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第213話 挑発

 ロウが宣言した直後、初めに動いたのは蜂の頭部を持った少年だ。


 激しい羽音を響かせながら、一瞬でロウに近づき、右手の針で貫こうとする。


 しかし、ロウは驚異的な速度でその攻撃に反応すると、身体を回転させながら小さく跳び上がり、回転によって生み出された尻尾の一撃を少年にお見舞いした。


「キールライト兄さん!!」


「アーゼン、あいつはこの俺様に任せとけ!! 良いな!! 俺の獲物だぞ!!」


 重たい尻尾の一撃を受けてぶっ飛んで行く蜂の頭部を持った少年は、キールライトという名前らしい。


 衛兵達の壁に向かって突っ込んでいったキールライトに向けて、ロウが叫びながら跳びこんでいく。


 そんなロウを見送った俺は、ゆっくりと歩みだしながら黄色い頭の少年に語り掛けた。


「おい小僧、名前はなんて言うんだ?」


「……なぜ教える必要があるんですか?」


「なら、勝手に呼ばせてもらうぜ。ハニー坊や」


「ふざけるな! 僕の名前はカートライトだ!!」


 おちょくられたことに腹を立てたのか、カートライトは叫びながら、上げていた腕を怒りに任せて振り下ろした。


 彼の腕の動きを合図に、例の如くサラマンダーが火球を吐き出す。


 その様を視界の端で見て取った俺は、咄嗟に近くにあった木箱を担ぎ上げると、全力で火球に向けて投げ飛ばした。


 投げられた木箱が火球と衝突し、小さな爆発が発生する。


 その際に飛び散った燃えカスを蹴り飛ばしながら、俺はカートライトに向けて歩き続けた。


「な……」


 火球を防がれたことで驚いている様子のカートライトは、俺と目が合ったことで我に返ったらしく、周囲に向けて叫び出した。


「な、なにをぼさっと見ているんだ!! お前たちもこいつらに攻撃しろよ!!」


 そう捲し立てられた衛兵達は、ハッと我に返ったように武器を構え始めた。


「いいぜ、相手してやるよ」


 言いながら俺が身構えた時、武器庫の外から何やら騒がしい音が聞こえ始めた。


 悲鳴や怒号が入り混じったような音と、派手な破壊音。


 それらを耳にした俺は、小さく呟く。


「外も荒れ始めたみたいだな」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ところ変わって、ボロボロの建物で待機していたジェラールは、街中に響くメアリーの悲鳴を聞いていた。


