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6話 準決勝その三

「マイ!わたしはまだ戦える!」

「いや、アンズ様が二人で戦えって仰ってるから…」

「えっそうなの?」

カリンがアンズの方を見ると、アンズは満面の笑みで何度も頷いていた。

「ほんとだね…。一人で勝ちたかったけど、アンズ様は絶対だもんね」

カリンとマイがヴァルトの方を向き直る。

二人並ぶと見分けがつかないほどそっくりな二人だ。


おかしい…どういうことだ?

なぜアリシアと敵将が一緒にこっち見てるんだ、戦わないのか?


ヴァルトが状況を飲み込めずにいると、空中でキラッと光るものが見える。

危ないっ!

体制を崩し回避する。

あの形、手裏剣か!

ヴァルトが避けた先にも光るものが飛んできていた。

「なっ⁉」

首をなんとか反らして、直撃を避けるものの頬をクナイが切り裂いた。


ヴァルトは距離を取って体勢を立て直す。

「驚いた?驚いた?」

「私達、いつも二人で特訓してたんです」

マイとカリンが二人で距離を詰めてくる。

対応できるように、剣を構える。

ビュン!

マイが走りながら手裏剣を投げる。

先ほどと違って、ヴァルトの腰めがけて飛んできた手裏剣を刀で叩き落とす。

一瞬地面に落とした視界に影が映る。

上か!

ヴァルトが顔を上げたときには、頭上から伸びてきたカリンの足に首をホールドされる。

「うむぁっ!」

少女の太ももに挟まれた頬を通じて、両腿の筋肉の瞬間的肥大を悟る。

まずい…

「折れちゃえ♪」

ヴァルトの首を腿で挟んだまま少女は体を大きくひねり、ヴァルトの体を地面に振り落とす。

砂煙をあげ、ヴァルトの体が叩きつけられる。

「いっちょあがりぃ、決まったねマイ」

カリンはマイの方を見て屈託のない笑顔を見せる。

「まだ終わってないよ、カリン」

「えっ?」

マイの言葉に驚いたカリンが振り向く。

はぁっ…はぁ…

ヴァルトがなんとか立ち上がっていた。

「カリンと同時に体を回転させて首を守ったのね」

マイは冷静にヴァルトを分析している。

今の攻撃…本気で僕を殺しにきてた。

相手はシノビ、東国の暗殺衆だ…負ければ殺される。

その事実にヴァルトは戦慄する。


「カリン、この人は強いよ。少なくとも私よりも」

「マイ?」

相方の弱気な発言に少女の片割れは不安な顔を浮かべる。

「でも()()()よりは弱い。そうでしょ?カリン」

「うんっ!」


二人の少女の互いの動きを補い合う動きにヴァルトの体に生傷が増えていく。

脇腹、脛、耳、腕。

二人の攻撃の数だけ動かし難くなる体を動かして攻撃をいなす。

片方の攻撃を防ぐために動けば、もう片方の攻撃が防げない。

片方の攻撃を避けようと動けば、片方の攻撃が避けられない。

どうすればいい、どうすれば勝てる⁉


「ヴァルト…あんなに傷ついて…」

ヴァルトの傷が増えていくのを見てアリシアはひどく不安に駆られる。

「いいえ、あの少年の力はこんなものではないわ」

すぐ隣にいるアンズは扇子を口元に当て妖しく微笑んでいる。

「さぁ、見せてみなさい。悪しき人(ディヴェル)の力を」


まず脅威なのは死角から迫る攻撃だ。

片方の攻撃に夢中になっている間の死角からの不可避攻撃、それを防ぐには!

