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第216話 トカゲの尻尾

 戸惑いを隠せない俺を置いてきぼりにするように、アンナとカーズの戦闘が始まった。


 両手で持っている剣で切りかかろうとするアンナを、サソリの尾が弾き返す。


 かと思えば、今度はサソリの尾が繰り出した反撃を、アンナは上へ弾き上げた。


 そうしている間も、一歩ずつピエールの元に向かおうとするカーズの歩みは止まらない。


 傍から見ていると、カーズの様子はまるで何かに操られているように見えた。


 そんな彼を守るように、サソリが自動で防御と反撃をしているイメージだ。


 対するアンナは、なんとしてでもカーズの足を止めたいらしく、ありとあらゆる手段を使い始めている。


「もう!! しつこいわね!!」


 そう叫んだ彼女は、頭上から振り下ろされたサソリの尾の攻撃を、その巧みな剣捌きで逸らし、直後、一気にカーズの元に突っ込んだ。


 距離として2メートルくらいだろうか。


 全く怯むことなくカーズの懐に入った彼女は、左手を前に突き出して氷魔法を発動する。


 直後、2人を巻き込むような炎の柱が、カーズの足元から立ち上がった。


 燃え盛る炎のせいで、周囲の空気が揺れ動く。


 あまりに強すぎる光と熱気を前にした俺は、思わず顔を腕でガードしながら、事の成り行きを静観した。


 正直、あの2人の戦闘に俺が入っていける気がしない。


 俺がそんなことを考えたその時。


 頭上から声が聞こえてくる。


「貰ったぁ!!」


「!?」


 その声がフレデリックのものだと一瞬で理解した俺は、咄嗟に左の方へと飛び退こうとしたが、上手く行かなかった。


 鋭い痛みが尾てい骨のあたりから全身に広がってゆく。


 そんな痛みから逃げるように、地面を転がった俺は、すぐに違和感に気が付いた。


 すかさず先ほどまで自分が立っていた付近を見た俺は、そこに立っている男を睨みつけた。


「よくもやりやがったな……」


「戦闘中にボーっとしてる方が悪いでしょ。それに、やっぱり俺はズルいと思うんだよねぇ」


 俺の苦言にそう答えたフレデリックは、足元にあるそれを見下ろした。


 彼の視線に釣られるように、俺もフレデリックの足元に視線を落とす。


 そこには、槍で地面に縫い付けられた俺の尻尾が、静かに横たわっていた。


 トカゲの尻尾だから、切れて当然だと思う奴もいるみたいだが、痛いもんは痛いんだぞ。


 心の中でそんな文句を零した俺は、ヒリヒリとする腰辺りを優しく摩る。


 と、そこで俺は、とあることに気が付いた。


 屋根の上から飛び降りて来たフレデリックの方を振り返ったことで、建物の様子が目に入ったわけだが。


 その建物の外壁には、ライが開けたと思われる大きな穴が開いている。


 そんな穴の中に、5人の人影が見えたのだ。


 怯えつつも、俺達の居る通りの様子を伺っている彼らは、間違いなくその建物に住んでいた住民だろう。


 戦闘に集中しすぎたせいで、住民達のことを完全に失念してしまっていたことに気が付いた俺が、早く逃げろと叫ぼうとした時。


 俺は、住民達の頭上から、パラパラと何かが落ちてきているのを目にした。


 見た瞬間、即座に一歩を踏み込んだ俺は、まっすぐに穴に向かって走りこむ。


 なけなしの風魔法で速度を上げながら、穴に飛び込んだ俺は、驚きで腰を抜かした住民達の中心に位置取った。


 直後、まるで張りつめた糸がプツンと切れてしまったように、壁の至る所にひびが走る。


 それらのヒビを視界の端で捉えながらも、強引に周囲の4人を自分の元に引き寄せた俺は、最後の一人である男の子を引き寄せようと、尻尾を……。


「くそっ!!」


 いつもの癖で尻尾を使おうとした俺が、それは過ちであると気が付いた瞬間、ついに建物が崩れ始めた。


 そのまま逃げるかもう1人も助けるか。


 そんな究極の選択を俺が判断できるわけもなく、ガラガラと音を立てて天井が落ちて来る。


 次々と全身に圧し掛かって来る瓦礫の重みに耐えながら、俺は歯を食いしばった。


 そんな俺に、住民達がしがみついている。


 両足で踏ん張り、両腕で天井を支えた俺は、そのまま身動きが取れない状態で耐えるしかなかった。


 刹那、尾てい骨辺りのヒリヒリが、突然、針で刺したような痛みに変わる。


「痛ててててっ!! ちょ、誰か俺の腰を触ってる!! そこは痛いからやめてくれ!!」


 しがみ付いていた住民の誰かが、尻尾の切れた跡に触れたせいだ。


 当然、そんなことをしていれば、多少なりとも力が抜けてしまうわけで、俺はついに右の膝を地面についてしまった。


 硬い砂利で膝が削れるような痛みに耐えながら、このままじゃダメだなと悪い想像をしたその時。


 不意に、支えていた瓦礫の重さが急激に軽くなった。


「な、なんだ!?」


 驚きを声に出した俺は、改めて歯を食いしばると、支えていた瓦礫を投げ飛ばすことに成功する。


 そうして、瓦礫の中から頭を出した俺が、真っ先に目にしたのは、同じように瓦礫の中から頭を出しているフレデリックの姿だった。


 彼の傍らには、先ほど引き寄せることができなかった男の子がいる。


 一瞬、互いににらみ合った俺達は、すぐに言葉を交わしたのだった。


「1人だけ助け損なうなんて、ダメダメだなぁ」


「お前のせいなんだよ!! ふざけんな!!」

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