まだ見ぬ魔属へ
カーネは思いきり睨まれた。
「あなた、魔属がどんな属なのか分かって言ってるの!?」
「ええと、魔力がエネルギーのほとんどを占めている属ですよね?」
「他には?」
「いや、特には‥‥‥。」
「はあ‥‥‥分かった。私が直々に、魔属がどういう属なのか教えてあげるわ。」
「いえ結構です。」
カーネはそのまま立ち去ろうとした。
魔属。幻球大戦という戦争で、混争側についた者たちがなんかあってなった属のはず。シーナ教でまだ神を信じていたとき、教わった。
混争側は野蛮な者たちの集まりだと教わっていたが、今もそう信じられているのだろうか。
「ちょっと、どこ行くのよ!」
が、彼女に止められた。
と、思ったが、カーネは彼女の声を無視してスタスタ歩いていく。
彼女は一瞬ポカンとして、すぐにカーネを追いかけた。
俺はおんぶの後ろから彼女を見た。よく見ると彼女には犬の尻尾がついていた。尻尾は今上に上がっている。おそらく、人獣族だろう。
「ちょっと、無視してんじゃないわよ!」
彼女がカーネに追い付いた。被っていた帽子がずれて、犬の耳が見える。
「いや、どこの誰かも知らないあなたとお話しするつもりはないので。」
「なっ‥‥‥貴族令嬢の私に向かって、良い度胸じゃない。」
彼女は貴族だそうだ。確かに、来ている服は綺麗で、素材も良いものだろう。髪も綺麗にセッティングされている。
しかし、口調、態度、というか服と髪以外貴族という感じがしない。
「え、あなた貴族なの?全然そう見えない。」
カーネは貴族相手とは思えない正直さで対応する。
「‥‥‥まあいいわ。どこにだって失礼な奴はいるものね。」
あれ?意外と寛容だ。
「魔属っていうのね、幻球大戦で混争側についたやつらの末裔よ。大戦後に、体を変化させて、魔法であらゆる行動をする属。腕を動かすことでさえ、魔法でやっているわ。」
彼女は俺の認識とほとんど変わらないことを言った。
しかし、その中に聞き捨てならないものがあった。
「まほうって、むかしからあるのですか?」
シーナ教で教わったことと同じ話で、魔法が出てくるなら、俺、シュタルツが生まれる前から魔法があったということだ。
「え?そ、そうよ。」
彼女は少し狼狽しながら答えた。
「とにかく、そんな野蛮な奴の末裔なんぞに関わったら、ろくな目にあわないわよ‥‥‥ってえ!?」
カーネは彼女が言い終わる前に、歩き始めた。
「ちょっと話はまだ。」
「お嬢様!こんなところにいましたか。いけませんよ、護衛もつけずに町を歩くなんて。さあ、戻りましょう。」
「ち、ちょっと、離しなさい!あ、あんた、顔覚えたからね!」
彼女は護衛らしき人に連れていかれた。どうやら、お嬢様というのは本当らしい。
「とりあえず、その魔属に交渉してみよう。あんまりお金ないけど、文字教えるだけだから要求されないでしょ。」
「ようきゅうされたら?」
「諦める!」
カーネが決めることではないと思う。
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「着いたよ、シギン。」
カーネの声で目を覚ます。また眠ってしまった。
目の前には屋敷が建っていた。町で見かけた一番大きな建物の数倍近くの大きさだ。
「あそこはね、フィガーの領主、サゼット家の別邸なの。領主様の子供が住むらしいよ。」
「どうして?」
「さあ、なんでだろ。」
貴族の別邸ならばそりゃ大きい。さっき話しかけてきた彼女は、おそらくサゼット家の者だろう。
「さ、帰ろ。」
「え、かいものしないの?」
「屋敷を見るというという買い物をしたよ~。」
ルートが違ったのか、サダさんの店は見かけることもなかった。サダさん、可哀想に。
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タンプも魔属から教わることを承諾した。彼女が絡んできたとき、周りも彼女がおかしいという目をしていたから、貴族のなかで魔属は危険という話でも広まっているのだろうか。
しかし、その者は危険だという森に住んでいるらしい。明日は攻撃魔術と防御魔術を使ってみよう。
帰りで分かったが、俺は紐で縛ってカーネにおんぶされながら移動したようだ。
