表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/15

10話 決勝戦その二

アリシアの声とともに現れた白金に輝く剣にマクシミリアンは目を細める。

「おい!ありゃジークフリードの…、あの譲ちゃんまさか!」

グスタフが驚き身を乗り出す。

10年前に突如出現した邪竜ファフニールと魔物軍団による王国進行。 

それを撃退し邪竜を討ち取り新たに貴族の名を手に入れた英雄ジークフリード。

「英雄の力を継ぐ少女と王の天敵である少年か…。これで勝負はついたな」

マクシミリアンが呟く。

「なっ⁉王子、俺の娘の紅の要塞(レッドフォートレス)はまだ崩されてねえぞ!」

マクシミリアンは笑みを浮かべる。

「すぐにわかるさ」


白金の光に包まれた英雄の剣。

「アリシア、僕はどうすればいい?」

「ふふっ、やっと私を頼る気になったわねヴァルト」

アリシアは嬉しそうに微笑みすぐに顔を引き締める。


「昔、父さんが言ってたわ。この剣は持ち主の願いによって姿を変え、未来を拓くって」

アリシアは剣を傾け、剣刻まれた緑の文字をヴァルトに見せる。

古代の言葉だが、ヴァルトは読むことができた。

「意思を継ぐ…」

「そう、私がこの剣に願ったのは父の意思を継ぐこと。だからこの剣は持ち主が私になっても竜殺しの魔剣(バルンムンク)のままだった。でも…」

アリシアはヴァルトの右手に竜殺しの魔剣(バルムンク)を握らせる。


「二人で願いをやり直すの、そうすればこの剣が私達に力をくれる」

剣を持つヴァルトの手をアリシアが包み、二人で剣を挟むように持つ。


アリシアの手から体温が伝わってくる。

同時にこの剣に託されたアリシアの記憶が流れ込む。

英雄である父との会話

どんな人間も差別せず尊重する誇り高さ

ヴァルトとの出会い

貴族社会の卑しさと汚さ

旅立つ父から託された剣

彼女の願いは父の誇りと気高き生き様を継ぐこと。


願い…。

ヴァルトの手に握られた剣が再び光に包まれていく。

「ヴァルトはこの剣に何を願うの?」

僕の願い。

頭の中を様々な思い出がめぐる。

アリシアとの出会い。

ジークフリード様に頭を撫でられたこと。

書庫の本を読みあさったこと。

いじめられていた時、アリシアに助けられたこと。

そして昨日のアリシアとの会話。

記憶の扉が次々と開いていき、様々な想いが駆け巡る。


そして最後の記憶。

窓から差し込む夕日に照らされた部屋。

体を包む柔らかな布。

そして離さないように抱きかかえられた小さな体。

慈しみの目。

これはきっと母親というものだろう。

忘れていたはずの原点。


母さんどうして僕を捨てたの?

僕が悪しき人(ディヴェル)だから?

そのせいで貴族になれなかったから?

ずっと抱いていた悲しみと苦しみをどうして忘れられたのだろう。


紅の撃滅弾(クリムゾンレーザー)用意」


ヴァルトは、隣に立つアリシアの顔を見る。

僕が生きてこれたのは、僕が悲しみの感情に飲まれずにいれたのは君がいたから。


「アリシア、僕の願いは君との未来だよ」

「ヴァルト、私の願いはあなたとの未来」


剣に刻まれた文字が書き換えられていく。

「愛を守護する」

その言葉に呼応するように剣の形も変化していく。

頭の中に声に従い口が勝手に動く

「「我らこの世の永遠を体得したり。それは愛。万物よ我らを祝福せよ、そして我らを阻むものあれば塵芥へと帰せよ。我ら汝の名を呼ぶ。誇り高き力をここに示せ永久の聖剣(エウリュアーレ)!!!」」

