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第226話 奮闘

 時を少し遡り、ウィーニッシュが地下に降りて来たバーバリウス達と対峙していた頃。


 ゼネヒット西の武器庫では、アーゼンが怒声を上げながら奮闘していた。


「こんの、火吹きトカゲがぁ!!」


 そう叫んだ俺は、そこらに落ちていた大きめの木箱を担ぎ上げると、中身諸共、サラマンダー目掛けて投げつける。


 放り投げられた木箱は、ものすごい勢いでサラマンダーに向かって飛んだかと思うと、激しい衝撃音と共に弾け飛んだ。


 一応、サラマンダーに命中したらしいが、さほどの効果は無かったらしい。


「ちっ!!」


 その様子を見た俺は、舌打ちをしつつ駆け出す。


 武器庫の中はもうめちゃくちゃで、元々保管されていた武器の棚などは、殆ど全部なぎ倒されてしまっている。


 おまけに、サラマンダーの放つ火球のせいで、至る所でボヤが発生しかけているのだ。


 それらの火が原因で、焔幻獣ラージュが蘇る。などという結末になってしまっては、笑い話では済まないだろう。


「くそっ!! 面倒くせぇなぁ!!」


 だからこそ俺は、武器庫中を駆け回って火を消して回りながら、同時にサラマンダーとカートライトの相手をしているのだ。


「背中がガラ空きですよ!!」


 突如耳に飛び込んで来た声を聞いた俺は、すかさず左前方に飛び退いた。


 直後、ブーンという羽音と共にカートライトが俺の背後に降り立つ。


 床を1回転して体勢を整えた俺は、対峙するカートライトが持っている鋭い針が、床に深々と突き刺さっているのを目にした。


 正直、今の俺じゃあ、カートライトの鋭い針を防ぐことができない。


 それをカートライトも分かっているようで、執拗に針で刺そうと狙って来ている。


 戦闘が始まってどれくらいの時間が経ったのか。既に時間を計れていない俺は、拳を握りこんで反撃に転じることにした。


 床に刺さっている針を抜こうとしているカートライトに目掛けて駆け出した俺は、その脳天目掛けて拳を振り下ろす。


 対するカートライトも、ただ俺の動きを見ているだけじゃなかった。


 すぐさま手元の針を諦めたらしい彼は、勢いよく後方に飛び退くと、一瞬にして俺との距離を開けてしまう。


 それでも追い打ちをかけようとする俺に、今度はサラマンダーが突進を仕掛けてきた。


 全力で走っていた俺は、視界の端でこちらに突っ込んでくるサラマンダーの姿を捉えたものの、すぐには反応できない。


「うおりゃぁ!!」


 何か対策を考える余裕が無かったため、俺は力任せに両腕の拳を床に打ち付ける。


 ドスンッという鈍い音と共に俺を起点としたヒビが放射状に延びて、半径1メートル程度の床が崩れてしまう。


 そうして生み出された手乗りサイズの瓦礫を手に取った俺は、サラマンダーの方へ振り向きざまに、瓦礫を投げつける。


 俺を睨みつけながら突進してくるサラマンダーの顔面に、見事瓦礫が命中するが、思っていたよりも防御が固いらしい。


 そのまま、大口を開けたサラマンダーは、俺に食らいつこうとしてくる。


 やむなく、開かれたサラマンダーの顎を両手で受け止めた俺は、強烈な力で噛みつこうとする顎を必死で押さえつけた。


 サラマンダーの下あごを握りしめている右手に、鋭い歯が突き刺さる。


 その痛みに耐えつつ、顔中に吹き付けられるサラマンダーの呼気を浴びた俺は、全身から汗を垂れ流していた。


 ただでさえ暑くなっている武器庫の中で、留まることなく流れ続けていた汗が、サラマンダーの熱気で更に湧き出してくる。


 このままでは食らいつかれたうえで、火球を撃ち付けられてしまう。


 嫌な想像が頭の中を駆け巡った時。


 当然ながら、こんな好機を見逃さないカートライトの追撃が、俺の左腕に迫り来る。


「その腕、もらったぁ!!」


「ぐっ!!」


 カートライトの動きに合わせるように、サラマンダーが顎の力を強める。


 その顎を全力で押さえている俺には、カートライトの攻撃を捌けるだけの余裕は無かった。


 鋭く尖った針を構えたカートライトは、、まさに俺の左腕に狙いを定めた状態で、一直線に飛び込んでくる。


 確実に訪れるであろう痛みに耐えるために、俺は歯を食いしばった。


 その時。


「何をしていますの!?」


 頭上からメアリーの声が響いてきた。


 直後、複数の氷の槍がカートライトの進路上に突き刺さり、俺への奇襲を妨害する。


「あれ? もう出てきて良かったんですか?」


 軽々と氷の槍を避けてしまったカートライトは、手にしている針を構え直しながら告げる。


 そんな彼の問いかけを無視するかのように、メアリーは俺の元へと降り立つと同時に、床に両手を添えた。


 途端、バリバリと言う音と共に、俺達の周囲の床が凍り付いてゆく。


 これにはさすがのサラマンダーも危機感を覚えたのか、俺に食らいつくことを諦めて後方へと退いて行った。


 取り敢えずの危機を脱したことで安堵した俺は、流血している左手を強く握りこんだ後、隣に立つメアリーを見た。


 いつの間にか外套を脱いでしまっている彼女は、普段通り、ドレスと仮面の姿で俺のことを睨みつけてきている。


 そんな彼女の胸元には、頭だけを覗かせた状態のルミーがいた。


 なんちゅうところに入ってんだ。と俺が思った直後、メアリーがさらに鋭い視線で声を掛けてくる。


「……どこを見ていますの?」


「うるせぇ。そんなところにバディを入れてる方がわりぃだろ。それより、封印は出来たのか?」


「できましたわ。で? あなたの方はまだ終わっていませんの? あの戦闘狂のカンガルーの姿も見えませんし」


「悪かったな。ロウは武器庫の外だ。そこの黄色い頭の坊主の兄貴と戦いながら、ここに入ろうとする輩の邪魔をしてる。つまりだ、俺達がするべきことは、武器庫の中の掃除だ」


「分かりやすいですわね」


 改めてカートライトとサラマンダーに向き直った俺とメアリーは、それぞれ敵に狙いを定める。


 対するカートライトは、サラマンダーの頭上をフラフラと飛びながら、口を開いた。


「作戦会議は終わりましたか?」


「そっちはしないで良いのか? あぁ、悪い。蜂と蜥蜴じゃ話せないんだったな」


「ははは、面白いことを言いますね。ですが、はたしてそうでしょうか?」


 挑発するつもりで言った俺の言葉に、カートライトは怒りを顕わにするどころか、笑いを浮かべて見せた。


 彼の言っている意味は良く分からないが、あまり挑発できていないらしい。


 こうして話をしていてもキリがないので、俺がこのまま攻撃を開始しようとしたその時。


 カートライトが悪戯っぽい笑みを浮かべて、告げたのだった。


「そろそろ時間かな……よし、こっちも奥の手を出しますよ」

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