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集団武闘

『第200回!グウィン王国ダルク辺境伯領高等学校集団武闘(ヴァニッチ)大会が開催しましたー!!!実況はこの私、ミーシャ=キャンベルが担当いたします』

ウォォォォ!!!

コロシアムの中心に立ち、ミーシャと名乗ったピエロの声がコロシアムの中に響き渡ると、スタジアムは大きく湧く。


『ついに記念すべき第200回目となりました集団武闘(ヴァニッチ)大会ですが、まずは今大会の集団武闘(ヴァニッチ)のルールをご説明いたしましょう!』


空中に水魔法と光魔法を応用したホログラムの戦士が映し出される。


集団武闘(ヴァニッチ)主従紋(ルディン)を結んだ1チームの6人VS6人の総力戦です!』


ホログラムの戦士が赤と青色それぞれ6体ずつに分身する。


『それぞれのチームの主人(ロード)従者(リークス)の中でも、大将となる主人(ロード)一人の仮面の破壊、または降参宣言により勝敗が決まります』


赤色の戦士たちと青色の戦士たちが一斉に動き始める。

ホログラムとは思えない迫力に会場は圧倒される。


集団武闘(ヴァニッチ)は神代の時代から続く聖なる競技!反則は一切なし!技と技、体と体のぶつかり合い!!たとえ死人が出ようとも止まらない集団武闘(ヴァニッチ)をお楽しみください!』


青の戦士が大将である赤の戦士の下面を叩き割り、ホログラムは終了する。

会場のボルテージは最高潮に達していた。



「ねぇ、ヴァルト。すごい歓声だと思わない?」

コロシアムの選手用控え通路で、美しい金髪の女がヴァルトと呼ばれた銀髪の男に話しかける。

しかし男は、手に持つ書物を目を落としてばかりで返事をしない。


「ちょっと聞いてるの?」

サラリとした艶のあるブロンドへアーを後ろ髪にまとめた彼女は、男の読んでいる本を取り上げ頬を膨らます。


「わっ!ごめんアリシア、つい本に夢中になってて…」

「本って…魔術書じゃない。それに【重化の魔法の基礎と実践】って、重力魔法なんてドマイナーな魔法だし…」

「確かに重力魔法は、使う魔力に対してのリターンが少ないと言われているけど、なんとか戦闘に活かせる形を思いつけたところなんだ」

ヴァルトが瞳を輝かせてアリシアに迫る。

「はいはい。ほんとにヴァルトはバカ真面目ね、そろそろ試合の準備をするわよ」

アリシアはヴァルトの言葉を流しつつ、彼の腕を引いて控室へと入る。


「遅いぞ、アリシア」

控室のベンチに大きく足を広げて座っている男が言う。

部屋の中には、自分たち以外のチームメイトの四人が揃っていた。


「あら、すみませんでした。どうしても開会式が見たくて…」

「ふん、我らは第一試合なのだ。緊張感を持ってもらわぬと困るな」

アリシアと同じ髪色をした男は尊大な態度で吐き捨てる。


「カイン様、全員揃ったので作戦会議を行いましょう」

カインの後ろに立つ、褐色の肌と黒髪の男が促す。

「そうだな、シャクメよ。だが、()()()()()()()がまだおらぬようだが?」

カインの発言にアリシアが反応する。


「あら、私の従者(リークス)ならこちらにいるじゃありませんか、ヴァルトが出場してくれますわ」

アリシアはヴァルトの肩に手を載せる。


それに対しカインは露骨に態度を悪くする。

「チッ。悪しき人(ディヴェル)がお仲間とは嫌なもんだ。アリシアよぉ、別の奴にしろって言ったろ?」

カインの発言に部屋内のチームメイトがニヤリとする、アリシアを除いて。


「私のヴァルトは強いですわ、彼以外のパートナーにするなら私は棄権させていただきます。」

「口に気をつけろよ…貴様など、伯爵家の娘という肩書だけの存在なのだからな」

「あら、失礼しました」

部屋の空気が悪くなったところをカインの従者であるシャクメが強引に話し出す。


「知っての通り、今大会は6人VS6人の集団武闘(ヴァニッチ)だ。我々のメンバーは主人(ロード)からカイン様、モバ様、アリシア様。従者(リークス)はこの俺シャクメとリバとヴァルトだ」