およそこの世の宝をすべて集めても敵わないであろう輝きをまとった黄金の剣が二人の手に現れる。


「キラキラと目障りですわ…!紅の撃滅弾(クリムゾンレーザー)撃てー!!!」

要塞の上から今までよりも強烈な熱線が放たれる。

熱戦は一瞬でヴァルトやアリシアを飲み込みすべてを焼き尽くさんとする。


「「我らを守れ永久の聖剣(エウリュアーレ)!!!」」

地響きを起こすほどの熱光線が一瞬にして消滅し、代わりに蛍の如き光が散る。


そして二人はゆっくりと黄金の剣を頭上に掲げる。

天にまで届かんほどの光の線が伸びる。

それは光の線と呼ぶにはあまりに壮大で、天を貫く光の柱と呼ぶべきほど強大だった。

その光の柱がゆっくりと傾く。


光の柱が硬い盾に覆われた要塞の表面に触れる。

金属が大きくきしみ、辺りには凄まじい重低音が響く。

まるでバターにナイフが入るよう一切の抵抗を感じさせずに紅の要塞(レッドフォートレス)は光に飲み込まれる。


そのあまりの美しさに観客が心奪われていると、振り下ろされた光の中から呆然と立ち尽くすシルヴィー達が出てくる。

「盾は?私の要塞は…?」

シルヴィ含め、盾を失った敵チームは誰一人として状況が飲み込めていない。


「ヴァルト、最後はお願い」

アリシアから背中を押される。

そのままアリシアは座り込んでしまった。

魔力を使いすぎたのだろう。


そうだ…これで終りだ。

無重力(ゼログラビティ)…」

ヴァルトの体がゆっくりと浮かび上がる。

この悲しい国の生活はもう終わる。

ヴァルトの背中に円状の魔法陣が展開された。


推進爆発(バーニア)!!!」

ヴァルトの体が弾かれるように動く。

あたりの景色が一瞬にして後ろへ流れる。

シルヴィが急接近するヴァルトに気づく。

「…っ!」

とっさに仮面を両腕で守ろうとする。

だが…

遅い!


一瞬にして仮面に手が届く。

奪い去る!!!

そのまま仮面を剥ぎ、シルヴィから離れる。

シルヴィの仮面を手に抱え、ヴァルトは地面に降り立つ。


『きっ…決まったああああああ!!!優勝は…チィームカイン!!!!!』

ピエロの司会の声とともに会場が大きく湧く。


いつまでも鳴り止まない拍手の中でヴァルトが呆然と立ち尽くしていると後ろからいきなり肩を組まれる。

「やったなヴァルト!!!」

「カイン…」

カインの顔を見ると自然に涙がこぼれてきた。

「お…おいっ、嬉しいのはわかるけど泣くなよ」

「ごめん…でも、止まらない…」

次々と溢れる涙を袖で拭い続けるヴァルトのもとに他のメンバーも集まる。



「見ろグスタフ。あの少年を悪しき人(ディヴェル)と呼び色眼鏡で見ていた人間の常識がひっくり返っていく」

「ああ、王子。あんなのを見せられたら神話がどうこう言ってられないな」

マクシミリアンはヴァルトに賛辞を送る国民を見て満足気に微笑む。

「余が本当に見たかったのはこれだ。神話や身分差などくだらぬ思慮に邪魔されない感情。本当の心からの感動を国民が享受する姿…!」

そしてマクシミリアンは自らの拳をにぎりこむ。

「余は実現しよう。余が王になった暁には媚びと利権に満ちたこの汚い国を濯ぐ」

グスタフは後ろから応じの肩に手を置く。

「ああ、王子と俺の見る先は同じだよ」


ピチャン…


マクシミリアンの足元から水音がした。

ポタッポタッ…






「王子…!血が!!」

マクシミリアンの顔の穴という穴から血が吹き出していた。

「ガハッ…!」

マクシミリアンが咳き込むと大きく吐血した。

その血はどす黒く、暗い色をしている。

「グ…スタ…フ!助け…!」


その言葉と同時に王子の足元に溜まった血が一気に揮発する。


「王子…!ぐあっ!!!」

コロシアムが瞬く間に血の霧に覆われる。


「うあああああ!!!」

「きゃああああ!!!」

会場内から悲鳴があがる。


「ちっ…どうなってやがる!」

グスタフがなんとか目を開けようとする。

「なっ…!」

王子の姿が忽然と消えていた。

彼がいたはずの場所は血だまりが広がっていた。

「王子…!どこだ!」

コロシアムを見回す。

しかし血煙で視界の悪くなっており見つけることができない。


「親衛隊!王子を探せ!!」

グスタフは振り返る。

「あぐっ…、グスタフ団長…!」

親衛隊の面々が頭を抱え膝をついている。

その中で近くにいた若い兵に駆け寄り抱き起こす。

「どうした!?」

「声が…するんです!」

「声?」

「…を殺せって、殺せって声がします。このままじゃ…どうにかなりそうだあああ!!!」

若い兵士はグスタフを跳ね除ける。


「ぐっ…!誰を殺せと言っているのだ!!」

ドクンッ!!!


