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第241話 妙な感覚

 グレアムに連れられて1階のロビーに降りた俺達は、そこで1人お茶をすすっている老人を見つけた。


 彼の名前はバンドルディア。


 半年前、バーバリウスの屋敷の地下牢に囚われていたところを、俺達が保護した老人だ。


 そして、高名な学者でもある。


 はじめて会った時は、髭も髪も服装も、何もかもがみすぼらしかった彼の姿は、もうどこにもない。


 洗い立てのシャツに身を包み、髭も髪もピシッと整えている彼の姿は、何物をも寄せ付けない雰囲気を醸し出していた。


 丸縁眼鏡とジャケット、そしてシルクハットが揃えば、更に学者としての風格が出るだろう。


 そんなことを考えながらバンドルディアの元に歩み寄った俺は、軽く会釈をしながら挨拶した。


「こんにちはバンドルディアさん。もう体調はよろしいのでしょうか?」


「こら! 馴れ馴れしいぞ! 先生と呼びたまえ!!」


「し、失礼しました。バンドルディア先生。グレアムさん」


「落ち着かんかグレアム。彼はまだ子供じゃろうに。して、お主がウィーニッシュか。先日は恥ずかしいところを見せてしまったようだ」


 俺の態度が気に喰わずに怒りを向けてくるグレアムと、いたって冷静なバンドルディア。


 そんな二人を見比べながら、俺はバンドルディアの対面に位置する椅子に腰かけた。


 母さんとマーニャは俺とバンドルディアの腰かけている机の隣に、それぞれ腰を下ろしている。


 グレアムだけがバンドルディアの隣に立って、俺を見つめてきている。


 なんとも話しづらい状況だ。などと思いつつ、だんまりを決め込むわけにもいかないので、とりあえず話題を振ってみる。


「いえいえ、バンドルディア先生も色々と苦労をされたと思いますので。ところで、俺……私に会いたがっていたとか。なにか御用でもありましたでしょうか?」


「御用と言うほど畏まったものでは無いが、言うておきたいことがある。私をあの牢獄から助け出してくれてありがとう。本当に感謝している」


「そんな、とんでもありません。でも、まさかバンドルディア先生が囚われてるとは思ってもみませんでした。失礼ですが、なぜ捕まったのですか?」


「単刀直入だな。嫌いではないがね。まぁ、どの道この話はしなければならない。バーバリウスの抱く野望と、私の失敗談を」


 そこで言葉を区切ったバンドルディアは、置いていたカップを口に運ぶと、少しだけお茶をすすった。


 その間、俺達は沈黙する。


 バーバリウスの抱く野望と、バンドルディアの失敗談。


 そんな風に言葉を締め括られたら、こちらから聞き出しにくいじゃないか。


 他の皆も同じ思いなのか、結局俺達はバンドルディアが言葉を続けるのを待つしかなかった。


「お主達も知っておると思うが、バーバリウスは私の研究結果を利用して、自らの勢力を強めている。その先にある、かの男の目的を知っておるか?」


 バンドルディアの問いかけに対して、俺は首を横に振った。


 彼がこうして問いかけて来るということは、金とか権力とか、そういった分かりやすいものじゃないんだろう。


『それじゃあ、バーバリウスの求めてるものってなんだ?』


 今までに見て来たものを思い返してみても、奴の目的なんて明確に分からない。


 多分、考えても答なんて出てこないんだろう。


 俺がそんなことを思った時、バンドルディアがゆっくりと告げた。


「自分にとって都合の良い世界を作る。それが奴の目的だ」


「世界を作る……?」


 バンドルディアの言葉を思わず繰り返してしまった俺は、胸の内に小さな違和感がフッと湧き出たことに気づいた。


 どこか聞き馴染みのあるその言葉。


 なぜ、バンドルディアが、そしてバーバリウスが。その言葉を知っているのだろうか。


 ただの偶然か? それとも。


 抱いた疑念が少しずつ膨張し、思考の大部分を占めてゆく。


 そんな俺の様子を見たバンドルディアは、話を続けた。


「バーバリウスは元々、スラム街で生まれた子供で、両親は幼いころに亡くしている。しかし、魔法の才に恵まれていたあの男は、とある貴族に拾われることとなった。その貴族の家名は確か、メンドルとかいったかな?」


「メンドル? 聞いたことないな……」


 そう呟いた俺に対して、バンドルディアは首を横に振って見せる。


「それは当然だ。メンドル家は既に無くなってしまった家なんだよ。バーバリウスが実質的に乗っ取ったという方が正しいがな」


「乗っ取った!? そんなことあるんですか?」


「いろいろな事情があると聞いている。その中でも一番大きな理由は、メンドル家の本来の跡継ぎが不出来だったからと言われている」


 何とも言えない情報に、俺が口を噤んでいた時。


 まるでタイミングを見計らったかのように1呼吸入れた彼は、ゆっくりと話を続けた。


「その跡継ぎの名は、ヴァンデンス・メンドル。王都では放浪者と揶揄されておったな」


「……は?」


「そうじゃよ。お主が師と呼んでいる男こそが、そのヴァンデンスだ」


 明確に、そう言い切ったバンドルディア。


 そんな言葉に、真っ先に反応を示したのは、シエルだった。


「嘘でしょ? あの飲んだくれが元貴族なの!?」


「ちょ、シエルちゃん、言い方……」


 俺の頭の上で驚いているシエルに、マーニャが苦笑いをしながら呟く。


 更に、口元を手で隠しながら驚いていた母さんが、ボソッと呟いた。


「人は見かけによらないってことかしら」


 母さんの言う通りだ。おまけに、ここまでの話で分かったことがもう1つある。


 バーバリウスはスラムで生まれて、貴族に拾われた後、一大勢力を作るまでになった。


 しかも、その行動理念は自分にとって都合の良い世界を作るというもの。


 完全に一致とは言わないが、何か似ている気がする。


 そのことに気が付いた俺は、妙な感覚に陥ったのだった。


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