シャクメは淡々と説明する。

「大将はこの俺様が担当するからな」

「えぇ、カイン様に大将をお願いいたします。大将の護衛役をモバ様とリバ。前衛を俺とアリシア様とヴァルトで担当する。何か意見のあるものは?」

無論誰も意見などない。


「ではカイン様、総括をお願いします」


シャクメに代わり前に立ったカインが口を開く。

「今回の大会は、決勝戦には王家の人間がお越しになるそうだ。もし王家の目に止めていただければ家督の大きな出世になることは間違いがない。必ず勝つぞ!!」




『それでは第一試合、選手の入場です!』

ウオオオオォォ!!!!

司会の言葉と同時に会場が揺れるほどの歓声が起こる。

『赤陣、チィームマゼンダァァア!!!』

敵チームが先に50メートル四方のフィールドに入る。

キャー、マゼンダ様ー!

背筋を伸ばして歩く、マゼンダと呼ばれた彼は仮面で顔こそ見えないものの、黄色い声援とすらっと伸びた手足から相当な美青年であることがわかる。

また彼を囲むようにして歩く5人もまたきちっと揃えられた赤い戦闘服に見を包み、マゼンダの存在感を際立てている。

チームマゼンダがフィールドの中央に並ぶ。


『青陣、チィームカイィーン!!!』

初戦の敵が圧倒的な人気チームであることに、不運を感じつつも歩き出したシャクメと、カインの後ろについていくようにして歩き出す。


初めは割れんばかりに鳴り響いていた歓声と拍手は、次第にざわめきに変わる。


――――おい、あれって悪しき人(ディヴェル)じゃないのか

――――銀髪に紅の目、あれって呪いの一族のじゃ…


ざわめきは徐々に大きく広がる。


やっぱり来るべきじゃなかった。

ヴァルトが観客を見ないよう下をうつむきながら、フィールドの中央に並ぶ。


「ちょっと!」

ヴァルトの服の裾をくいっとアリシアに引かれる。

「なにそんな顔してるのよ、あなたは何も悪いことはしてないわ」

「でも…」

「でもじゃない!この大会で優勝すれば、あなたへの評価なんてひっくり返るわよ」


「それでは両チームの大将は宣誓を」

黒服の審判に促されカインと敵チームのマゼンダが並び立つ

「「我々、戦士はこの集団武闘(ヴァニッチ)において例え血が流れようと、四肢を失おうと敵将の首を打ち取るまで戦い抜くことを誓います」」


宣誓が終わり、各チームが持ち場につく。

ヴァルトは前衛のため、前を見ると敵の前衛が、後ろを振り向くとモバ様とその従者(リークス)のリバに挟まれたカインが弓を構えている。

ヴァルトも腰に携えた剣を抜剣し構える。


『各チームの準備完了を確認!それでは試合開始ィイ!』

ドォォォォン

銅鑼の音と共に、前衛が駆ける。


敵前衛が横を駆け抜けていくのを横目に、ヴァルトも敵将であるマゼンダのもとへ走り出す。


敵後衛の三人がマゼンダを取り囲むように立ちはだかる。

前衛が三人の攻撃的なヴァルトのチームと違い、守備に重点を置いた敵陣型だ。


ガキィン!

