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第265話 隠れていた爪

 胸を背中から貫かれたにも関わらず、立ち上がって見せた俺の様子に、驚愕する国王たち。


 そんな彼らを見渡した俺は、軽い口調で告げた。


「これでもう、処刑は免除ですかね?」


 言うと同時に、鋭い視線をバーバリウスに向けた俺は、間髪入れずに光魔法を発動する。


 両手は背中で拘束されたままだが、問題ない。


 全力で踏み込んで跳躍した俺は、瞬く間にバーバリウスの頭上へと飛び込んだ。


 そして、焦りで顔を歪めるバーバリウスの脳天に向け、踵落としを繰り出す。


 が、俺の蹴りが奴の脳天に直撃することは無かった。


 何やら固いものに脚をはじき返された俺は、反動を利用したバク転を決めて着地する。


 そうして着地した俺の目の前に現れたのは、槍を手にした男だ。


 まるで、透明な鱗がボロボロと剥がれ落ちたかのように、スーッと姿を現したその男は、槍を構えたまま俺のことを睨みつけて来る。


 俺と槍の男がにらみ合うことで、一瞬だけ、謁見の間に沈黙が訪れた。


 しかし、その沈黙も長くは続かない。


 当然の話だけど、部屋にいる人々も突然姿を現した槍の男に気が付いたんだ。


 魔法騎士以外の武装した者が、この謁見の間に隠れていた。その事実だけでも、大きな問題だ。


「おいおい、こんな時でもボディガードを侍らせてたのか? さすがは大権力者のバーバリウス様だな」


「小賢しいガキが!!」


 激高して叫ぶバーバリウスを無視した俺は、部屋の中で更なるどよめきが発生したことに気が付く。


 槍の男を警戒しつつ、横目で周囲の様子を確認した俺は、とある人物を目の当たりにした。


 それは、桃色の鞭を持った少女の姿。マルグリッドだ。


 謁見の間の最奥にある玉座の、すぐ上にある大きな窓枠に座っている彼女は、笑みを浮かべたまま、部屋の中を見下ろしていた。


 彼女だけじゃない。


 この状況になって、謁見の間から逃げ出そうとする官僚たちが、部屋の至る所で騒めいている。


 耳と鼻でそれらの様子を嗅ぎ取った俺は、1つの推測に行きついた。


『やっぱり、槍の男が透明化の能力持ちか。で、能力を解除すると、透明化してたもの全部、解除されるってところだな』


 そんな俺の推測を補強するように、シエルが頭の中で告げる。


『ニッシュ、予想通りヘルハウンズが7人そろってるわよ。そのうちの1人、でっかいハンマーを持った女が、出入り口を塞いでるわ』


『カトリーヌだっけ? 生きてたんだな』


 カトリーヌと言えば、毛皮を身に纏った女性だったはず。


 彼女は確か、ゼネヒットを奪還した時に俺が感電させたはずだけど、フェニックスの涙で回復したってことかな。


 俺がそんなことを考えていると、ついに眼前の槍の男が動きを見せた。


 鋭い踏み込みと共に繰り出される突きを、身体を仰け反らせてギリギリ躱した俺は、バランスを崩して背中から倒れこむ。


 そこに、更なる追撃を加えようと槍を掲げた男。


 対する俺は、背中から倒れこんだ反動と、尻尾に発動したポイントジップで、高く跳び上がった。


 足先を槍の切っ先が掠めるのを感じながら、宙を舞った俺は、両足で着地する。


 直後、背後から迫り来る羽音を聞き、俺は大きく横に飛び退く。


「ちぃ!! 惜しかったよ兄さん!!」


 ブンブンとうるさい羽音を響かせながら、手にしていた鋭い針で空を貫いたライト兄弟。


 元々俺が着地した個所を狙っていたらしい彼らを、飛び退きながら確認した俺は、すぐさま声を張り上げた。


「アンナ・デュ・コレット!! 陛下を守れ!! こいつらは俺が対処する!!」


「対処だってぇ!? そんなこと、君にできるのかなぁ!? あたしに殺されるのがオチじゃない!?」


 俺の叫びを聞いて声を張り上げたのは、マルグリッドだ。


 彼女はひどく楽しそうな表情を浮かべながら鞭を振るい、俺に向かって飛び掛かってきた。


 縦横無尽に空間を切り裂く彼女の鞭を、ポイントジップと跳躍を駆使してなんとか避ける。


 その間も、虎視眈々と俺を狙ってくるライト兄弟や槍の男にも警戒を続けていた俺は、不意に鎧の音を耳にした。


 咄嗟に音のした背後を振り返った俺は、いつの間にか背後に回り込んでいたらしいフィリップと相対する。


 刹那、輝かしい光を放ったフィリップは、光を切り裂くような横薙ぎの一閃を、俺の首目掛けて放つ。


