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第48話 重大な脅威

 鋭い眼光を飛ばしてくる三人の刺客達は、俺やドワイトを警戒しながらも、攻撃の機会を伺っている。


 この状況でも攻撃を続行しようとすることに、俺は内心驚いていた。


 てっきり、逃げ出そうとするのかと思っていたのだ。


「何か目的があるって事か?」


「ニッシュ、もう一人にも注意して!」


 眼前の四人を睨みながら呟いた俺に、シエルが囁きかけてくる。


 彼女の言葉を受けて、チラッと左の方を見やった俺は、先ほど吹っ飛んで行ったはずの刺客が、ゆっくりと立ち上がる姿を目撃した。


 流石に無傷と言うわけでは無いらしく、少し足元をふらつかせている刺客だったが、即座に俺達の方を振り向くと、身構えながら近づいて来る。


「どんだけタフなんだよ……」


 驚きというよりは面倒くささを感じた俺は、にじり寄って来る刺客の姿を目にして、納得した。


 刺客の右肩から腰にかけて、ゴツゴツとした巨大な鱗のような物が、張り付いているのだ。


「あれは……バディみたいね」


「は? あれがバディなのか!?」


 亜人の一種なのかと考えていた俺の思考を訂正するように、シエルが告げる。


 本当にあの鱗のような物がバディなのだとしたら、膝蹴りを受けた直後、刺客の右半身に張り付いて、吹っ飛んだ衝撃を打ち消したと言う事だろうか。


 と、緊迫している状況なのにも関わらず、思わず考え込んでしまった俺の隙を突くように、眼前の刺客達が動き出す。


 再び魔法を発動しようとする後衛の刺客を補助するように、前衛の三人が俺たちに向かって突っ込んできた。


 三人の内二人は、犬型のバディと共に、ドワイト達に向けて飛び掛かってゆく。


 その様子を視界の端で捉えながらも、俺は一人向かってきた刺客に意識を集中した。


 向かって来る刺客のバディは鳥型で、常に刺客の斜め後ろを位置取り、俺の動きを観察してくる。


 ナイフを突きつけながら走り込んでくる刺客に対して、先ほどと同じようにトルネードジップを発動しようとした俺は、発動の直前で思いとどまる。


 腹部目掛けて突きだされたナイフを、俺はギリギリで右に躱し、流れるように刺客の腕を掴む。


 躱した時の回転運動を利用して刺客を引っ張った俺は、振り向きざまに放り投げた。


 そのまま魔法を発動しようとしている刺客にぶつけてやろうという魂胆だったが、そう上手くはいかない。


 鳥型のバディが刺客の肩を掴んだことで軌道修正をしたのだろう。


 投げられた刺客は不自然な軌道を描きながら、後衛の刺客のすぐ隣に着地する。


 かと思えば、再び俺に向かって突っ込んできた。


「魔法か! ならこっちも魔法だ!」


 直線的に突っ込んでくる刺客に、真っ向から突進を仕掛けた俺は、大きく前に飛び出すと、右手を前に突き出す。


 頭の中でイメージしたラインが、一直線に刺客のこめかみに向かって伸びた事を、俺は確認する。


 と同時に、握った拳をラインに乗せ、勢いのまま攻撃を打ち込もうと魔法を発動した俺は、予想外の光景を目の当たりにする。


 伸ばしていたラインが、一陣の風によってかき消されてしまったのだ。


 その瞬間、ピンと張られた線が切れてしまったかのように、描いていたラインはあらぬ方向へと大きく弾けてしまう。


「なっ!?」


 既にラインに乗っていた俺の右腕は、デタラメな動きで俺を引っ張ったかと思うと、唐突に解放される。


 一秒にも満たない時間だが、それだけでも充分だったのだろう。


 右腕を大きく振り上げて、後ろに倒れ込みそうになっている俺は、背後から掛けて来る何者かの足音を耳にする。


「くっそぉっ!!」


 体勢を崩しかけている状態で俺にできることはと言えば、せいぜい地面を蹴って、少しでもその場を離脱することくらいだ。


 若干地面に足が付いている右足のつま先に、思い切り力を込める。


 途端、俺は右の脇腹に痛みを感じたのと同時に、左側に生い茂っている茂みへと吹っ飛んで行った。


 細かな枝や硬い石が、転がる俺の身体を痛めつけて行く。


 ただ、その痛みに悶えている暇は無い。


「ニッシュ! 避けて!」


 視界が右往左往する中、叫ぶシエルの声を聞いた俺は、左手が地面に付いた瞬間、魔法を発動した。


 この魔法は、ジップラインとは違うものだ。


 掌から強烈な衝撃波を生み出す、簡易的な魔法で、俺はポイントジップと呼んでいる。


 と、そんなことを考えている余裕があるわけもなく、魔法の反動で更に大きく跳ね上がった俺は、空中に上がったことにより視界の確保に成功する。


 が、あまり嬉しい状況では無さそうだ。


 頭から落下している先には、右半身に鱗のバディを纏った刺客が居て、俺を待ち構えている。


 さらにその奥では、刺客達の攻撃にドワイト達が苦戦を強いられている。


 このままではヤバいという考えが俺の頭の中を駆け巡ったその時、更に状況が悪化する。


 今の今まで腕を前に伸ばしたまま魔法を発動しようとしていた刺客が、ゆっくりと腕を降ろしたのだ。


 それと同時に、洞穴の入口を塞いでいたバリケードから、火の手が上がった。


 目の前で繰り広げられるそれらの光景を前にして、俺は鳴りを潜めていた感情が、胃の底で小さく泡立ったことに気づく。


 洞穴の中には母さんや子供達、皆が居るのだ。


 燃えるものが無いため、炎が洞穴の中まで燃え広がることは無いと思うが、熱や煙はどうだ?


 少し考えただけでも、それが重大な脅威であることを、俺はすぐに認識した。


「やめろぉぉぉ!」


 右腕を大きく振りながらジップラインを描いた俺は、間髪入れずに右の拳をラインに重ねる。


 激しい衝撃と共に、洞穴の方へと軌道を変えた俺の身体は、しかし、途中で勢いを失った。


 先ほどと同じように、鳥型のバディが妨害してきたのだろう。


「くそっ!」


 凄まじい勢いで、再度、自然落下を始めた俺は、地面と鱗の刺客がすぐ傍まで来ていることを見て取る。


 猶予は無い。こうなれば出来ることをやるしかない。


 半ば焦りを感じていた俺は、両腕を大きく振り回しながら、手当たり次第にジップラインを放った。


 周囲の木々や岩など、目につくものを巻き込む形で張り巡らされたジップライン。


 俺はその様子を確認する暇もなく、胸の前で両腕をクロスしたまま、魔法を発動する。と同時に、俺は背中から地面に衝突した。


 激しい衝撃が体を駆け巡り、次第に痛みへと変貌を遂げる。


 しかし、荒れ狂う周囲の様子を目にした俺は、痛みに悶えている余裕は無かった。


 俺のジップラインに触れた木々や岩が、猛烈な風にもぎ取られたかのように飛び交い始めていたのだ。


 まるで猛烈な台風の只中にいるように感じた俺は、デタラメに飛んでくる木々や岩を何とか躱しながらも、洞穴の方へと駆け出す。


 途中、前から飛んで来た木の幹をポイントジップで弾き飛ばした俺は、ようやく洞穴の前までたどり着いたのだった。

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