双剣を携えたシャクメが後衛中央の男と接敵する。

「フンッ、なかなかやるじゃないか」

「そりゃ、どーも!」

男はシャクメの手数の多い攻撃を凌いでいることからも、相当な実力の持ち主であることが伺える。


その左隣ではアリシアも、敵と拮抗した剣戟を繰り広げている。


「どこ見てんだ!燃えろ(バーンド)!」

声とともに、火球がヴァルトめがけて放たれる。

ヴァルトは一瞬で後退りする。

さっきまでヴァルトのいた地面には、火球の残り火が見えていた。


「お前の相手は俺だぜぇ悪しき人(ディヴェル)がよぉ」

長髪に長い舌の男が、ヴァルトに剣を向けて立っていた。


「そりゃそりゃ!」

激しい剣突をヴァルトは後退することでやり過ごす。

後衛にしては随分と攻撃的な男だ、前衛として攻めるはずのヴァルトが後退りをさせられている。


「おいおい、さっきから後退りしてばかりじゃないか。

お前は後衛の方が、いや観客席がお似合いなんじゃないかぁ?シャシャシャ」

男は蛇のような笑い声を上げヴァルトを挑発する。


その時。男の後方にいるマゼンダが杖をシャクメの方向へ振り上げる。


「危ないシャクメさん!」

吹き飛べ(ガルーダ)!」

ヴァルトが声を上げると同時に、シャクメにむけて空気弾が放たれる。

「グッ!」

空気団の直撃を受けたシャクメは堪らず吹き飛ばされる。


「テメェは人の心配してる場合か悪しき人(ディヴェル)!」

首筋に悪寒が走り、瞬時に屈むと頭上を剣がかすめる。

ヴァルトはかがんだ状態で身を翻し、魔法を使う。

爆ぜろ(ボムレク)!」

男との間にある空間が爆風を伴い爆ぜる。

「シャーシャー、あぶねえ」

砂埃の中、長髪の男が手に持つ剣に舌を這わせながら近づいてくる。


「総員!一気にケリをつけるぞ!」

マゼンダが会場に響き渡るほどの大きな声で言う。

マゼンダが手につけている白い手袋を外すと、手の甲に六角形の主従紋(ルディン)が現れる。


「六角形の主従紋(ルディン)だと⁉」

シャクメが驚きの声を上げる。

それもそうだ、主従紋(ルディン)従者(リークス)の数だけ画数が増える。

アリシアはヴァルトとしか主従契約を結んでいない。

だからアリシアの主従紋(ルディン)は一本の直線。

通常どんな主人(ロード)でも多くても三本が限界だろう。


「我が従者(リークス)たちよ、受け取れ!魔力強化(ブースト)!!」

敵将マゼンダの手の六角形の主従紋(ルディン)が緑色の閃光を放つ。

その光がマゼンダのチームメイトを覆う。

「こいつら全員、マゼンダの従者(リークス)か!」


「シャシャ!みなぎってきたぜー!!!」

魔力強化(ブースト)を受けた長髪の男がヴァルトに切りかかる。

ガン!

先ほどとは比べ物にならない力だ。

身体強化系の魔力強化(ブースト)か!

男から第二撃、三撃と繰り出される。

ギャイン!キィン!

ヴァルトはなんとか凌ぐ。

「甘いな!」

男は体を捻り、無防備なヴァルトの腹に回し蹴りを食らわせる。

「ぐぁっ!」 

ヴァルトは大きく後ろへ飛ばされる。


「前衛!さっさと終われせてやれ!」


カインめがけて強化された敵前衛二人が切りかかる。

「させないよ!」

モバとリバが腕に装着した腕甲盾(ライトシールド)で二人の剣戟を受ける。

「邪魔だ!」

身体強化された剣撃は小柄な二人の体をそれぞれ吹き飛ばす。

「キャアア!」

「うわぁぁ!」

カインの前にもう阻むものはいない。


「さて大将さんよぉ。俺達は地獄のペアーズ兄弟って言うのさ、覚えて死ねや」

「死ねや!」

敵前衛の二人がカインへ走り出した。


「行くよ、リバ!」

「はい、モバ様!」

カインの後方まで吹き飛ばされた二人は起き上がる。

「頼むわよ、リバ!魔力強化(ブースト)

モバの手の一文字の主従紋(ルディン)が発光する。


カインの目の前まで剣が迫った時

パァン!!