心臓が大きく跳ねグスタフが膝をつく。

血煙の中を漂う血漿が眼球にへばりつき瞬く間に視界が赤く染まる。


…ろせ。

…を殺せ!

悪しき人(ディヴェル)を殺せ!!!


頭の中に声が響く。

何だこの声は…!


体が熱く発熱する。

殺したい。

殺してやりたい!悪しき人(ディヴェル)を!!!


「うおおお!!!」

ザクッ!

グスタフは抜剣し自分の腿を斬りつける。

「ぐっ…!!」

痛みによって理性が辛うじて戻る。


俺は今、悪しき人(ディヴェル)の少年に対して何ということを思ったんだ…。

あの少年が危ない!


グスタフはよろめきながら再び観覧席から身を乗り出す。

王子…!



スタジアムが突然赤黒い霧に包まれ、観客席から大きな悲鳴が上がってからヴァルトは何もできず立ちすくんでいた。

「なんだよ…なんだよこれ!」

洗脳魔法か?いやこんな広範囲の洗脳魔法、聞いたことがない…!

パチッ

頬に何かがへばりつく。

それは触ると錆のようにジャリジャリとしており、崩れていった。

これは血漿?


「死ねー!悪しき人(ディヴェル)

霧の中からおもむろに声が上がる。

それから堰を切ったように大勢の声が聞こえる。

あんなに明るい声援に満ちていた席からヴァルトに対しての怒号が多く飛んできた。


「なっ…」

思わず狼狽え周りを見回すと座り込んだまま立てずにいるアリシアが目に入る。

「アリシア…!」


その瞬間に背後から凄まじい悪寒が走る。

とっさに振り向く。

そこには憤怒の表情のマクシミリアン王子がいた。

なぜ王子がここに!?


「憎い…!お前たちが…!!!」

「危ないヴァルト!!!」

カインが叫ぶ。

「え?」









鋭い痛みが走る。


あまりの苦痛に顔が歪む。

ヴァルトの胸もとにマクシミリアンの剣が突き刺さっていた。

胸を貫通し肩甲骨を割いて剣が飛び出した。

そして一瞬また鋭い痛みが走ったかと思うと、ズルッと嫌な感覚と共に剣が引き抜かれる。


噴水のようにヴァルトの胸から血が吹き出す。

「がはっ…!!!」


体に力が入らずその場で膝をつく。

胸からとめどなく溢れる血が腹部をじっとり濡らす。

その感触でようやく実感を伴う。

「死ねない…!俺はこんなとこで…!!治癒(ヒール)!!!」

胸の傷に治癒魔法をかけるが血はとめどなく流れる。


強い血流が心臓の繊維を割くため治癒が間に合わないのだ。

吹き出る痛みが次第に重くなる。

「うっ…」

体が鉛のように言うことを効かなくなる。

なんとか顔を上げるとマクシミリアンが再び剣を振り下ろさんとする。


「何やってんだ王子ィ!!!」

マクシミリアンの体が吹き飛ぶ。

グスタフがマクシミリアンを押さえ込む。

「無駄だ…。我を抑えても、怒りの導火線はすでに民へと繋がった」

グスタフが会場を見回す。

すでにフィールドになんとか詰め寄ろうと人々が動いている様子が見えた。

「クソッ!!!」

グスタフはマクシミリアンを放り、ヴァルトの元へ駆け寄る。

「すまない…。なぜこうなったのか、何があったのか何もわからない。ただ許してくれ、もう…こうするしか手はない!」

グスタフはヴァルトの体に手を添える。

転移魔法(テレポーテーション)起動!」


観客の足音が近くなる。

クソッ座標を悠長に決めている時間はない!

とにかく人のいない場所へ!

転移(テレポート)!!!」


ヴァルトの体を白い光が包む。

ヴァルトは薄れ行く意識の中で最後までアリシアの顔を目に焼き付けるのだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