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現在、タンプとカーネが草葉の陰から見守っている。死んだのではない。物理的にだ。倒れたときにすぐ処置ができるようにとのこと。
まずは防御魔術から。防御魔術を展開するなら、防御される相手がいないといけない。
というわけで、タンプに水をかけてもらうことにした。
「このちからは、このよのへんえいをまもるためにあり。マジックシールド。」
詠唱を唱えると、俺の前に薄い青色の膜が張られた。膜は変化して、そして盾の形にになった。
そして、いつの間にかタンプがかけた水の侵入を阻止した。
「よし、成功だ!」
「やった~!」
二人は自分のことのように喜んだ。変わってあげたくなった。
よし、次は攻撃魔術だ。
「しゅよ、あしきものをばっするせいなるちからをあたえたまえ。ボレット。」
‥‥‥あれ、なんにもおこらない。
なんか間違っただろうか。もう一回。
「しゅよ、あしきものをばっするせいなるちからをあたえたまえ。ボレット。」
‥‥‥やっぱりなにも起きない。うん、これはもう、あれだ。
「シギン、魔法が使えない俺でもわかるぞ。お前‥‥‥。」
タンプも分かったのだろう。カーネも、どう声をかけたらいいのか分からないがという顔をしている。
お察しの通り。俺は攻撃魔術が使えないようだ。
あのあと二人にめっちゃ励まされた。誰にだってできないことははあるとか、防御魔法は成功したよとか。
別に俺はへこんでいない。
あとは念力魔術だが、これは使えたい。
念力魔術は、ほとんどの魔術師が詠唱を省略していた。物体をよく見て、魔力を込める必要があるため、詠唱を唱えていられないのだ。
その分お手軽なので、物体があればどこでもできる。今やってみるか。
まずは水属性魔術で水を出す。
ポコッ
俺の前に水の球が浮かんだ。
次に、落ちる前に念力魔術を使って宙に浮かせた状態にする。
俺は水の球をにらんだ。そして、全力で力んだ。
水は落ちない。プカプカ浮かんでいる。
成功だ。思わずにやついてしまった。
念力魔術を使えて間もない頃だと、少し集中をはずしただけで。魔術が継続されなくなる。いずれは全く考えずに使えるようになりたい。
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三ヶ月後。
俺は属性魔術はすべて無詠唱でできるようになった。そして、治癒魔術の中級ができるようになった。
攻撃魔術は全くできない。虚しい。
そして今日はタンプとカーネから重大発表があるとのこと。
「実は‥‥‥シギンに弟か妹ができました。」
俺は目を大きく見開いた。
俺は前世現世どちらでもこうやって子供ができた発言されたのは初めてだった。どういう言葉をかけたらいいのか分からない。
「ふふ、驚いてるね~。」
「というわけで、シギンに名前をつけてほしいんだ。」
「え?」
二人にかける言葉を言いそびれてしまった。
「おれでいいの?」
「うん、シギンが決めてよ~。しぎんが生まれたときは私たちが決めたから。」
カーネは同意していただけな気がするが。
「ほら、早く。」
タンプがに急かされる。こういうのは慎重に決めるべきだろう。
ええと、タンプとカーネの子で、男女に使える名前。ええ‥‥。
「カータとか?」
「うーん‥‥‥。」
「微妙。」
決めろと言ったのはそっちだろう。
「もっとかわいいのがいい。」
「いや、おとこだったらどうするの。」
「やっぱり生まれてくる子の性別で変えた方が。」
結局、名前は話し合いで決まった。男でも女でもネーシェということになった。やや女っぽい気もするが、まあ良いだろう。
はじめてできた下の子。無事に生まれることを祈るばかりだ。
「家族が増えるから~生活費もふえる~。」
「現実を突きつけないでよ。今は嬉しさに浸ろうよ。でも、生活費は増えるよね。‥‥‥ねえ、シギン。」
タンプが俺を呼ぶ。悪い予感しかしない。
「もし、魔属の方がお金を要求してきてきたら‥‥‥。」
分かってくれるよね?という顔を向けられた。
魔属の方よ。お願いします。金銭の要求は止めてください。