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第268話 空の攻防

 視界が光に包まれた瞬間、俺は光魔法を発動していた。


 そのおかげか、一直線に突っ込んでくるフィリップの姿を、ギリギリ目で追うことに成功する。


 思考と反射を、極限まで光魔法で速めた俺は、躊躇いなく振るわれるフィリップの斬撃をしゃがんで躱した。


 しかし、流石は魔法騎士団長にまで上り詰めた男。


 一撃を躱されたくらいで止まるようなことは無い。


 しゃがんだ直後、鳩尾に深々と蹴りを喰らった俺は、痛みと空気を吐き出して、背中から壁に衝突した。


「かはっ」


『ニッシュ!! 避けて!!』


 痛みと苦しみが全身を駆け巡っている最中でも、シエルの声は脳内に響き渡る。


 そんな声に反射的に従った俺は、右に飛び退くと同時に床を転がった。


 ところが、俺の回避行動はあまり意味を為さなかったらしく、次の瞬間には、頭上に強烈な気配を感じる。


 再び反射的に、ポイントジップで床を叩いて逃げようとする俺だったが、上手く行かなかった。


 瞬きをするその一瞬で、俺の胸元を踏みつけたフィリップは、そのまま俺の身動きを封じる。


 仰向けのまま、床に固定されてしまった俺は、両手で握った剣を俺に突き立てようとするフィリップを目の当たりにした。


「くっ!! 足を退けろ!!」


 胸元に乗せられているフィリップの足を、力任せに殴ってみるが、ビクともしない。


 そうこうしているうちに、俺の頭に狙いを定めたフィリップの剣が、勢いよく振り下ろされる。


 しかし、その剣の切っ先が俺の頭を貫くことは無かった。


 勢いよく剣を振り下ろしたフィリップの全身から、無数の蝶が沸き上がったのだ。


 まるで、花吹雪のように舞い上がった蝶の群れが、フィリップの視界を奪う。


 流石のフィリップも、突然現れたそれらの蝶を前に、ひるまずにはいられなかったらしい。


 俺の胸を踏みつけるフィリップの足が、僅かに持ち上がったのを見逃さなかった俺は、すかさずポイントジップを発動した。


「どけっ!!」


 右手でフィリップの足に、左手で床に触れた俺は、ポイントジップの反動を利用して拘束から逃れることに成功する。


 すぐさま立ち上がり、体勢を整えた俺は、蝶の群れから逃れたフィリップが間髪入れずに突っ込んでくるのを迎え撃った。


 縦横無尽に振り抜かれるフィリップの斬撃を、ギリギリのところで躱す。


 それでも止むことのない斬撃の嵐は、俺の精神をすり減らすのに十分だった。


 しかし、フィリップの攻勢もそう長くは続かない。


 突如として、俺とフィリップの攻防に割り込んで来た男達が居たのだ。


「ほらほら、こっちだよ~」


「おい、こっちだって!!」


「どうした? 腕が鈍ってるんじゃないか?」


「魔法騎士団団長が、情けないなぁ」


 口々に煽り文句を垂れ流しながら、フィリップに向かって飛び掛かってゆく俺達。


 武器も持たずに飛び掛かる彼らは、当然ながらフィリップに両断されるわけだが、決して血しぶきが舞うことは無い。


 代わりに舞うのは、無数の蝶達だ。


 言うまでもなく、突如として姿を現したのは、ヴァンデンスが作った俺の分身だろう。


 フィリップに切られては、再び姿を現し、もう一度フィリップに飛び掛かってゆく。


 そんな俺の分身たちに紛れた俺は、攻勢に転じることにした。


 なんとしてでも、フィリップには眠っててもらわないといけない。


 そう思い、フィリップの周囲を駆け回った俺は、思考を巡らせた。


 このままフィリップをかく乱し続けて疲れさせれば、何とかもう一度眠らせることができるんじゃないか。


 次第に防戦一方になりつつあるフィリップの様子を見て、そんなことを考えた俺は、しかし、その考えが甘かったことを思い知らされる。


 唐突に、フィリップが一瞬だけまばゆい光を放ったのだ。


 彼の全身から放たれるその光を目にしてしまった俺は、一瞬、目を逸らしてしまう。


 それがダメだったのだろう。


 次の瞬間には視界を取り戻した俺は、フィリップがすぐ目の前に迫っていることに気が付いた。


 咄嗟に大きく後ろに飛び退こうとした俺の首根っこを、フィリップが力強く掴む。


 そんな俺に助け舟を出そうとするように、周囲にいた俺の分身たちが駆け寄ってこようとした瞬間。


 フィリップは俺の首根っこを掴んだまま、勢いよく跳び上がった。


 あまりにも勢いが付きすぎているせいで、謁見の間の天井を突き破った俺達は、そのまま空にまで上昇してゆく。


 見る見るうちに王城が小さくなってゆき、王都全体までもが小さく見える。


 これ以上はヤバいと感じた俺は、全身を使って藻掻き、なんとかフィリップの腕から抜け出すことに成功する。


 そうして、落下を始めた俺に、フィリップは改めて攻撃を始めた。


 空中でバランスが取れない中、ジップラインやポイントジップを駆使して、斬撃を躱す。


 耳元をつんざく風切音が、落下によるものなのか、フィリップの斬撃によるものなのか分からない。


 傍から見れば、2つの光が王都の上空で何度もぶつかり合っているように見えているだろう。


 何度も攻防を繰り返すうちに、拳や脚で反撃を繰り出す余裕を感じ始めたころ。


 フィリップが唐突に、目で追えない程の突きを繰り出してきた。


 あまりに速いその突きを、避けきれなかった俺は、左肩で受けてしまう。


 空に鮮血が飛び散り、痛みが俺の脳天を貫いた。


「がぁ!!」


 痛みのあまり、声を漏らした俺は、堪えるために歯を食いしばりながら右腕を伸ばす。


 そうして、左肩を剣でほじくられた状態のままフィリップの首根っこを掴んだ俺は、半ばヤケクソで叫んだ。


「これでおあいこだ!!」


 直後、空気をつんざくような轟音が、王都の上空に鳴り響く。


 全力で放った俺の雷魔法が、フィリップを貫通して空気を振動させる。


 流石のフィリップでも、雷に撃たれればただでは済まないだろう。


 俺の思惑通り、がはっと息を漏らしたフィリップは、力なく落下し始める。


 そんな彼と同じ速度で落下し始めた俺は、左肩に深々と突き刺さっている剣を抜き取った。


 苦痛が、左肩から全身に広がる。


 それらと引き換えに、赤い鮮血が傷口から大空へと舞い上がっていた。


「これは……ヤバいかも」


『ちょっと、ニッシュ!! やばいわよ!! このままじゃ、王城の屋根に衝突するわ!!』


「分かってる!!」


 痛む左肩を右腕で押さえながら叫んだ俺は、ぐるぐると回転する視界の中でフィリップを捉えると、右腕を前に突き出した。


 そうして、フィリップに向かって伸びるラインを描いた俺は、ジップラインを発動する。


 直後、バランスを崩していた俺の身体は、ラインに引っ張られることで安定を取り戻した。


 そのまま、フィリップの元にたどり着いた俺は、彼を両足でキャッチしながら、王城の屋根に向かって落下する。


 とはいえ、左手も動かせず、足で大人を抱える俺が安全に着地できるわけもない。


 着地と同時に激しくバランスを崩した俺達は、勢いよく王城の屋根の上を転がったのだった。

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