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第261話 覚束ない足取り

 雹幻獣ネージュによってもたらされた猛吹雪は、その後1年もの間、ゼネヒット全土を襲い続けた。


 当然、外に出るわけにいかなかった俺達は、ダンジョン内で出来る対策を打って、何とか耐え忍ぶしかない。


 食料の調達や畑の拡張はもちろんのこと、メリッサのバディから提供してもらった糸で布を生産したり。


 町に侵入を図ろうとするウェンディゴの撃退とゼネヒットまで続く通路の工事を再開したり。


 そして、ネージュが去った後に予定しているゼネヒットの街の修復準備など。


 挙げだすとキリが無いほどに、俺達は多忙な日々を送ったのだった。


 だからだろうか、久しぶりにゼネヒットの街に上がり、真っ青な空を見上げた時の光景は、今でも忘れられない。


 とはいえ、雹幻獣ネージュが過ぎ去ったとしても、俺達に安らぐような暇は与えられていなかった。


 1年間続いた猛吹雪のせいで、街中の建物が傷んでいたのだ。


 中には、明らかに吹雪以外の要因で崩れてしまっている建物なども存在する。


 それらの建物を一度破壊し、あらかじめ用意していた角材や石材を使って、簡易的な建築物を作ってゆく。


 当然ながら、どれだけ用意をしていたとしても、いきなり住民全員が住めるほどの家を建てることはできない。


 なので、吹雪が去ってからもしばらくの間は、ダンジョンでの生活を余儀なくされた。


 まぁ、この頃には多くの住民がダンジョンで生活することに慣れていたため、特に問題も無かったが。


 また、王都から魔法騎士団が攻め込んでこないかと警戒を強めていた俺達は、少しずつゼネヒットの外の状況を把握していった。


 どうやら、雹幻獣ネージュの生み出した猛吹雪は、エレハイム王国全土に広がっていたらしい。


 それはつまり、王都も多少なりの被害を受けている筈なので、近々の内に襲撃を受けることは無いだろうと、俺達は判断する。


 それでも、チラホラとゼネヒット内部に侵入しようとする密偵が現れたので、どうやら王都の方も乗り越えることはできたらしい。


 となると、先に復興を進めた方が有利に動けるわけなので、俺達は町の整備を急いだ。


 その過程で、俺を含めた仲間達の役割分担を改めて見直すことにする。


 まずは街全体の土木と防衛を携わる組織として、土木防衛局を立ち上げた。


 局長はアーゼン、副局長はカーズに、その他にもジェラールやジャック・ド・カッセルに補佐を頼んでいる。


 彼らの仕事は、戦闘時の戦力はもちろんの事、建物の建造や城壁の修復、そして、ダンジョン内の町に続く通路の拡張だ。


 次に、情報局。


 情報局では主にゼネヒット近郊の情報収集をお願いしている。


 局長は言うまでもなく、ゲイリーだ。副局長はクリュエルで、イワンに補佐をしてもらっている。


 そんな彼らが街の周辺を調べる中で、壊滅した村の生存者を連れて帰ることが多々あった。


 正直、小さな村から生存者が見つかるなんて思っていなかった俺は、かなり驚いた。


 まぁ、行く当てもない人が多いとのことだったので、彼らをゼネヒットで保護することにする。


 そうして、ゼネヒットの復興が進むにつれて、様々な問題が頻出するようになってきた。


 それらの問題を解決するために、財務経済局と研究開発局を立ち上げることとなる。


 現状、街や村が壊滅しているため、多くの住民が財産を失ってしまっていた。


 そのため、基本的に俺達は物々交換で食料などを交換していたわけだが、あまりにもトラブルが多く発生したのだ。


 そんな折、俺の提案とバンドルディアの紙製造の知識を基に、紙幣の導入を進めることになった。


 簡易的な手押しの印刷機で紙幣を大量生産し、その管理を財務経済局長のメアリーに一任する。


 副局長はマーニャで、グレアムに補佐を頼んだ。


 バンドルディアの元で研究していた時に、経理なども行っていたらしいから、問題ないだろう。


 マーニャを副につけたのは、将来的な人材育成のためだ。


 そして、バンドルディアには研究開発局の局長となってもらった。


 彼の持ち前の知識を生かして、先の紙製造や簡易印刷機などの他に、機織はたおりり機などの開発をお願いしている。


 それだけでなく、俺が前世の記憶で知り得ている様々な機械などの情報を教えたところ、目を輝かせて研究に没頭し始めた。


