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第267話 視線の先

 胸を張って得意げに、宣言を終えた瞬間。ドンッという鈍い音が部屋中に響き渡った。


 その音と共に、バーバリウスに目掛けて飛び出していったのは、アーゼンのバディであるロウだ。


「いつまで話してんだぁ!! 早く戦おうぜぇ!!」


 まさしく戦闘狂とも言える彼のセリフを聞いた俺は、思わず呟きながらも、一歩を踏み出す。


「締まらねぇなぁ」


『ロウだからね、仕方ないわよ』


 頭の中で呟くシエルも、ロウの行動にすっかり諦念を抱いているらしい。


 単独で敵の中に突っ込んでゆくロウの後を追うために、右足で床を蹴った俺は、一直線でバーバリウスを目指す。


 そんな俺の狙いを察知したのか、早速ヘルハウンズの面々が動いた。


 先頭で突っ込んでいったロウの相手は、完全にカトリーヌ一人が担当している。


 巨大なハンマーを豪快に振り回すことで、ロウの動きを妨げているその姿は、かなりの手練れに見える。


 流石に加勢をするべきかと一瞬迷った俺は、しかし、俺を追い越してゆく男の背中を見て、加勢は必要ないと判断する。


「少年、あのお嬢さんの相手はおじさんに任せておきたまえ!!」


 意気揚々と駆けてゆくヴァンデンスと戦闘に酔いしれているらしいロウ。


 そんな2人なら大丈夫だろう。そう思い、脇を通り過ぎた俺に向かって、ライト兄弟が飛び掛かってきた。


 互いに何度も交差しながら飛び込んで来た彼らは、凶悪なまでに鋭い針で、俺の胴体を貫こうとする。


 しかし、彼らの攻撃はアーゼンとクリュエルによって妨害される。


「てめぇらの相手は、俺達がするぜ!!」


「ウィーニッシュ、先に行け!! この兄弟は私らが片づけておく!!」


「任せた!!」


「行かせるわけないでしょ!!」


 唐突に会話に割り込んできたのは、ピンクの鞭を振り回すマルグリッドだ。


 彼女は、ライト兄弟の攻撃から逃れた俺に目掛けて、2本の鞭を打ち付けようとする。


 鞭が空を切る音を耳にした俺は、咄嗟に跳躍して避けようとするが、その必要はないことにすぐ気が付いた。


 と言うのも、まるで鞭の軌道をあらかじめ知っていたかのように、カーズが俺とマルグリッドの間に割って入って来たのだ。


 彼はサソリの尻尾を器用に使って鞭を弾き返すと、こちらを見ずに告げた。


「こいつには借りがある。俺達に任せろ」


「俺達?」


 走りながらカーズに問いかけようとした俺は、直後、すぐ隣をゲイリーが走っていることに気が付いた。


 フードを深々とかぶっている彼は、まるで俺の盾になるように、マルグリッドからの射線上を走っている。


『全然気づかなかったわ』


『俺も』


 あまりに驚きすぎたせいで、何も返事をすることができない俺に対し、ゲイリーは何も告げることなくマルグリッドの方へと駆けてゆく。


「あの2人は、案外気が合うのかもな」


 呑気にそんなことを呟いた俺に、頭上から声が降りかかる。


「油断しすぎ!!」


「!?」


 突然のことで反応できなかった俺は、勢いよく左に押し飛ばされた。


 ゴロゴロと床を転がることで勢いを殺した俺は、何事かと視線を上げる。


 すると、先ほどまで俺が走っていた辺りで、槍を持った男とジャックが鍔迫り合っていたのだ。


 そんな2人の頭上に急降下したアンナが、槍の男に向けて剣を振り下ろす。


 しかし、そんな彼女の斬撃も、そしてジャックの剣も、槍の男は華麗に捌いてしまった。


 直後、槍の男の姿がスーッと空気に溶け込んでしまう。


「マジか!!」


 思わず叫んだ俺は、急いでその場に立ち上がり、周囲に警戒をした。


 間違いなく、槍の男は俺に奇襲を仕掛けてくる。


 これでは、バーバリウスのところまで行くのが困難になるかもしれない。


 そう思った俺は、しかし、ジャックの声を聞いて、それが杞憂だったことを知る。