「あっ、待てー!」

『おーっとこれはヴァルト選手!フィールドの端に走り出したぞ!敵前逃亡かぁ?』

「敵を前に背を向けるとは、あなたには誇りがないのか!」

後ろから二人の追いかけてくる声を聞きながら、ヴァルトはとにかく走る。

「まったく期待した私が馬鹿でした!」

走り出すヴァルトの背中にまっすぐ飛んだクナイが被弾する直前、ヴァルトは振り返りクナイを避ける。

ドスッ

クナイが会場の土壁に刺さる。

「自分から追い詰められるなんて馬鹿だね♪マイ、もう片付けようよ!」

嬉々とした表情でヴァルトに狙いを定めるカリンがマイに話しかける。

「そうねカリン、こんな奴さっさと殺してアンズ様に褒美をもらうわよ」

「うん!」

カリンがヴァルトの右側に周り手に持つクナイで斬りかかる。


この男の考えることも分かる。フィールドの壁際で戦うことで攻撃の来る範囲を自分の見える場所のみに絞ろうとした。兵法の基本である。

相手がシノビでなければの話だが。

しかし壁という環境は身軽なシノビにとっては障害物にはならない。

クナイは本来、武器ではなく壁に突き刺すことで足場にし、建物に忍び込むために作られたものだ。

正面から戦うのではなく、カリンのように壁際を這うように攻撃すれば…


マイの予想通りヴァルトは、カリンの攻撃をいなすため

壁際から背を離す。

馬鹿ですね。

裾からクナイを取り出しヴァルトの左側の壁に三本突き刺す。

それらを足場にしてヴァルトの背丈より高いところから背に切りかかる。

「死ねっ!」

閃光(ウィスプ)!!!」

ヴァルトの剣から眩い閃光が放たれる。

「なっ…!」

マイのクナイはヴァルトの背後の土に突き刺さる。

即座にマイは体勢を立て直す。

カリンも距離をとったようだ。

「ちょっとそれ消してよ、眩しいから!」

ヴァルトの剣の先に灯った閃光は未だ光り続けている。

閃光(ウィスプ)、通常は旅の人間の野営の際などに用いられる明かりをもたらす魔法。

それ以上でもそれ以下でもない。

急に使われ驚いたが、目も慣れると別に大した光量でもない。

はったりか…。

そのようなはったりに引っ掛かったことが少し頭に来た。

それはカリンも同じようだ。


閃光(ウィスプ)?少年、次はそれをどう活かすんだ?」

アンズは剣の先に光の玉をつけ戦う奇怪な姿を見て、考える。

あの少年が考えもなしにそんなことをするはずがない。

なにかあるはず…なにか…


「そんなもので私たちを欺けると思わないでよ!」

カリンが再びヴァルトに接敵する。

相変わらず剣の先を眩く光らせるヴァルトにクナイで格闘する。

凶器を持った相手は、いかにその凶器を防ぐかに意識が向かう。そして別の凶器の存在を忘れるものだ。

養成時代に師から習った通り、カリンはクナイを持つ手とは逆の手で裾から手裏剣を出す。

「これでもくらいなよ!」

鍔迫り合いをしたクナイを離すと同時に手裏剣を投げつけるが、その手裏剣はヴァルトの体をかすめ壁に突き刺さる。

「あれ?いつもなら外さないんだけどなぁ」

カリンは、悔しがる。


「カリンしっかりしてよ!」

マイが背後からヴァルトに斬りかかる。

身を翻し避けつつ、ヴァルトは剣で応酬する。

「チカチカと眩しいんだよっ!」

マイは袖口から毒針を抜き出し、ヴァルトに投げつける。

ヒュンッ

「ちょっとマイ!危ないじゃん!」

投げつけた毒針は、ヴァルトには当たらず対角線上にいたカリンの振り袖を貫通する。

眠れ(ドルミラ)!」

「っ!?」

マイが自分の思わぬミスに狼狽していると、ヴァルトの手が伸びてくる。

後ろへ大きく飛び避ける。


「カリンならずマイまであんなミスをするなんて…」

アンズは驚愕する。

東国のシノビにおいて投物は、言葉が話せるようになったら練習が始まるほど重要視される。

あの二人もまた投物のエキスパートのはずだ。

あの光ごときで…


「どうしたのマイ⁉らしくないよ!」

「らしくないのはそっちもでしょ、カリン!」

さっき投げたのは東国の青大蛇の猛毒、あと数センチ違えば幼い頃から一緒に育ってきた相方を殺しかけた。

その事実にマイは冷静でいられなかった。

徐々に二人の連携に、ミスが増え始める。

そうなればもう形勢は逆転していた。

先程までの勢いを完全に消失したマイと、チグハグな攻撃を繰り返すカリン。


「くっ、こいつ!」

マイは再び壁に差したクナイを駆け上がり、頭上からヴァルトを狙う。

両手にクナイを構え直接首を狙う。

「死ねー!」

5mはあろうかという上空から、ヴァルとめがけて落下する。

大閃光(ハイウィスプ)!!!」 

ヴァルトの剣の先端がさらに光り輝く。

たまらずマイは目を閉じる。

グギィッ

「あっ!」

マイが落下に失敗し、その場に倒れ込む。

この程度の高さ、いつもの私だったら…。

そのような思案もつかの間、マイの小さな顔をヴァルトの手が包む。

眠れ(ドルミラ)

ヴァルトの手から出た紫紺の閃光が頭を貫通し、マイは失神する。

「人は片目では距離感を掴むことができない。仕方ないさ」

意識を手放す直前、ヴァルトの声が聞こえた。

あぁ、そうか。

カリンも私も、こいつの光で…狂わされたのか。


マイが倒れると、カリンはそのまま戦意を喪失し座り込んでしまった。

これで勝負はついたと思った瞬間

「マイ、カリン!起きなさい!」

アンズが右手を掲げ、叫ぶ。

魔力強化(ブースト)か!!!

杏の右手から凄まじい光が放たれ、カリンとマイを包み込む。


「アンズ様…!やめて、これ以上は…死んじゃう」

カリンが悲痛な声を上げる。



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