 しかし、彼の斬撃が俺の首を切り飛ばすことは無かった。


 ギリギリのところで全身を光魔法で包んだ俺は、その場にしゃがみ込むことでその斬撃を避けたのだ。


 両足から伸びるラインを描いた俺は、反撃に転じる。


 まるで、竜巻のように螺旋を描くラインに両足を乗せた俺は、回転しながらフィリップの腹部に頭突きを喰らわせた。


 ラインにフィリップを巻き込み、2メートルほど打ちあがった俺は、回転の勢いに乗せてフィリップに尻尾をぶち当てる。


 そんな攻撃に、フィリップが一瞬怯んだのを見て取った俺は、すかさず叫んだ。


「シェミー!! 今だ!!」


 直後、俺の尻尾の中に紛れ込んでいたシェミーが勢いよく飛び出し、フィリップの身体に纏わりつく。


 急速に膨張し始めたシェミーの黄色い体毛に、飲み込まれそうになったフィリップが、剣を構える。


 フィリップの標的がシェミーに向いたその瞬間。


 俺は右足をポイントジップで弾き上げて、フィリップの剣を上に弾き上げた。


 反動で落下を始めた俺は、しかし、頭上でシェミーに埋もれてゆくフィリップを見て、笑みを浮かべる。


「ちょっと休んでろよ、フィリップ団長!!」


 そう言った俺に対して、何かを言おうとしたフィリップは、しかし、何も言葉を発しなかった。


 それもそのはずだ、シェミーの黄色い体毛に埋もれつつある彼の額に、1匹の蝶が止まったのだ。


 まるで、眠りに落ちるように意識を失ったフィリップを見届け、俺は床に着地する。


 フィリップを拘束したままのシェミーは、宙に浮かんだままだ。


 この一連の流れを見ていたであろうバーバリウスも、そして、国王も。誰もが沈黙している。


 未だに両手を拘束されたままの俺は、一つ息を吐き出した後に、バーバリウスを見やった。


 愕然と、宙に浮かぶシェミーの中で眠りについているフィリップを眺めている彼に、俺は声を掛ける。


「どうしたんだ? バーバリウス」


「貴様……いったい何を?」


「何って、ちょっと厄介な防衛魔法を、解除させてもらっただけだけど」


「なに!?」


 俺の言葉を聞いて、真っ先に驚きを示したのはバーバリウスではなく、ジュトー宰相だった。


 魔法騎士に守られている彼は、慌てた様子で部屋の窓から外を見上げている。


 そんな彼の視線の先には、いつもと変わらない、真っ青な空が広がっていた。


 いや、この王都において、ただの青空などめったに見られないものだ。


 なにしろ、普段の王都の空には、光り輝く防衛魔法が張り巡らされているのだから。


『おぉ、流石に驚いてるなぁ』


『仕方ないでしょ、王都の人達にとって、防衛魔法が解除されるなんてよっぽどの緊急事態なわけだし』


『それもそうだな』


 シエルに心の中で賛同した俺は、直後、聞き慣れた地響きが近づいて来ることに気が付いた。


 まるで、長距離をものすごい跳躍で移動しているようなその騒音は、王都の南から、ゆっくりと王城へと近付いてくる。


 当然、その音は謁見の間にいる全員に聞こえるわけで、ヘルハウンズのメンバーですら、警戒を顕わにしていた。


 そうして、何度目かの騒音が鳴りやんだ後、甲高い炸裂音と共に、謁見の間の窓が突き破られる。


 まさに、荒々しい登場を果たしたアーゼンとロウは、着地と同時に床をゴロゴロと転がった。


「だぁぁぁ!!!! やっと着いたぜ! ウィーニッシュ、無事か!?」


「敵はどこだ!? 早く俺様に戦わせろ!!」


 全身傷だらけの状態でそんなことを告げるアーゼン達。


 そんな彼に続くように、新たに2人が別の窓を突き破って謁見の間に乱入してきた。


「もう!! 最悪ですわ!! どうしてあなたはいつもこうですの!?」


 そういう女性メアリーの胸元には、大きな耳のバディが顔を覗かせている。


「まさか、この私が……いや、今はそれどころではないか。陛下!! 陛下は無事でしょうか!?」


 メアリーの後から飛び込んで来たジャックは、着地するや否や、謁見の間を見渡し始めた。


 彼のバディであるアランも、彼と同じように部屋の中を見渡している。


 そして、最後に姿を現したのは、残りの4人だ。


 既に割れている窓から颯爽と中に入って来たゲイリー、クリュエル、カーズ、そしてヴァンデンス。


 比較的静かに姿を現した彼らのうち、カーズと視線を交わした俺は、得意げに告げたのだった。


「な? 上手くいったろ?」

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