水と油の出会い②
転校生の紹介が終わって2時間後。クラスのほとんどの人が部活に行ったり、帰ったりしたために、2年9組の教室は転校生の3人だけになっていた。
「はあ、都会の学校はやかましい奴らが多い。男子はやたら馴れ馴れしいし、女子は声が甲高い。」
眼鏡男子こと誠也がうんざりした顔でため息をつく。
それに対しぱっつん美人のみやびがやんわりとなだめる。
「ええやん!横浜の子達とはいい友達になれそうや。うちはこの学校気に入ったで〜。それに、どうせうちらは任務が終わればすぐに帰れるんやから。」
「お前は京都という都会から来たんだからあんまり環境が変わらないんだろうが、俺は長野県の山奥の村から来たんだよ!今すぐにでも帰りたいよ。」
「そんなことより。」
黒髪イケメンの潤が険しい顔で2人を見る。
「放課後すぐに帰った女子について何かわかったか。」
「あー。呼び止めたけど、間に合わなかった子だな?二階堂茉莉花とかいう。」
「あの子の禍々しいオーラはそんじょそこらの妖魔師のレベルやないで。うち、あの子が前を通り過ぎた瞬間、鳥肌がたったもん。」
誠也は眼鏡をくいっと上げてメモ帳を取り出した。
「このクラスの何人かにいろいろと聞いてはみたんだが、帰宅部だーとか、徒歩通学だーとか、大したことない情報しか集まらなかったよ。
そもそも彼女自身あまり人と関わるのが好きではないらしい。」
「そうか。引き続き情報を集めるしかないか。」
ピロンピロン♪
みやびのカバンの中からスマホのチャットの通知音がなる。
「あ、ちょっと待って!友達からメールが来たわ!その子の友達が二階堂さんと同じ中学らしくて、いろいろ聞いてみるよう頼んでおいたんよ!」
「はあ、もう連絡先とか交換してんのか。すごいな、百寺のコミュニケーション能力は。」
誠也がそう言った瞬間だった。
みやびの目が大きく開く。
「…どうした?」
潤が怪訝そうな面持ちでみやびを見る。
「……二階堂さん、今の名字は母親の旧姓らしくて、中学のときの名字は鬼門院だったんだって…。」
妖魔師。妖怪と契約をかわすことで、その妖怪をいつでも召喚できる者。妖怪を利用して、多くの犯罪に手を染めているといわれる。
そして全国にいる妖魔師の中でも、鬼門院家は……最強の家系であった。
その言葉に誠也と潤も驚いて何も言えなくなる。
しばらくの沈黙の後、潤が口を開く。
「しばらく彼女の動向を監視をして、様子を見る。何か怪しい動きがあればすぐに殺す。わかったな。」
「同感だな。」
誠也は頷く。
「なんか、物騒やな…でも、陰陽師やってる以上そうせなあかんな。」
そう。この転校生達は陰陽師である。陰陽師は妖怪を祓うことが仕事だ。妖怪を召喚する妖魔師とはいつの時代も犬猿の仲、水と油であった。
「へ、へっ、、へっくしゅん!」
誰かが噂しているのかしら。そう思いながら茉莉花は鼻をこする。
私は普通の高校2年生だ。まあ、特技というのか?妖怪を召喚するという変なことはできるのだが。しかしそんな特技は誰にも言えないし。というか、ほとんどの人は妖怪が見えない。
「ハク!」
茉莉花がそう言うと、鬼火が現れ、中から白い狐が出てくる。
「なんでしょうか、茉莉花様。」
「ちょっとさ、今からダッシュでスーパーのタイムセールまだやってるか見てきてくんない?」
「はあー……また雑用ですか。扱い雑すぎません?」
「おねがいね!」
「はあー……」
ハクはぶつぶついいながらスーパーに向かっていた。いやあ、ほんといい相棒だよきみは。
そう。私は日本最強の妖魔師家系の鬼門院の血筋ではあるが、こんな感じのことにしか妖怪を利用してない。ご先祖さまは呆れてるだろう。
でもこのなんにもない平和な日々が私は好きなのだ。