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第70話 すがすがしい気持ち

 両手の指先から放たれた10本の稲妻が、周辺にいた兵士達やゴストーを貫き、地面に突き立てられた剣に吸収されてゆく。


 それは、ほんの一瞬の出来事。


 しかし、ゴストー達にとっては致命的な一撃だったことは言うまでもない。


「っが……」


 白目をむいてバタバタと倒れてゆくゴストー達。


 そんな彼らを見た俺は、思わず呟いていた。


「……やりすぎた」


 予想以上に威力が強すぎたその魔法は、説明するまでもない、雷魔法だ。


 なぜ俺が雷魔法を使えるのか、簡単に説明すれば、この一週間程度で修行と魔法の開発を行なったというしかないだろう。


 そもそもの話なのだが、今までに師匠達から聞いてきた魔法の中に、雷魔法は存在していなかった。


 なんでも、そんな魔法を使える奴は、聞いたことがない。とのことだ。


 しかし、雷自体はこの世界でも発生する現象らしく、その話を聞いた時、俺は確信したのだ。


 自然現象として存在するのなら、魔法で再現可能なはずだ、と。


 そうして試行錯誤を行う中で、俺はとあることをひらめいた。


 電流とは電子の移動によって発生するもの。


 だとするなら、ジップラインに電子を乗せることができれば、雷を操れるのではないか。


 しかし、そう簡単に実現できるわけもない。


 とはいえ、そう易々とあきらめるわけにはいかない事情が俺にはあった。


 今の俺には決定打となる技や魔法が、殆ど無いのだ。


 ハウンズもモノポリーも、あらゆる面で俺たちよりも強い。このあたりで、対抗できるものを見つけないと、いずれ負けてしまうだろう。


 そうして、自分を追い込んだ俺が見つけたのは、もう一つのひらめき。


 それは熱伝達。特に、固体が熱を伝達する原理についてだ。


 高温部分の分子や原子は振動しており、その振動にぶつかった隣の分子や原子も、振動を始める。


 そうやって熱が伝えられていく。


 おぼろげに覚えていた前世の記憶を頼りに、俺はイメージを固めた。


 つまり、電子という小さなものをまずは熱魔法で動かし、動き出した電子をジップラインに乗せる。


 若干荒業のようにも思えるそのやり方が、案外うまくいったのだ。


「威力をコントロールできないのが、玉に瑕だな」


「……これ、全員死んじゃってるんじゃない?」


「……一応、これを持ってきておいて良かったな」


 倒れたきり、微動だにしない兵士たちを見渡した俺は、おもむろにポケットから小さな包みを取り出す。


 中身はヴィヴィの羽と涙の入った小瓶だ。


 なんでも、羽にヴィヴィの唾液や涙をしみこませており、傷口などにこすりつけると癒しの効果があるらしい。


 その羽を3枚だけ取り出した俺は、近くで腰を抜かしている兵士に残りの羽を手渡した。


 運よく雷撃を免れて茫然と俺たちの様子を伺っていたその兵士は、手にした羽と俺を見比べて困惑を示す。


「治療してやってくれ。それがあれば、全員助かるかもしれない。けど、大切に使えよ? 涙に関しては、それだけしかないからな」


 それだけ言い残した俺は、駆け足で近寄ってくるドワイトに目配せをして、城門を見上げた。


「矢の攻撃が止まったな」

「そりゃあ、あんなのを見せられたら、ビビるだろ。さすがのオレッチもチビりそうになったぜ……けどまぁ、良い目立ち具合なんじゃねぇか?」


 静けさに包まれている東門を見上げて告げる俺を、リノが呆れたように揶揄する。


 確かに。救出班の動きをカモフラージュする目的を達成するには、さっきの雷魔法は最適なのかもしれない。


「じゃあ、もう一発ぶっぱなしに行くか。どうせなら、高い場所の方が目立つよな?」


「ふっ」


 俺の言葉に珍しく小さな笑みをこぼして見せたドワイト。


 彼と視線を交わした俺は、無言のまま上昇を開始した。ドワイト達も俺に続くように上昇を始める。


 スーッと音もなく東門の上まで上がった俺達は、城壁の上でこちらを見上げてくる兵士たちを見下ろして、口を開いた。


「おい! お前ら! よ~く聞けぇ! 今からさっきの雷魔法で、その東門を破壊する! 死にたくない奴は、すぐに離れろ! 20秒だ! 20! 19! 18!」


 両腕を大きく広げて叫んだ俺は、ゆっくりと城壁に近づきながらカウントを始めた。


 そのカウントを聞いた兵士たちは、一瞬、全ての行動を停止した。


 おそらく、体の全機能を頭に集中させて、考えたのだろう。


 そして、思考の速いものから、動き始める。


 まるで蜘蛛の子を散らすように逃走を始めた兵士たちは、階下へと続く階段の入り口に群がりだした。


「効果てきめんね……」


 俺の頭の上に座ったシエルが、ぼそりと呟く。


「15! 14! 13! 12!」


 城門の上にいた兵士たちの姿が見えなくなっても、俺はカウントをやめなかった。


 今はとにかく、混乱をあおった方がいい。


 そう思い、カウントを続けながらも、城壁の上に降り立った俺達は、眼下に広がるゼネヒットの街を見下ろした。


「7! 6! 5! ……そろそろ良いか」


「そうだな。今のところ、接近する敵の姿は確認できん」


「で? こっからどうするんだっけ オレッチは何をすればいい?」


「リノとドワイトは、ここに上がって来れる階段を全部潰す役割でしょ? もう忘れたわけ?」


「オレッチは今を生きる男だからよ! そんな古いこと、覚えてられねぇんだ!」


「それくらいは覚えてなさいよ! ったく、あんた本当にドワイトのバディなの?」


「シエル、それくらいにしとけって。それよりドワイトさん。そっちは頼みました」


「あぁ。任せておけ」


 軽くうなずいて見せたドワイトは、シエルに対して威嚇しているリノをわきに抱えて、歩き出した。


 向かう先にあるのは、小型の大砲のようだ。おそらく、それを使って階段を破壊するのだろう。


「ドワイトさんって、何でもできるよな……奴隷になる前は何してたんだろ」


「ニッシュ、今はそんなこと気にしてる場合じゃないでしょ?」


「そうだった」


 シエルに促された俺は、気を取り直すと、眼下に見える街の灯を眺めながら、城壁のふちに仁王立ちする。


 早朝のさわやかな風を頬に感じながら、大きく深呼吸をした俺は、さらに大きく息を吸い込むと、いまだかつてないほどの大声で、叫んだ。


「バァーバリウスゥー! 出てこぉい! こんの臆病者がぁ! お前は部下にばっかり働かせて、何もできない木偶の坊なのかぁ!? 俺と勝負しろぉ!」


 薄闇に沈んでいるゼネヒットの街に、俺の声が響き渡る。


 街の奥の方まで、あらゆる場所で明かりが灯り始め、多くの人の目が、俺たちのいる東門に集まりだしていた。


 そんな様子を見下ろしていた俺は、ふぅと息を吐くと、小さく呟く。


「すっきりしたぜ」


「あんたねぇ……まぁ、注目は集めたみたいだけど」


 呆れたように呟くシエルの声を聴きながら、俺はすがすがしい気持ちで笑ったのだった。

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