 間違いない。メアリーとアーゼンが動き出した。


 それはつまり、俺達も行動を開始するときが来たということだ。


 緊張で強張ってしまう身体をほぐすように、肩をストレッチしながら、俺は部屋の中にいる人々を見渡す。


 今この部屋には、カーズとクリュエルと俺以外に、10名近い男達がいる。


 皆、ダンジョンの町で一緒に暮らしていた仲間たちだ。


 彼らは先ほど、戸棚の下の抜け穴からシェミーが連れて来たわけで、今も着々と人数を増やしている。


 メアリー達の合図も来たわけだから、そろそろ動き出すべきだと俺は判断し、一番近くにいた男に声を掛けた。


「よし、メアリー達からの合図が来た。手筈通りに頼むぞ」


「あぁ。分かった。副隊長達も、しっかり頼んだぜ」


 職人っぽいその男はそう言うと、他の男達に声を掛け始める。


 そんな彼らからカーズ達に視線を移した俺は、ゆっくりと頷く。


 それだけで察してくれたらしいカーズとクリュエルは、小さくため息を吐いたかと思うと、玄関の方に歩き始めた。


 俺も2人の後を追うように玄関に向かう。


 そうして、ゆっくりと扉を開けたカーズが、真っ先に外へと飛び出した。


 続けざまに俺とクリュエルも外に出る。


 建物の外は狭い路地で、月が出ているにも関わらず少しだけ薄暗く感じられた。


 そんな路地を街の中央に向かって北に駆けた俺達は、ある程度進んだところで屋根の上に跳び上がった。


 少し肌寒い風が吹き抜けてゆく中、屋根の上に立った俺達は、改めて周囲を見渡す。


 一見すると、酷く穏やかな街の風景だ。


 しかし、良く観察すれば、そうではないことが分かる。


 西の方にある武器庫周辺からは、少しだけ騒がしい音が聞こえて来る。


 その反対に位置する東の城壁からは、更に騒がしい様子が感じ取れた。


 多分、急いでダンジョンに攻め込む準備をしているんだろう。


 おかげで街の中の見張りが少しだけ少なくなっている気がする。


 そこまで見て取った俺は、ふと、はるか頭上を小さな影が飛んでいることに気が付いた。


 その影は、ゆっくりと街の上空を旋回しているらしい。


 しばらく飛んでいたその影が、不意に姿を消したことを確認した俺は、別の影を視界の端でとらえた。


「おい、2人共、来たぞ」


 すぐにカーズ達に声を掛けた俺は、東の方角から飛んでくるその影に向かって身構えた。


 音もなく飛ぶ影は、大きな翼と綺麗な金髪を持っている魔法騎士だ。


 そんな彼女の後を追うように、屋根の上と大通りを掛けて来る2人の人影も見て取れる。


 あっという間に俺達の元まで到達したその魔法騎士は、こちらを見下ろしながら声を掛けてきた。


「まったく。どうなってるのよ……あなたたち、もしかしなくても、ウィーニッシュの仲間でしょ? 悪いけど、少し話を聞きたいから、ここは一旦捕まってもらえるかしら?」


「そんな話に、俺達が乗るとでも思ってるのか?」


 思っていたよりも気さくに話しかけて来る魔法騎士アンナに、俺は警戒を続けながら応えた。


 対するアンナは、俺の返答を聞くや否や、小さなため息を吐く。


「ううん。言ってみただけよ。はぁ……あ、ところで、あなた達が捕虜にしてる魔法騎士は、無事なのよね?」


 そこで思い出したかのように問いかけて来るアンナの口調は、先ほど同様に軽いものだったが、表情が変わった。


 どうやら、俺達が捕虜にしたジャック・ド・カッセルにも、多少なりとも心配してくれる仲間がいたようだ。


 そんなことを俺が考えた時。隣にいたカーズがゆっくりと口を開いた。


「……あの男がどうなったのか、お前はあまり知らない方が良いと思うぞ」


「……そう」


 カーズの言葉に、顔色一つ変えないアンナ。


 そんな、ほんの数秒間だけ漂った沈黙は、アンナを追って来ていた2人の魔法騎士達によって打ち破られる。


「はぁ……はぁ……速すぎますって、アンナさん。飛ぶのはずるいでしょ~」


 そういって現れたのは、屋根の上を走ってきていた優男風の魔法騎士。


 背中にありとあらゆる武器を背負っている男で、町の防衛戦で俺が戦った奴だ。


「フハハハハハ!! 貴様は相変わらず軟弱だな! そんなことでは、ジャック様のようにはなれないぞ!!」


 そう言って笑い声をあげたのは、大通りをバディであるサイに乗って駆けて来ていた男。


 聞いた話だと、この男は防衛戦の時に氷雪エリアでメアリーと戦った奴らしい。


「自分のバディに乗せてもらってる奴に言われたくないんだよなぁ~」


「何だと貴様!!」


 そうして現れた2人が、今にも口げんかを始めそうな空気を醸し出した時。


 頭上に居たアンナが、腰に携えていた剣を勢いよく抜き取った。


 その様子に気が付いたらしい2人の魔法騎士、ピエールとフレデリックも、即座に身構える。


 直後、今まで黙りこくっていたアンナが、カーズを睨みつけながら告げる。


「カッセル様に何をしたのか、後で聞かせてもらわなくちゃいけないわね」


 そんな彼女の言葉を聞いたピエールとフレデリックの表情が、一気に険しくなってゆく。


 先ほどまでの雰囲気からは想像できないほどに激高しているらしい3人を見て、俺はカーズに向かってぼやいた。


「あ~あ~、挑発しすぎなんじゃね? これ」

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