水と油の出会い⑦
ところ変わって、校舎裏にて。
怪しげな雰囲気の糸目の女子はため息をつく。
「はあああ。私のかわいいヒトガタちゃん喰べられちゃった……。」
その言葉に対して、チャラそうな見た目の男子は、こめかみをピクピクさせて糸目女子を睨む。
「お前、この作戦は絶対成功するとか言ってたから、俺は2体も契約した妖怪を犠牲にしたんだけど!?失敗してんじゃねえか!」
「あなたの気持ち悪い妖怪なんて、別にどうでもいいわ。どうせ、他にもたくさん契約しているじゃない。」
「…………ひどすぎる……。」
チャラそうな男子は肩を落とす。
男子のことなど一切気にせず、糸目女子は口角を少し上げ、つぶやいた。
「陰陽師は、私がみーんな殺す…!」
……1日後。
私は小会議室でみやびとお弁当を一緒に食べていた。
なぜ小会議室にいるのかというと、、、
「じゃあ、妖魔師なのになーんにも知らない茉莉花ちゃんにいろいろと教えてあげまーす!」
「面目ない……。」
と、いうわけだ。まあ、こんな話クラスではできないわな。
「まず、すごい根本的な話になるんやけど、この世界には2つのエネルギーがあります。1つ目は私達、生きとし生けるものが、全員もつ生命エネルギー。陰陽師の間ではそれを«陽の気»と呼んでいます!」
「はあ。」
「ちなみに、うちらが昨日使ってた光るやつは、その陽の気の1部を身体の外に出して、武器の形にしたものなんや。色はどれくらい陽の気を濃く出しているかによって変わるんよ。濃ければ赤、薄ければ黄色ってとこやな。こればっかりは本人の才能しだいや。」
へー。みやびは黄色、月城がオレンジ、陽道君が月城より若干赤みのあるオレンジだったから、そういうのでも強さが伺えるんだな。
「2つ目は生者が死んだとき放たれる、言うなれば死のエネルギー。それを«陰の気»と呼んでいます。
そして、陰の気と未練のある魂が組み合わさることで妖怪が誕生します。妖怪の強さっていうのは、構成している陰の気がどれくらい多いかで左右されます。」
「つまり、1度に多くの生者が死んだら、強い妖怪が生まれるってこと…?」
「そういうことや!災害が起こったり、大量殺戮みたいな事件が起こったりした場合、かなり強力な妖怪が生まれやすくなるで。」
「なるほど……。」
「陰陽師っていうんは、もともとは占いとかするんが仕事やってんけど、呪術とかいろいろ扱うようになっていくうちに、妖怪を祓うのを任されるようになったんや。」
「じゃあ、妖魔師っていうのはどうして生まれたんだろう?」
「それについては諸説ありって感じで、はっきりとはわかっていない。」
「げっ……」
急に男の声がしたと思ったら、いつの間にか小会議室に、月城がお弁当を持って入ってきていた。
「げっ、とはなんだ!失礼な奴だな。」
「いやぁ…あはは、何でここに?」
「教室のやつらがうるさくてな。ここのほうが幾分マシだ。」
「そうですか……。」
ほんとに喋る度に毒を吐くんだよね。この人。
「ただ、妖魔師っていうのは、才能が必要だ。普通の人間が妖怪と契約すると、身体に陰の気が溜まって、生活に影響がでる。どうなるかわかるか?」
「陰の気すなわち死のエネルギーが身体に溜まるんだから……死ぬ?」
月城は残念でした、と言いたげな憎たらしい顔で笑って言う。
「直接的に死ぬことはない。だが、精神を病んで自傷行動をしたり、他人を殺そうとしたり、最悪、自殺をしてしまう。」
……当たらずとも遠からずじゃないか。
「そうや。妖魔師っていうんは、陰の気を普通の人よりも身体に多く溜め込むことができる人しかなれないんよ。もちろん妖魔師によって、健常なまま溜められる陰の気の量は違うから、その量によって、契約できる妖怪の強さや数は変わってくるんやけどな。」
「そっか。じゃあ、鬼門院が最強の妖魔師家系って言われるのは、陰の気を身体にかなり多く溜め込むことができるからなんだね。…………でも、陽道君って妖怪召喚してなかった?」
「うーーん……それに関してはうちらもよく分からんのよねぇ。彼、あんまり自分のこと話さへんし。」
「ただ、これだけは言えるだろうな。アイツはかなり無理をしているみたいだ。ただでさえあの強い妖怪と契約していて、身体に陰の気が溜まっているだろうに、昨日、召喚までさせてしまっただろ?今日学校には来てないしな。」
……それって結構やばいんじゃないのか?まあ、私にはどうしようもないけど。
「…………あとな、うち、ずっと茉莉花ちゃんに聞きたいことがあったんやけど…、茉莉花ちゃんからはものすごく大きい陰の気を感じるねん。正直、あの白い狐の妖怪としか契約してないんやったらそこまで大きくはならないはずなんや。他にどんな妖怪と契約しとるんや?」
「それは俺も気になっていたんだ。……どうなんだ?」
2人が私をじっと見る。私はポリポリと頭をかいた。
「………うーん。なんか小さい頃に強い妖怪と何かがあって契約した気がするんだけど……、もう名前が思い出せないんだよねぇ……。なんていったって、かなり昔の話だから。」
それを聞いて2人は少しほっとした顔をする。
「なんか、二階堂らしいな。」
「ちょっと!それ、けなしてるんだよね!?」
小会議室のなかで少し笑いが生まれた瞬間だった。
時間はとんで、帰宅途中。
「……嘘つきですね。」
横からハクの声がする。
「昼休みの話、盗み聞きしてたんだ。」
「はい。まさか、あの妖怪の名前を忘れただなんて、有り得ませんね。」
「まあね。でも、あの妖怪と契約してることは他人に知られたくないし。」
「……そうですか。」
そもそもあの妖怪を、召喚なんてしたくない。召喚する日なんて来ないだろうし。
私は眩しい西日を見ながら、はあ、とため息をついた。