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シン人生に幸運を  作者: 秋風葉菜
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プロローグ

  ついにここまで来た。

  やっと、奴の息の根を止めることができる。

  親の、姉の仇を討てる。


「久しいな。」

「お前を殺す。」


  俺の前に立っているのはツーホ・ラシタバ。俺の故郷を滅ぼした奴だ。

  尤も、故郷に未練は少しもないが。


「それは楽しみだ!」

「ユナガ!」

「はい。」

 

  俺の背後から一人の少年が顔を出す。

 彼の名前はユナガ。何年か前に俺が奴隷商から買い取った奴隷だ。手足の動きが素早く、手刀だけで相手の首を落とすことができる程だ。故に、奴隷商が持っていた頃は手足拘束の魔術がかけられていた。

  ユナガは目にもとまらぬ速さでツーホに近づき、ツーホの目の前で跳び上がった。


「捨て駒か。」


  ツーホは魔術で地面の土から弾丸を作り、ユナガに何発か当てた。

  しかしユナガは止まらない。ツーホにかかと落としを食らわせようとする。

 

「惜しい!」


  ギリギリでツーホがよけた。ユナガのかかと落としが地面に直撃し、衝撃波と土煙を起こす。予想通りだ。

  目を開けられない程の土煙から、針状の弾丸がいくつか飛んでくる。前回はこれでやられた。

  しかも、前回はたったの一つだ。それでも、当たっただけで脇腹に穴を開けた。この攻撃は不可避だ。追尾機能が付いており、何があっても同じ速度でロックオンしたものに当たるまで進み続ける。

  ではどうするかというと、着弾までの時間を極限まで長くする。どれくらいかというと、無限に。弾丸にできるだけ近づき、かけてある魔術の中の設定を少しいじる。

  ツーホは軌道を相手までの【最短距離】にしている。気づかずに。

  ツーホは、追尾の機能と、速度を意識している。だから、その魔術を変えさせまいとその二つの設定を確固なものにする。しかし、気づいていない軌道の設定はゆるゆるになる。


「全てを変える孤高の魔術よ。我の想いに応じ、更なる強さを持て。リライトクリエーション。ライツ。」


  聞こえないように小さな声で詠唱し、すぐさま違う魔術を出す。ツーホに弾幕が降り注ぐ。

  ライツはひとつひとつが光源となっている弾幕、一般人ならば見ただけで目を焼かれる。これがどこまで通じるか。


「ハハ、ゴリ押しか!」


  ツーホは弾丸の核を見抜いて破壊していく。

  そのうちにユナガが近づき、拳をツーホに向ける。


「おっと。」

 

