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第181話 2つの罠

 アーゼンやゲイリーと別れた後、俺は火炎エリアに向かって走っていた。


 暗い洞窟内でも、シエルとのリンクで得た感覚があれば、なんてことない。


 おまけに、夜間にゼネヒットの街を駆けまわるような特訓もしてきたのだ。


 今更、この程度の暗さは、俺にとって何の障害にもなり得なかった。


「たしか、火炎エリアはこの先だったな!」


『そのはずだわ! 気のせいかな、少しだけ暑くなってきたわね。カーブルストンのダンジョンを思い出すわ』


「おい、嫌なこと思い出すなよ。そのせいで、あいつが出てきたらどうすんだ!」


 頭の中で鳴り響くシエルの声を聞いた俺は、俺を飲み込もうとする巨大な3つの口を思い出しながら苦言を呈した。


 対するシエルは、少しふざけた口調で告げる。


『大丈夫よ、この先にいるジャックのバディは獅子だったでしょ? 頭は3つも無かったわ』


「そういう意味じゃねぇよ!」


 なぜか楽しそうなシエルの調子に乗せられるように、鋭く突っ込んでしまった俺は、頭の中でケラケラと笑うシエルから眼前に意識を戻した。


 そうして、徐々に見えて来た火炎エリアの入り口を捉えた俺は、そのまま足を止めることなく飛び込んでゆく。


「うわっ! あちっ!!」


 エリアに入った瞬間、肌を刺すような痛みが全身を包み込んでゆく。


 そんな猛烈な熱気に思わず足を止めた俺は、燃え盛る炎と眩い閃光に視界を奪われた。


「どうなってるんだ!?」


 腕で目元を庇った俺は、光が少し和らぐのを待って、改めて周囲を観察する。


 どうやら、このすさまじい炎はエリアの中心にいるカーズが放っているものらしい。


 両腕を駆使して、空気を焼いてしまいそうな巨大な炎を操り、敵を狙っている。


 しかし、彼の攻撃は悉く躱されていた。


 というのも、まばゆい光を発する魔法騎士が、迫りくる炎を掻い潜りながら、カーズの周辺を飛び回っているのだ。


 その速度はかなりのもので、だからこそ、カーズも攻撃を当て切れていない。


『ニッシュ、どうするの!? 加勢するんでしょ?』


「そのつもりだけど……俺達に何ができる? 想像の何倍も厄介そうな相手だぞ?」


 言いながら2人の戦闘を見ていた俺は、とりあえず近くにあった大きな岩の陰に身を隠した。


 今のところ、ジャック・ド・カッセルが俺達に気が付いた様子は無い。


 だとするなら、奇襲を仕掛けるのが最善手だけど、速度的に俺達の攻撃は簡単に躱されるだろう。


 何か策がいる。


 考えながら岩から頭を覗かせた俺は、改めてジャックの動きを目で追った。


 多分、彼の使っている魔法は光魔法の類だろう。


 それと、風魔法を併用して、空中をものすごい速度で自由自在に移動している。


 特に、光魔法は厄介だ。


 ヴァンデンスやゲイリーの例からも分かるように、見えている物が全てとは限らない。


 しかも、リンクしているジャックは強靭なパワーも持ち合わせている。


 そんな魔法騎士と対等に渡り合っているカーズもすごいが、今は感心している場合じゃない。


 と、その時。


 ひときわ眩い光が、火炎エリアに充満した。


 回避に徹していたジャックが、唐突に攻勢に転じたのだ。


 瞬間的に光を増した彼は、一直線にカーズに突っ込んでゆく。


 対するカーズは、真正面からジャックの攻撃を受けきるつもりは無いらしく、即座に回避に移りながら火力を上げる。


 振り下ろされるジャックの巨大な爪の攻撃を、ギリギリ跳んで躱したカーズは、カウンターと言わんばかりの火球をジャックに放った。


 背中に向かって飛ぶ火球は、ジャックに当たる直前に破裂する。


 途端に、更に猛烈な熱気と光が四方八方にまき散らされ、俺は思わず岩陰から出していた顔をひっこめてしまう。


「ド派手だな……カーズの火力って、こんなにすごかったのか」


 ここが火炎エリアであることも関係していると思うけど、それを加味しても、カーズの放つ火魔法の威力は凄まじい。