「アラン、もう一度だ!!」


 ジャックがそう叫ぶと同時に、アランが大きな口を開けて細かな光の弾を放射し始めた。


 その光の弾は、まるでシャボン玉のように宙を舞いながら、部屋に充満し始める。


 すると、それらの光の弾のうち、幾つかがグニャリと大きな歪みを見せた。


 直後、その歪みを見つけたらしいアンナとジャックが、俺に向かって叫ぶ。


「ウィーニッシュ、こいつは私達に任せて先に行け!!」


「そうよ! すぐに片づけて、加勢に向かうから、行きなさい!!」


「悪い、助かる!!」


 透明化の対策をジャックが持っているとは思わなかった俺は、感謝を口にしてすぐに走り出した。


 残っている敵は、バーバリウスと小さな少女だけだ。


 出来れば、少女に危害を加えたくはないが、万が一のことを考えると、確実に無力化するべきだろう。


 そう考えた俺が、バーバリウスの傍に立っている少女に目を向けた時。


 ほぼ同時に、少女が両腕を前に突き出した。


 そして、その両手から、激しく燃え盛る業火が放たれる。


 まるで、部屋全体を燃やし尽くしてしまいそうな程のその炎に、俺は一瞬焦りを覚えた。


 しかし、次の瞬間には、またもやその焦りが杞憂であったと知る。


「私に炎魔法は効きませんのよ!!」


 そう叫んだメアリーが、全身から冷気を漂わせながら少女の前に躍り出る。


 ふさふさとしたキツネの尻尾と耳を持っている彼女は、まるで少女の発する業火を包み込むように、冷気を展開し始めた。


「くっ!!」


「まだまだですわ!!」


 そう言って更に冷気を強めるメアリーを見た俺は、不意に嫌な予感を覚えた。


 何故、嫌な予感を覚えたのか。


 理由は簡単だ。


 歯を食いしばって炎魔法を発動している少女の隣で、バーバリウスが不敵な笑みを浮かべたのだ。


 奴が、魔法でメアリーに攻撃を仕掛けるかもしれない。


 即座にそんなことを考えた俺は、直後、それが間違いであることに気が付く。


 バーバリウスの視線が、メアリーにも、俺にも、そして足元にいる少女にも向いていないのだ。


『何を見ている?』


 思わず足を止めた俺は、バーバリウスの視線の先に目を向けた。


 そこにあったのは、謁見の間の天井に浮かぶ、黄色い塊。


 説明するまでもなく、その黄色い塊はシェミーのことで、今はフィリップを拘束しているところだ。


 その上、ラックの力でフィリップには眠ってもらっている。


 この状況で、フィリップの拘束が解かれることは無い。


 そう思い込んでいた俺は、シェミーに埋もれているフィリップのすぐ傍に、真っ黒な何かがスーッと姿を現したことに気が付いた。


 それは、鷹の姿をしたバディ、バステル。説明するまでもなくバーバリウスのバディだ。


 完全にその存在を忘れてしまっていた俺は、歯を食いしばった。


『光魔法で……でも、乱戦の中で光魔法を使うのは、皆を巻き込むかも……』


 胸の内に湧き上がったそんな躊躇いが、俺の動きを鈍らせた。


 そうしている間にも、姿を現したバステルは、シェミーに拘束されているフィリップの顔を覗き込んでいる。


 まるで、獲物を吟味するように、まじまじとフィリップの顔を見つめたバステルは、何のためらいもなく、彼の額を突いた。


 それが何を意味するのか、俺は理解している。


「嘘だろ!? やばい!!」


 俺がそう叫ぶと同時に、バーバリウスも叫ぶ。


「チェルシー!! 今だ!! 目覚める獅子を叩き起こしてやれ!!」


 バーバリウスの叫びを聞いたのか、間髪入れずに少女も叫び声を上げる。


「起きなさい!! これはあるじの命令です!!」


 刹那、パッと眩い光が謁見の間に充満したかと思うと、一筋の閃光が部屋の中を縦断したのだった。

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