  ツーホは防衛魔術で身を守る。しかし、ユナガはゴリ押しでその壁を破壊しようとする。

  ツーホは防衛魔術の範囲を広めた。ユナガを吹っ飛ばすつもりなのだろう。

  やはりツーホは警戒心が弱い。もうすぐ仕掛けが効いてくるはずだ。

  防衛魔術は何から守る対象を守るのかが重要になる。ツーホは今、物理と魔術による攻撃を防いでいる。世間一般で、シールドと呼ばれる魔術だ。

  この魔術は、範囲を広げる時に空気の侵入を許してしまう。


「……ゴホッ!?」


  ツーホが吐血した。ユナガの拳を受けていないのに。

  しめた。

  先ほどのライツの核に、空気と触れしばらく経つと毒になる物質を混ぜた。奴はそこまでは破壊していなかった。

  いける。

  一瞬の隙を俺は逃がさなかった。


「……ガハッ。」


  風属性の最大攻撃魔術、ストームワンでツーホの胸を貫いた。


「……素晴らしい。」


  その言葉を最後に、ツーホは動かなかった。

  やった。やってやった。仇が取れた。

  胸の奥から湧き出る達成感が非常に気持ちいい。今まで抱いてきた感情のどれよりも素晴らしい。今が人 生の絶頂だ。

  やった。やったよ。父さん、母さん、姉さん…。


「……あれ?」


  どうしてだろう。3人の顔が思い出せない。あんなに好きだった家族の顔を。

  3人の仇でここまで来たのに。どうして。

  違う。俺がここまでこれたのはツーホへの憎悪だ。憎悪を達成感にするためにあらゆるモノを捨てて来た。

  でも、もう達成感などない。一瞬で消えてしまった。自分はあんな小さな感情のためにここまでやって来たのか。こんな、くだらないもののために。

  いいや、そんなにはずない。ツーホは国から直々に討伐依頼が来ている。討伐した俺は、英雄扱いだろう。

  でも、他人が自分をどう思うかなんてどうでもいい。俺はただ、ツーホに死んで欲しかった。それ以外どうでもいいと思うほどに。

  結局、それは手に入れることが出来たが、とても小さなものだった。それだけだ。

  これからどうしようか。王都に行って、討伐に成功したことを説明しよう。そうすれば金は大量に貰えるだろう。貴族になれるかもしれない。

  でもなんだろう、別にしたいと思わない。やる気が起きない。このまま死んでもいい。

  とりあえず、ユナガに町に帰れと言っておこう。


「ユナ……ガハッ!?」


  ユナガは俺を蹴った。俺の上半身と下半身は離れた。ちょうど鳩尾を蹴られたようだ。


「シュタルツ、今までお世話になりました。僕はあいつに復讐するために、あなたを殺します。」

「…どういうことだ。」

「僕をあなたに売った商人、ディテールに復讐するんです。あなたを利用するのもいいとは思ったのですが、あなたは僕と必要以上に関わりませんから。何を話しても反応してくれないでしょう。」


  そうだろうか。ユナガに関する記憶は買い取ったときくらいしかないから分からない。

  いや、記憶がない時点で取っていなかったのだろう。


「復讐なんて、何も生まないぞ。」

「あなたの場合はそうでしょうね。でも僕は違います。僕には僕のやり方がありますから。」


  ユナガは俺に背を向けた。


「……あなたが最初に僕に優しくなんてしなければ、こんなこと言いませんでした。」


  治癒魔術をかけなければ。死んでしまう。

  ……かけられない。魔力量が足りない。当たり前だ。ツーホとの戦いで魔力を全て使い切ってしまった。

  あの作戦でツーホを殺せなければ、自分の体を犠牲にしていただろう。でも、そうしてしまえば勝てる確率は一気に下がる。あの作戦に賭けていた。

  俺はここで死ぬのか。まあ別にいい。もうやりたいことなんてない。思い出せる思い出なんてほとんど無い。だから、もういい。思い出も、後悔も無い。

でも、俺はこの人生を誇れない。悔いはなくても、良い人生だったなんて口が裂けても言えない。

良い人生とは、誰かを愛して、誰かに愛されて、思い出に浸りながら死ぬものだろうから。

何も思い出せないのに、そんな価値観だけは、昔も今も変わらない確信があった。

‥‥‥もしツーホに家族を殺されなかったら、そんな、愛に生きることができたのだろうか。


 ************************************


  ……何だか、変な感じがする。水の中にいるような感覚だ。でも、目が開けられない。

 もしかしたら、地獄なのかもしれない。まあいい、素直に受け入れよう。


 ************************************


「……名前、何にしようかな~。」


  なんだ。今声がした。いや、幻聴かもしれない。


「シギン、なんてどう?」


  また違う声がした。男の声だ。さっきは女だった気がする。

 

「いい名前だね。」


  どちらも聞いたことのない声が、聞いたことのない会話をしている。


「早く顔みたいなあ。元気に生まれてきてくれよ。」


  今会話している二人は、きっと夫婦なのだろう。そして、女の方は身篭っている。俺はその会話を盗み聞きしているわけだ。

  ……何故だ?俺は別にこういう事で苦痛を感じるタイプではない。復讐に走る前は、むしろ微笑ましく見ている方だったはずだ。だとしたら、地獄ではではないのか。

  というか、俺は今実体を持っているのか?感覚はあるから、少し動かしてみるか。


「あ、蹴った。」

「本当か!?」


  どういうことだ。今、俺が体を少し動かしたら、夫婦が反応した。


「もう一回、もう一回蹴ってくれ!」

「そんなすぐには無理だよ。」


  まぐれか?いや、タイミングが良さ過ぎる。もう一度、動かしてみよう。


「あ!蹴った!蹴ったぞ!」

「今まで全然来なかったのに、この短期間で二回も。びっくりだねー。」


  ……間違いない。俺は、今胎児で、この夫婦の子供に転生した。

  俺は二度目の人生を歩める。また一から始めることができるのだ。

  なら、今度は。

  最期に思ったことのように。誰かを愛して、愛されて、思い出に浸りながら死ぬような。

  愛に生きよう。

‥‥‥この宣言、少し恥ずかしい。

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