敵二人が、吹き飛ばされる。


『なっ!何が起きたんだぁ⁉敵将に切りかかった二人の剣が砕けてしまったぁ!!!』


「いててて、なんだぁ?」

「生意気だぞ!燃えろ(バーンド)!!!」

火球がカインに放たれる。


「させない!」

パァン!!

カインの眼前まで迫った、火球は進行方向を逆へ転換した。

「「ギャアア!」」


反射魔法(リフレクト)

相手の攻撃を文字通り反射する魔法。

通常は魔力消費が激しすぎるため、集団武闘(ヴァニッチ)で使われることは殆ど無い。しかしモバがリバに魔力を負け与えそれを元手に反射魔法を使ったんだ。

あれがモバ様の魔力強化(ブースト)


「シャクメ!今度はこちらから仕掛けるぞ魔力強化(ブースト)!」

カインの手の甲から光が放たれシャクメを包む。

先程まで押されていたことが嘘のようにシャクメの猛攻が敵を襲う。

双剣から繰り出される連撃に敵はガードすることに必死だ。


「チッ、この悪しき人(ディヴェル)を片付けてさっさと加勢しないとな」

ヴァルトの前に立つ長髪の男が、凄まじい速度の剣撃を繰り出す。

ヴァルトはなんとか回避しているが、相手は身体強化されている。

徐々に凌ぎきれず、傷が増えていく。


このままじゃ…負ける。

ヴァルトの頭に敗北が浮かぶ。

しかし同時に主人(ロード)であるアリシアの顔も浮かんでいた。


俺がここでこいつに負けたら、俺を起用したアリシアに迷惑がかかる。

それだけはだめだ!

一か八かだが、やるしかない!


ヴァルトはバックステップで敵から距離を取る。

しかし身体強化された男はすぐに距離を詰めようとする。


ヴァルトは距離を詰めてくる敵の顔面に腕を伸ばす。

「馬鹿が、切り落としてやる」

長髪の男が剣をひるがえし、無防備に出された腕を切り上げようとする。

「今だ!重くなれ(グラビティ)!!!」 


敵の剣が腕を切り落とさんと迫るより、ヴァルトの手が男の頭をガッチリとつかむほうが早かった

眠れ(ドルミラ)!!!」

ヴァルトの手から、催眠魔法が男に、ゼロ距離で放たれる。

ガランッ。

男は振り上げようとしていた剣を落とし、その場で失神する。


重力魔法は、相手を重みで押しつぶすには魔力が膨大にかかりすぎる。しかし接近戦で、局所的に用いることで相手の反射速度を大幅に遅延させることが可能だった。

だからヴァルトの腕を切り落とそうとした男は、剣を振り上げる腕の重さの変化によりタイムラグが生じ、ヴァルトにゼロ距離の催眠魔法を食らってしまったのである。


『なんと!マゼンダチーム後衛、一人倒れてしまったぞ!』


「なに!」

実況の声に反応して、シャクメと戦闘していた男がヴァルトの方を一瞬確認する。

「どこ見てやがる!孤狼牙!」

その一瞬の隙にシャクメの双剣の突きにより男が、体を貫かれる。

「ガハッ」


ウォォォオオ!!!

シャクメの見事な剣技に観客から歓声が上がる。


「まだだ!」

シャクメは後衛の男を蹴り飛ばしマゼンダに一瞬で距離を詰める。

マゼンダは反応しようとするが、魔力強化(ブースト)により味方全員に魔力を渡した体にそんな余裕はない。

「終わりだ!孤狼牙!」

シャクメの双剣による突きがマゼンダの仮面を皮膚ごと突き破る。


「ああぁぁぁぁ!!!」 

ボタボタボタ!

仮面とマゼンダの顔から大量の血が流れ出る。


『そこまでぇぇぇえ!!!勝者、カインチィーム!!!』




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