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第246話 愚か者

 ウィーニッシュが私に出した依頼とは、町の防衛だった。


 雹幻獣ネージュがもたらした猛吹雪の中には、多くの魔物が住んでいる。


 それも、過酷な環境の中に適応した、強力な魔物達だ。


 そんな魔物達から、ダンジョンの中の町を守ってくれとのことだ。


 その代わり、私に施されていた拘束は全て解除し、別の部屋に囚われているアランも解放してくれるらしい。


 おまけに、雹幻獣ネージュが去った後、好きな所に行って良いとまで言い出した。


 リンクを使える私に、バディを返すことの意味を、ウィーニッシュが知らないはずがない。


 よほどの自信があるのか、それとも、私のことなど意にも介していないのか。


 あまりにも腑に落ちない提案を聞いた私は、思わず尋ねてしまった。


「なぜ私を解放する? 何が目的だ?」


 すると、ウィーニッシュはこう答えたのだ。


「俺達は別に、国を相手取って殺し合いがしたいわけじゃない。ただ、奪われた自由を取り返したいだけだ。それに、あんたもここで飢え死にしたくはないだろ?」


 殺し合いはしたくないと言いつつ、脅しをかけて来る彼の姿は、酷く滑稽に見えた。


 とはいえ、それだけ逼迫するような事態なのだろうと考えた私は、この状況を利用するほかに道は無いと判断する。


 そうして、彼の提案を呑み、町の防衛に加わった。


 とはいっても、思っていたほど過酷な状況では無いらしい。


 ゼネヒットまで続いている通路は現在、大勢の奴隷たちによって拡張工事が行われていた。


 そんな彼らの工事を妨げることが無いように、通路の出口を見張り、ゼネヒットから魔物が入り込んでこないようにする。


 ただそれだけの任務だ。


 見張りは交代制で行われていて、私は夜の担当をしている。


 必然的に昼夜が逆転するので、町に住んでいる奴隷達と顔を合わせる頻度は極端に少ない。


 あるいはそれは、ウィーニッシュなりの気遣いだったのかもしれないと、私は思った。


 初めにそう思ったのは、1日目の見張りを終えて交代しようとした時。


 交代のためにやって来たスキンヘッドの男が、俺を睨みつけながら舌打ちをしたのだ。


 湧き上がる怒りを堪えて、休息をとるために食堂に向かった私は、再び違和感を覚える。


 入り口の扉を開ける前まで、賑やかに聞こえていたざわめきが、一瞬にして消え去ったのだ。


 それも、私が扉を開けた瞬間に。


 四方八方、ありとあらゆる方向から注ぎ込まれる視線には、様々な感情が込められているように見える。


 怒りや恐怖、蔑みや憎しみ。


 それらを眼光に乗せて、ただただ、私を見つめるだけ。


 文句を言う者も、罵声を飛ばしてくる者もいない。


 何故、私がそのような視線を受けなければならないのだろうか。


 私は魔法騎士だ。今までに大勢の国民を守って来たし、国のために働いてきた。


 それなのになぜ、貴様らのような奴隷共に、そのような目で見られなければならないのだろうか。


 エレハイム王国において、奴隷に身を落とす者と言うのは、決まって禄でもない過去を持つ者だ。


 おまけに、その状況から這い上がろうとする気力もないような、愚か者達だ。


 だからこそ、無理やりにでも働かせる必要がある。そうでもしなければ、国が成り立たず、国民が皆飢えてしまう。


 そんな事態を防ぐために、こき使われるのが嫌なのであれば、死に物狂いで働けばいいだろうに。


 そうすれば、多少は丁重に扱ってもらえるようになるだろう。もしかしたら、奴隷の身分から解放してもらえるかもしれない。


 脳裏を駆け巡るそんな考えを、声高に叫んでしまいたくなった私は、代わりに1つ、ため息を零した。


 言ったところで、奴隷達を怒らせるだけだ。


 そこで自らを鼓舞し、頑張ろうと思えない者達だからこそ、奴隷なのだから。


 冷たく注がれる視線の中を、私は歩く。


 すぐ後ろからついて来るアランまでもが、この冷たい空気を前にして、だんまりを決め込んでいた。


 普段なら、冷たい視線を注いで来る奴隷たちに、文句の1つでも告げているところだろうに。


 ただ、アランの判断は正しいと私は思う。


 外が猛吹雪に見舞われている状況で、私たちが生き延びるためには、この奴隷達と共に暮らすしかない。


 数年にわたって続くとされる猛吹雪の中、私単独でこの町から逃げ出すことは、不可能なのだから。


「スープを頼む」


 食堂の端の小さな席に座った私は、奴隷たちの手元にある皿をみて、注文を取りに来た少女にそう告げた。


 どこもかしこも、そのスープがテーブルの上にある。


 というか、他の料理は見当たらない。外の状況を鑑みて、食材の節約でもしているのだろう。


 私の注文を聞いた少女は、小刻みに頷いて見せると、何も告げずに厨房の方へと戻って行った。


 しばらく待っていると、温かそうなスープを持った少女が戻ってくる。


 そのスープを受け取り、一口飲んだ私は、心の中で思ったのだった。


『不味いな……』

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