さん。」

「なに?」

「ここに魔法ぶっぱなしていい?」

「ダメに決まってるじゃん。」


 やっぱりだめか。なにもないならいいと思ったのだが。


「それに使うなら、この土砂をどうにかしてよ。」

「ん‥‥‥わお。」


 あたりをきょろきょろして前をちゃんと見ていなかった。

 目の前には、土砂が崩れて道が塞がっている光景があった。


「わかった。どうにかする。」


 こういうときは風属性魔術がいいか。吹き飛ばす方が簡単だ。

 両手を伸ばして、土砂をまっすぐに見る。

 そして、手から魔力を流して、土砂が吹き飛ぶ様子をイメージする。


 ブワッ


 道を塞いでいた土砂が一気に舞い上がる。ここからは念力魔術の出番だ。

 土砂の粒子一つ一つを、掬うように魔力を流す。

 流す場所はどこがいいだろうか。

 ‥‥‥。

 土砂はなにもない農地に、ちょっとずつ流した。


「うおおーシギン、すごいなあ!」


 タンプさんに髪をわしゃわしゃされた。ちょっと痛い。


「よし、これで進めるぞ。」


 タンプさんは再び馬を走らせた。


 *************************************


 着いたのは、少し小さい、しかし一人暮らしには十分な大きさの家だった。

 ここに魔属が住んでいるらしい。


「ねえ、アポとったの?」

「一応、役所の者に手紙を出してほしいとは言ったよ。」

「役所の者に教えてもらえばよかったのに。」

「大金を要求された。」

「そっか‥‥‥。」

「ごめんくださーい。」


 タンプさんがノックしながら話しかけた。

 すると、中から人が、いや、人に似た魔属が出てきた。

 外見は黒い髪と肌、翠のを囲うつり目をもった身長の高い壮年だが、大きな外套から見え隠れする手は、人間の手ではない。

 指が片手に六本ある。しかも一本の長さはすべて同じだ。そして、爪は先端がとがっている。


「手紙を出した者か。」

「あ、はい。この子に文字を教えてもらいたくて。あ、この国のだけじゃなくて、他の言語もお願いしたいのですが‥‥‥。」


 ばれてた。まあ、たまに声に出してしまったときもあったからな。


「ひとまず入れ。」

「えっと‥‥‥お邪魔します。」


 タンプさん、なんかフランクだ。


「確かに俺は、多数の言語を使うことができる。どれくらい知りたいんだ。」

「世界を旅できるくらいです。」

「え?」


 タンプさんがそんな話は聞いてないぞ、という顔で俺を見てくる。そりゃ、言ってないからな。


「なるほど。ならば三は覚えていた方がいいだろう。俺は五使えるが、それでいいか。」

「いや、五言語全部教えてもらいたいです。できればでいいですが。」

「え、シギン五言語も習得するつもり?お金が‥‥‥。」

「金を要求するつもりはない。安心しろ。」


 家は売らずに住むようだ。というか、この方十二言語も使えるのか。なんでこんな辺鄙な場所に住んでいるのだろうか。


「その代わり、我らディーダ族の伝統的魔法を継いでもらう。」

「「え?」」

「我らの伝統的魔法は魔力消費が激しい。しかし、そこの子供の魔力量ならば使いこなせるだろう。」

「あ、俺シギンです。」

「つまり、シギン、お前が俺から習うのは文字や言語だけではなく魔法も追加されるということだ。そして、将来的に人の間で広めてもらう。お前は旅をしたいような言い方をした。嫌な条件ではないだろう。」


 そうだ、俺からすれば知りたかった魔法も習えるのだ。嬉しいことしかない。

 しかし、タンプさんやカーネさんからすればどうだろうか。将来の労働力が無くなるのだ。現在でいっても、言語に魔力も加わったら、家の手伝いをする時間も減るだろう。

 おそらく、反対される。

 タンプさんは迷っているようだ。すぐに反対しないあたり、やはりいい父親だと思う。


「シギンに教わっている間は俺も、家業の手伝いをしよう。これでどうだ。」

「息子をよろしくお願いします。」


 俺に言語と魔術の先生ができた。


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