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その1

※全部でその7まであります。本日8/10から毎日1話ずつ投稿し、8/16に完結する予定です。

※本作品にはいじめの描写が含まれます。苦手な方はご遠慮ください。

 思い出の品 かくれんぼ


 もういいかい? まーだだよ


 思い出探して 鬼の役


 もういいかい? もういいよ


 品物見つけた 思い出は


 鬼から隠れる 役になる




 夢村(ゆめむら)は自分の構える店を、決して見つけやすい店だとは思っていませんでした。事実、一週間や二週間、客が来ないことなどはざらにあります。しかしそれも当然です。殺風景なビルの一室にあるこの店は、看板などはもちろんなく、客が訪れる理由としては、ネットの怪しげな情報をたよりにということがほとんどなのですから。


 夢村が開いているこの店、『かくれんぼ屋』は、もちろん違法な仕事を請け負っているというわけでは(一応、「ほとんど」という枕詞がつきますが)ありません。とはいえ、そんな怪しげで見つけづらい、端的にいえばアンダーグラウンドな店に、セーラー服を着たあどけない少女がやってくることなど、今までに一度もなかったことでした。


「……悪いことはいいませんから、おうちにお帰りなさい。わたしの店は、子供が来るようなところではないのですから」


 店の扉を開けて、おずおずと中に入ってきた少女に、開口一番夢村はそう告げました。


「でも、わたしネットで調べたんですけど、このお店は記憶を消してくれるんでしょう? 探しものを見つけてくれる代わりに」


 夢村はわずかにまゆをつりあげました。


「正確には違いますがね。うちは、『思い出の品を見つけるかわりに思い出をお支払いいただく』であって、記憶を消すなどというセラピーのようなことはしていませんよ」


 にべもなくいう夢村でしたが、少女はずいっと夢村に近づき、目に涙をたっぷり浮かべて懇願したのです。


「でも、あなたは探しものを見つけてくださるんでしょう? お願いです、寄せ書きを探してほしいんです!」


 少女が夢村の手をぎゅっとにぎりしめました。夢村は口のはしをわずかにゆがめて、すぐに手を引っこめましたが、少女は引き下がりませんでした。


「大事な寄せ書きなの、ねえ、お願い!」

「君が大事なのは、寄せ書きですか? それともその寄せ書きの思い出ですか?」


 きれいに整えられた口ひげをなでつけ、夢村は問いかけました。しかし少女はそれには答えず、ソファーに座ってスカートのすそをぎゅうっと押さえています。夢村はフーッとため息をついて、それから面倒くさそうに奥の部屋へ引っこみました。


「……とりあえず話は聞きますが、それだけですよ」


 甘酸っぱい香りのするローズヒップティーを少女と自分のティーカップに注ぎながら、夢村はくぎを刺しました。少女の顔に愛らしい花が咲きます。


「わたし、最近この町に引っ越してきたんです。それで……」


 この年頃の少女特有の、あちこちに飛んでいく話を注意深く追いながら、夢村は少女の話が途切れた頃合いを狙って、要点を簡潔にまとめました。


「……つまり、以前住んでいた学校でもらった寄せ書きを、たくさんの友達からコメントを書いてもらった寄せ書きを、新しく引っ越した先の学校で、いじめっ子たちに意地悪されて隠されてしまった。だからそれを見つけてほしいと、こういうことですか?」


 少女は顔を輝かせながらうなずきました。夢村は興味のなくなった様子でローズヒップティーを飲み干し、それから静かに首を横にふりました。


「先ほども申し上げましたが、寄せ書きを見つけたらそれに関する思い出は消えます。……寄せ書きを見ても、あなたが今話したような楽しい思いではなくなるのですよ? 本当に大事な思い出なら、そのような雑な扱いはしないと思いますがね」

「でも、寄せ書きにはみんなのコメントが書いてあるし、それを見れば思い出だって」

「いいえ、思い出すことはできません。例えるなら、教科書に載っている俳句や短歌なんかを読むのと同じ気持ちしかわかないでしょう。『あぁ、いいこと書いてあるな』くらいには思うでしょうが、今あなたが抱えているような……、いや、とにかくそこに残っている、生きた感情はすべて消えてなくなります。物が見つかったところで、思い出が消えてしまったら意味はないと思いますがね」

「だけど……」


 少女が口を開こうとしたときです。わずかに開いていた奥のドアから、するりとクマのぬいぐるみが現れたのです。クマのぬいぐるみは、平然とした様子でペタペタと歩いてきて、それから少女と夢村を交互に見あげました。口をあんぐり開けて固まっている少女を見て、夢村はふうっとわざとらしいため息をつきました。


「メア、何度もいいますが、お客様が来られているときにこの部屋に入ってこないでくれませんか?」


 「これじゃあ商売あがったりです」と、最後はイヤミったらしくつけくわえて、夢村はそのクマのぬいぐるみ、メアを抱きかかえました。口をパクパクさせている少女に、夢村は軽く肩をすくめて説明します。


「彼はメア。呪いのぬいぐるみです」

「ぬ、ぬぬ、ぬいぐるみが……」


 あわあわいう少女を気にも留めずに、夢村は言葉を引き取ります。


「えぇ、たましいを宿しています。……わたしはまじない師ですからね、当然このようなパシ……助手もいるのですよ」

「おい、お前またおれをパシリ呼ばわりしようとしただろう?」

「あぁ、失礼。そうでしたね、実際あなたは、パシリどころかわたしの仕事の手伝いすらできない、それどころかお客様を怖がらせて商談の邪魔をする、疫病神といったほうが正しかったですよね」


 腹立たしいくらいの笑顔を浮かべて、夢村がメアを見おろしました。呪いをかけられて、たましいを宿したぬいぐるみのメアは、ひょんなことから夢村と出会い、『かくれんぼ屋』の一員になったのです。ですが、夢村のいう通り、助手どころかお客さんを怖がらせて、何人も逃げ出させていたのです。メアはなにもいえずに顔をそむけます。


「……そうだ、メア、君に初めての仕事をお願いしましょう」

その2は明日8/11に投稿予定です。

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