 どうするべきか。


 改めてそう考えた俺は、ふと、足元に目を落として気が付いた。


「そっか……光魔法だ」


『どうしたのニッシュ? 何か思いついた?』


「あぁ、ちょっといい案を思いついた……けど、上手くいくかはやってみないと分からない」


『どっちみち、このまま待ってても仕方ないでしょ。やるわよ!』


 頭の中で響くシエルの声に後押しされるように、俺は岩陰から顔だけを出すと、よく狙いを定めた。


 そうして、両手を地面に当てながら、ラインを思い描く。


 今から描くラインは、今までに描いてきたラインよりも群を抜いて複雑だ。


 だからこそ、俺はより深く意識を集中させる。


 指先から伸びる10本のラインを、狙った場所の地中まで伸ばし、そこからまっすぐ天井まで上昇させる。


 上昇させる過程で、10本のラインを何度も交差させ、網目のような形状になるように仕掛けた俺は、集中が途切れないうちに魔法を発動させた。


 途端、地面から飛び出た岩の柱が、ラインに沿って巨大な網を形作ってゆく。


 丁度、ジャックの進路を妨げるように作られたその網は、多少いびつではあるものの、問題なく機能を果たした。


 というのも、突如現れたその網を避けたジャックの動きが、目に見えて鈍ったのだ。


 当然、カーズがその隙を逃すわけがない。


 即座に放たれた業火は、俺が作った岩の網を素通りして、ジャックの全身を包み込んでしまう。


 その様子を見た俺は、内心ガッツポーズを決めると、隠れていた岩から飛び出る。


 炎に炙られたジャックは、流石にダメージを負ったようで、そのまま真下へと力なく落下する。


 対するカーズはというと、追撃こそしないが、未だに両腕を構えたままジャックを睨みつけている。


 そんなカーズの方へと俺が歩み寄っている間に、頭の中でシエルが問いかけてきた。


『ニッシュ、今なにしたの?』


「見ての通り、罠を仕掛けたんだよ」


『でも、網はよけられたじゃない』


「岩の網はな。でも、影の網は避けきれてなかったぞ」


『影の網?』


「そうそう。炎も光を発してるんだから、岩の網の後ろに影ができるのは当然だろ?」


『……それはつまり、影の網にかかったせいで光魔法が弱まって、速度が落ちたってこと?』


「まぁ、そんな感じかな。正直、あそこまで影響があるとは思わなかったけど。ちょっとくらい隙ができるんじゃね? くらいに思ってた」


 少し優越感に浸りながら、軽い口調でそう言った俺は、カーズの隣に立ってジャックに目を向ける。


 地面に組み伏せたジャックはというと、全身から黒い煙を発生させながらも、まだ意識はあるようだ。


「すごいな……まだ意識があるのか」


 思わず呟いた俺は、隣にいるカーズに視線を向ける。


 カーズはというと、全く俺の方を見向きもせずにジャックを睨みつけたままだ。


「あの、カーズ? そんなに気張らなくても、流石にもうあいつは抵抗できないだろ」


「油断するな。そんなことだと、命がいくつあっても足らんぞ」


「ん。まぁ、そっか」


 カーズの言うことにも一理あると考えた俺は、身構えながらジャックに声を掛ける。


「さて。降参するなら命は助けるけど。どうする?」


 未だにリンクしたままのジャックは歯を食いしばって唸り声を上げながら、俺を睨みつけてくる。


 思わず背筋に冷たいものを感じた俺は、大きく息を吐いて気を張り直した。


 そして、ジャックに向けて告げる。


「とりあえず、他の騎士たちには撤退してもらってるけど。あんたには少し聞きたいこともあるし。捕虜になってもらえるかな?」


 それだけ言った俺は右手を前に突き出すと、ラインを描いた。


 指先からまっすぐ下に落ちたラインは、地中を通ってジャックの元に伸び、彼の身体を拘束するようにまとわりつく。


 直後、発動された魔法によって現れた岩の紐が、ジャックの巨体を地面に縫い付けたのだった。

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