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第190話 俺の執念

 ミノーラやドラゴニュートの始祖の話、そして、バディ誕生の秘密について話を聞いた俺達は、ひとまずハーシュの家に戻った。


 泉の傍はとてもすがすがしい空気で心地が良いものの、長いこと居ると、少し寒さを感じてしまうのだ。


 山の上ということも関係があるのかもしれない。


 俺とマーニャは促されるままにソファに腰を下ろすと、差し出された温かい紅茶をすすりながら、和んでいる。


 それにしても、香りの良い紅茶といい、ふかふかなソファといい、ドラゴニュート達はどこからこれらを調達しているんだろうか。


 集落の様子からは想像もしていなかった上質なそれらを堪能しながら、俺はそんなことを考えた。


 ふかふかなソファを堪能しているのは俺達だけじゃない。


 ソファの上にゴロンと寝そべっているシエルが、とても心地よさそうにしている。


 唯一、床の上にいるデセオだけが、少しだけ不服そうな表情だ。


 彼の背中の棘のせいでソファに穴が空いちゃ悪いから、とマーニャによって降ろされてしまったのだ。


 当然、彼は今少し機嫌が悪い。


 そんな彼の姿を見た俺は、今一度考える。


 デセオやシエルだけじゃない。


 世界中にいるバディ達が、ミノーラによって作られたということ。


 それは、途方もなく凄いことなんじゃないだろうか。神様と言われるだけのことはある。


 そんなミノーラに力添えをしてもらえている俺は、とても恵まれているんだろう。


 そこでふと、対面に腰を下ろしているエイミィとハーシュに目を向ける。


 紅茶とソファのおかげで、だいぶリラックスできた俺は、そろそろ本題に戻るべきだなと判断し、口を開いた。


「あの、そういえば、俺に渡す物があるって言ってませんでしたっけ?」


「ん? おぉ、そうじゃな。エイミィ。例の物を持ってきてくれんか?」


「分かりました」


 俺達と同様に、紅茶をすすりながら和んでいたハーシュとエイミィは、何かを思い出したかのように言葉を交わす。


 短く返事をしたエイミィが、部屋から出て行ったかと思うと、すぐに戻ってきて、机の上に1つの箱を置いた。


 木でできているその箱は、少し古い物のように見える。


 もう少し詳細まで見て見たいと思った俺が、その箱に手を伸ばした時。


 サッと、俺の手を妨害するように、ハーシュが箱を拾い上げてしまった。


 思わず「えっ?」と呟いてしまった俺は、しかし、ハーシュに無視されてしまう。


 おもむろに箱を開けたハーシュは、その中身を取り出し、俺に見えるように掲げた。


 それは、細かな装飾が施された、銀色のペンダント。


 とても高価そうなそのペンダントと、黙り込んでいるハーシュの顔を見比べた俺は、少し沈黙する。


 このペンダントは何なのか。


 当然のように思い浮かんでくる疑問に、俺は、1つだけ思い当たる節があった。


 そんな俺の直感を見抜いたかのように、エイミィが告げる。


「このペンダントは、君の記憶の欠片だよ」


「……やっぱりか」


 なんとなくそうなんだろうと思っていた俺は、短くそう呟くと、改めてそのペンダントに目を移した。


 確かに高価そうではあるけど、見た目は何の変哲もないペンダントだ。


 多分、水龍の鱗みたいな魔法具の類でもない。


 このペンダントに、俺のどんな記憶が込められているんだろうか。


 少なくとも、今までに見て来た記憶から考えるに、あまり心地の良い物じゃないと、俺は察していた。


 記憶の欠片と言えば聞こえは良いけど、言い換えてしまえば、俺の執念みたいなものだ。


 今までに見つけたのは、4回目の人生と5回目の人生の記憶だ。


 つまり、1回目と2回目、3回目、6回目の記憶の欠片については、まだ見つけることができていない。


 このペンダントがそれらのうちのどれに当たるのか。


 それは、実際に見るまで分からないんだろう。


「それを見せてくれるってことですか?」


 取り敢えず頭の整理が付いた俺は、ハーシュに問いかける。


 対するハーシュは、そっとペンダントを箱にしまうと、そのままエイミィに手渡してしまった。


 その後も返事がない。


 なぜ黙っているのか、問いかけようとした俺は、しかし、突然口を開いたエイミィの声を聞いて口を噤んだ。


「タダで渡すわけじゃないよ?」


 そう告げたエイミィにゆっくりと視線を投げた俺は、率直な疑問を投げかける。


「……それはどういう意味ですか?」


「簡単な話だよ。私達がこれを君に無償で渡しちゃうのは、ちょっと都合が悪いんだよ。なにせ、私達ドラゴニュートは本来、外界に干渉しないものだからね」


「外界に干渉しない?」


「そうそう。私達は殆どこの山から下りないんだよ。なにしろ、ミノーラ様を守らなくちゃいけないからね。生まれてからずっと、チュテレールで暮らすんだよ」


「そうなんですか……」


「そう、だから、本来私たちがこのペンダントを探しに、山の外に出たことは異例なんだ。そこまでするからには、君には私たちの関係者になってもらわなくちゃいけない」


「関係者?」


「言ったでしょ? 君のお師匠の事。つまり、君には正式に、私の弟子になってもらう。簡単に言えば、修行してもらうから」


「え?」


「と言うことで、これから1か月間、君はチュテレールで修行をして、見事合格できれば、このペンダントを差し上げよう! という感じかな」


 ここまで聞いた俺は、猛烈に嫌な予感を覚えた。


 いや、予感だけじゃない、これはもはや実感と呼んでも良いレベルだ。


 隣に座っているマーニャも、かなり不安そうな表情を浮かべている。


「あ、マーニャちゃんは修行しなくていいからね。元々、修行するウィーニッシュ君の世話役として呼んだから」


「……そ、そうですか」


 少し安堵している様子のマーニャ。


 しかし、俺は全く安堵できない。


「せ、世話役が必要ってことは、それだけハードって事だったり……」


「君はドラゴニュートじゃないから、当然、簡単に強くなったりできないよ? 大丈夫、私が君をビシバシと鍛えてあげるから、楽しみにしてて」


 そう告げたエイミィは、どこか楽しそうな表情を浮かべている。


 同じように、床から俺を見上げているデセオも、少しだけ気が晴れたような顔をしている。


 顔が引きつってしまうのを自分で認識した俺は、大きなため息を吐く。


 それとほぼ同時に、シエルもため息を吐いたのだった。

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