 特に大勢の人間を運べるような乗り物について、優先的に研究するようにお願いしている。


 研究開発局の副局長はグレアムで、アルマにも補佐をお願いしている。


 彼女は自分自身の力を活かせるような薬を作りたいとのことだったので、無理しない程度にとお願いをした。


 まぁ、こんな感じで役割分担をしたわけだけど、それでも多くの雑務が残る訳で、それらを全て引き受けたのが、言うまでもなく俺だ。


 総務局として、街のありとあらゆる問題をかき集め、しかるべき人に振り分ける。


 街中を走り回って、住民達や仲間たちに話を通し、問題を解決する。


 そんなことを身体一つでこなさなければならないわけで、必然的に光魔法を使える俺に白羽の矢が立った訳だ。


 これが結果的に、ゼネヒットを知ることに繋がったので良かったものの、非常に大変だ。


 流石に1人では大変だとのことで、事務的な作業は母さんに手伝ってもらっている。


 そのおかげもあってか、街の運営が少しずつ軌道に乗り始めると、俺の仕事も徐々に少なくなっていった。


 だからこそ、俺は近い将来に予想されるバーバリウスの反乱への対策を、水面下で進めた。


 対策、とぼやけた言い方をしてはいるが、明確に言えばフィリップの洗脳を解く方法を探すわけだ。


 その方法も、なんとなくだけど見当はついている。


 結局のところ、フィリップを縛っているのはカーバンクルの能力なのだ。


「毒を以て毒を制す」という言葉がある訳で、この場合も例に漏れず適用できるだろう。


 それに、こちらにはバンドルディアと言うバディやリンクに精通した知識人が居るのだ。


 きっと、フィリップ団長を助け出すこともできるだろう。


 とまぁ、ここまで俺の話を聞いた人は、恐らく気づくと思うんだが。


 若干1名の名前が出てきていない。


 皆でゼネヒットの街を復興させようとしている中、その男だけが、日々を怠惰に暮らしている。


「なぁ、師匠。そろそろ手伝ってくれよ」


「ん? 嫌だね、おじさんは仕事をするのが大嫌いなんだ! ヒック……仕事なんてクソ喰らえ! 飲んで騒いで笑い合う。それこそが真に楽しい世界だろう?」


 ゼネヒットの隅にある出来たばかりの居酒屋で、ジョッキを手にした男が叫んだ。


 そんな男、ヴァンデンスに対して、俺の頭の上のシエルが告げる。


「あんた、マジでろくでもない大人ね! ニッシュ! こんなロクデナシは放っておいて、速く戻るわよ!!」


 愛想が尽きたのか、ヴァンデンスをおいて居酒屋の外に出るように俺を促すシエル。


 そんな彼女の言葉を否定するように首を横に振った俺は、ため息を吐いた後にヴァンデンスを見ながら告げる。


「いや、シエル。こういうタイプの大人は放っておくと許容されたと思って、もっと付け上がるんだぞ」


 俺の言葉を聞いた途端、ヴァンデンスは飲みかけていたジョッキを口元から離すと、ばつの悪そうな顔で語り掛けてきた。


「ぬぐっ……少年、君も一緒に飲まないかい? おじさんの仲間になろうよ」


「……今の反応、絶対に図星だったわよね。ニッシュ、もっと言ってやりなさい」


「そもそも、俺はまだ16歳だ。20歳になるまでは飲むつもり無いぞ」


「もう16歳じゃないか。街を奪還してから6年も経ったんだろう? そろそろ飲んでも良いと思うぞ少年。奪還祝いだぁ!!」


「いつの話してるんだ……。はぁ。首根っこ掴んで、強引に連れてっても良いんだけど?」


「それは勘弁してくれ。おじさん、吐いちゃう」


「じゃあ、自分で歩いてくれ」


「分かった、分かったよ」


 無理やり襟をつかもうとする俺を警戒したのか、覚束ない足取りで席を立ったヴァンデンスは、テーブルに紙幣をおいて、店の外に歩き出した。


 そんな彼の後について、俺も歩く。


 そうして、満天の星空の元に歩き出たヴァンデンスが、ゆっくりとこちらを振り返って尋ねて来る。


「ところで、おじさんに頼みたい仕事って何だい?」


 尋ねられた俺は、今にも倒れてしまいそうなヴァンデンスに肩を貸す。


 そうして、ヴァンデンスに表情を見られないように注意した俺は、うっすらと笑みを浮かべながら告げたのだった。


「何って、そろそろ父さんに挨拶しに行こうかと思ってね」

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