水と油の出会い⑥
黒い手の影がたくさん集まり、3mのヒトガタ妖怪を形成した。カエル人間や馬の生首とは格が違うのがビンビンに伝わってくる。
黒いヒトガタは大きな黒い手を月城と陽道君に向けて振り回す。
2人はそれぞれの武器で黒い手を切り落とすが、切り落とされてもすぐに手は生えてきてキリがない。
私はみやびに聞いた。
「なんで切られても再生すんの!?」
「妖怪の核となる魂を切れてへんからや!たぶん、あのヒトガタの中心部に魂があるんやろうけど、スキがあらへん!うちも戦いに参加したいんやけど、2人みたいに攻撃型やないし…」
どうすればいいんだ、私は。
とりあえずハクを呼ぶか。
「ハク!」
鬼火があらわれ、中から白い狐が出てくる。
「なんですか、茉莉花様……っていうか、どういう状況ですか!?」
「これが茉莉花ちゃんの契約した妖怪なんや。」
みやびが目をパチクリさせる。
「そう。ねえ、ハク、なんとかしてあの妖怪のスキをつくれない?」
「まさか、あの黒いヒトガタのことですか!?無理に決まってるじゃないですか!」
この妖怪は主人のためになんとか頑張ってみようという気持ちを持たないのか。
「……。」
「ちょっと!その失望したみたいな顔やめてください!」
「みやびごめん、役に立てなさそうだわ。」
「き、気にせんでええで!」
はあ。ほんとに鬼門院を名乗るの申し訳ないレベルだわ。
しかし、戦況はだんだんと悪化していく。
2人の疲労も溜まっていき、動きが鈍くなっているように見える。
そして、月城が少しよろけてしまった。
そのときを待っていたかのように黒いヒトガタは月城を殴りつけた。
「うっ……」
「誠也!!」
陽道君が叫ぶ。
月城の身体は吹っ飛ばされ、屋上から落ちかける。
「誠也!つかまって!」
みやびが2人のように手から光るものを出した。黄色い鎖だ。それを急いで誠也の方に投げ、間一髪のところで誠也がそれをつかんだ。
ほっ、と胸を撫で下ろしたのもつかの間、鎖を投げたことで今まで黒いヒトガタに注目されていなかったみやびもヒトガタの視界に入ってしまう。
……絶体絶命というやつだ。
みやびのところへ黒いヒトガタの手が伸びる。
「……はあ、しょうがないか。」
陽道君がつぶやく。そしてはっきりと言った。
「来い!山喰童子!」
すると、大きな鬼火があらわれ、中からおかっぱの少女がでてきた。
……っておいおい。
「ハク、陰陽師って妖怪召喚できんの?」
「普通できないですよ……。しかも、彼、あのヒトガタよりも強い妖怪を召喚してます…。」
陽道君……何者なんだ。
というか、陰陽師も妖怪召喚しだしたら、私達妖魔師の立場ないじゃん。
そしてハクの言う通り、山喰童子は恐ろしいほど強かった。
ヒトガタの黒い手など、まるで赤子の手のように軽々と払い除ける。さらにヒトガタの身体にしがみつき、ガツガツと喰い始めた。
「……。」
とんでもない映像すぎて、みんな誰も喋らない。
そうして、5分も経たないうちにヒトガタは喰べ尽くされてしまった。