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14話

「はーあ、結局ただのスライム一匹かよ」

剣の先でオレンジ色でゲル状の塊をナイフで剥ぐ。

「デューク、そう贅沢言うなって。そんなやつでも鍋で煮たら栄養になる」

茶髪の狩人が相方に語りかける。


平民の中でも狩人は農民と同列で地位が低い。

重税とそれに伴う貧困で家族を食わせるのも精一杯な彼らにとっては多少の獲物でも胃袋を満たすだけで十分な成果だ。


「お前の嫁さん、妊娠したばっかりだったな。これ持って帰れよ」

黒髪の狩人がスライムの可食部分を掴んで持ち上げる。

幼馴染として育った親友の気遣いに感謝を述べつつ受け取る。


しかし瞬時に親友は顔色を変える。

「なっ…アレン!後ろ!!」

「え?」


30mほど離れた所だろうか、暗い雑木林の間に何かいる。

薄汚れたローブを身に纏い宙に浮かぶ人型。

その姿はこの森では見たことが無い。

「なっ…何者だ⁉」

距離を取り弓を構え、戦闘態勢をとる。

「顔を見せろ、さもなければ撃つぞ!」

矢を構え、弓の弦に指をかける。


「アレン、そいつの手を見ろ!」

宙に浮かぶその人型の手は白い骨がむき出していた。

こいつ哀れな遺骸(ワイト)か!


弓を引き矢を放つ。

放たれた矢が人型の顔部分を貫く。

ローブが捲れ骸骨が露出する。

矢は頭蓋骨の歯に受け止められ、そのまま噛み折られる。

「アレン。こいつ…ただの哀れな遺骸(ワイト)じゃないぞ!」

デュークが叫ぶ。

「分かってる!」


哀れな遺骸(ワイト)は魔物の中でもスライムと同じ最下級の魔物。宙に浮く個体など聞いたこともなければ、矢を受け止めへし折る程の力があるなど聞いたことがない…。

それどころかこれまで聞いたどの魔物の特徴とも合致しない。

だとしたら考えられるのは特異個体(ネームド)…!!


白煙魔法(スモッグ)!」

目の前が煙幕で白く染まる。

「こっちだアレン!」

デュークに手を引かれ走り出す。

そうだ、もし危険なやつがいたら脱兎のごとく逃げ出す。

それが狩人の流儀。

幸い距離はあった逃げ切れる…


「待ってくれ」

煙幕から抜け出したデュークとアレンの前に哀れな遺骸(ワイト)が立ち塞がっていた。


そんな…。

間違えてやつの方向に走り出したのか?

いやそんなはずはない!

デュークも俺も確かに奴から離れるよう走ったはずだ…。

じゃあなぜこいつは目の前にいる?

あの距離を一瞬で移動してきたというのか⁉


哀れな遺骸(ワイト)の骨の指がデュークの顔を包む。

「デューク!!」

親友が膝を降りその場に倒れ込む。

「安心しろ…眠っているだけだ」


近くで見ると風化した骸骨に汚い麻布のローブ。

通常の哀れな遺骸(ワイト)と何ら変わりない姿。

しかし圧倒的な脅威を感じる。

空洞となっている眼窩からは冷気が漂い、その身からは凶々しい気を感じた。


声が出ない、足がすくむ。

今から俺は死ぬのか?

いやだ…俺は、まだ死ねない!

妻も帰りを待っている、ガキも生まれたばっかだ!

喉が恐怖で動かない、じっとりとした汗が頬をつたう。

もはやこれまで…目を強く閉じ最後の瞬間に備える。








めちゃくちゃビビられてるー。

眼窩から冷気なんて出ないから…

「いや、だから眠ってるだけだって」

ヴァルトは怯える狩人を優しく諭そうとするが全然効果がない。

まあ、いいや…。


「とりあえず聞きたいことがあるんだ。ここはどこだ?今何年だ?」

「なっ…」

狩人の男が目を開け睨みつける。


「貴様、そんなこと知ってどうする!襲うつもりか!!」

こんな化物に襲われでもしたら…。

脳裏にこの骸骨に蹂躙された村が浮かぶ。

村の場所を吐くぐらいなら!

すまない妻よ(サーシャ)…それと二人の子ども達。

どうか幸せに。

アレンは腰にぶら下げた矢筒から矢を取り出す。

そしてその鏃を自分の首に目掛けて刺す。


…!

刺さらない?

恐る恐る目を開けると鏃の刃と首の間に骨の手が差し込まれていた。

「命を無駄にするな。君が思う以上に君のことを思っている人もいるんだ」

「え?」

「そんな人間が僕にもいる。頼む、今はとにかく情報が欲しい。君の故郷や家族を危険な目には合わせない。約束する」

哀れな遺骸(ワイト)はそのまま手と頭を地面につけ土下座をした。


「ハッハハハッ」

アレンは尻もちをついて笑い始めた。

こんな魔物もいるのか。

緊張からの緩和で笑いも止まらない。





「王歴218年…!?」

「ああ」

「8年間。僕は8年間も…」


僕が死んでから8年の時が経った。

その間にも国の状況は大きく変わったらしい。

あの日、僕を殺した第一皇太子マクシミリアンはその後穏健派である自分の父親を殺害。

代わりに王の座につき、周辺諸国と戦争を繰り返し次々と制圧したようだ。

昔は数多くあった一諸国だったグウィン王国は今や巨大な国家になったらしい。


「そんな巨大で豊かな国にしては君は痩せてるな」

ヴァルトはアレンの腕を見て言う。

カシの木のように黒ずんで骨が出っ張っている。

「ハハッ骸骨に痩せてるなんて言われたくないがね。戦争には金がかかる。奴らはその金を俺ら()()()()に求めたのさ」

()()()()か…。人間に上も下もないと思うけどな…」

「理想ではな。現実は違う。平民は生かさず殺さず、それが貴族が生きる道だ」

アレンは自嘲気味に笑う。


「んおっ」

「起きたか、デューク」

「アレン…ってうお!」

デュークはヴァルトを見て後退りする。

「大丈夫だデューク。悪い人じゃない」

「いや人ではないだろ」


「俺らは村に戻る。あんたはこれからどうするんだ?」

アレンとデュークが荷物をまとめていた。

「これからか…」

脳裏にアリシアの顔がよぎる。

そうだ、僕には行かなきゃならない所がある。

「僕は故郷に向かうよ。会いたい人がいるんだ」

「そうか。会えるといいな…」


二人の後ろ姿を見送り、ヴァルトは足早に王都へと向かった。







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