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第176話 即席の砦

「1人とはいえ、やっぱりリンクしてるやつ相手だと、手こずるなぁ……でも、これ以上は無駄だと思うんだよ。だから、早く投降した方が良いと思うんだよねぇ」


 そんなことを言うフレデリックを横目で見た俺は、しかし、返事をすることはできない。


 背後と正面から切りかかって来る騎士達の攻撃を、素早い動きで躱しつつ、反撃に転じる。


 しかし、俺が反撃に出る前に、今度は別の騎士が魔法を撃ち込んで来た。


 正面の騎士を殴ろうとしていた拳をひっこめ、身体を丸めてガードした俺は、風魔法に乗って撃ち込まれる石が収まるのを待ち、頭を上げる。


 そこで俺の隙を突くように、死角からフレデリックが攻撃を仕掛けてくる。


 ここまでが一定のパターンだ。


 どうやら敵は、非常に厳しい訓練を積んで来たらしく、その連携は見事なものだった。


 パターン自体は既に把握できたが、そこから抜け出す術がない。


 そして、攻めに転じる隙も無い。このまま防戦一方では負けてしまう。


 フレデリックの言った言葉が、あながち間違いではないことを理解していた俺は、それでも諦めるつもりは無かった。


 全身にこびりつく、ヒリヒリとした痛みに耐えるように、歯を食いしばった俺は、再び切りかかって来る騎士を睨みつけながら思う。


 諦めたくねぇ。


 せっかく皆で作った町なんだ。


 そんな俺達にとって大切なものを、奪われて、壊されてたまるもんか。


 胃で煮えたぎるようなその思いを、俺が明確に自覚したのはいつだったか。


 少なくとも、この町で暮らし始めるまで、こんな感情を持つことになるなんて、思ってもいなかった。


 そもそも、自分達で何かを作ることなんか、許されなかった。


 自分のために生きる自由すら、無かったのだから。


 振り下ろされる剣を右手の鱗で弾き飛ばし、背中に切り付けて来る騎士を尻尾を吹き飛ばす。


 直後、俺の死角から放たれた風魔法が、俺の全身を右から左へと吹き飛ばそうとする。


 そんな暴風にあおられながら、体勢を整えようとした俺は、すぐ眼前に迫りつつあるフレデリックの姿を見た。


 彼は、右手を後ろの低い位置に構えたまま、何やら狙いを定めている。


 咄嗟に、後ろに飛び退きながら体を逸らした俺は、その瞬間、顎のすぐ下のあたりを何かが掠めたのを感じた。


 慌ただしく動く視界の中で、俺はフレデリックの方を見て、それが何かを確認した。


 下から上へと勢いよく振り上げられたメイス。


 それを高く掲げたままのフレデリックは、1撃目を外したことを理解すると同時に、追撃に転じた。


 言うまでもない。


 高く掲げたままのメイスを、上から下へと、勢いよく振り下ろしたのだ。


 なんとか一撃目を躱すことに成功した俺だったが、咄嗟に後ろに跳びながら体を逸らしたことで、盛大に体勢を崩している。


 そんな状態の俺の胸元に、フレデリックの2撃目が撃ち付けられる。


 即座に両腕でガードを試みた俺だったが、彼の攻撃は想像以上に重たかった。


「がはっ!」


 胸を打つメイスの衝撃が、交差させた両腕を貫き、胸元に到達する。


 同時に、勢いよく地面に叩きつけられた俺は、胸と背中両方から肺を圧迫されたような錯覚に陥った。


 しかし、痛みに悶えている場合ではない。


 尻尾に全力を込めて地面を叩きつけた俺は、その反動を使って、俺の上に乗りかかってこようとするフレデリックを振り払った。


 彼の横腹を蹴り飛ばし、何とか立ち上がった俺は、せき込んでしまいそうになるのを堪えながら、視線を飛ばす。


 俺に睨まれたフレデリックは、少し満足そうな笑みを浮かべると、尻餅をついた状態から立ち上がった。


「やっと一撃。長かったな」


 そこで一旦言葉を区切ったフレデリックは、しかし、少しだけ不満そうな顔をすると、俺の背後に目をやった。


 そして、短く呟く。


「……思ったよりも長くかけすぎたか?」


 目の前のこいつが何を言っているのか、正直理解できなかった俺は、次の瞬間、とある音を耳にした。


 カーン、カーン、ミシミシ、ドォン。


 先頭に集中しすぎていたせいか、全く気が付いていなかった音。


 その音は様々な種類の音が紛れていて、まるで工事でもしているようだ。


 そう、工事の音。


 それらの音は、まぎれもなく俺が聞いたことのあるそれと、酷似していた。


『なんだ!? 何が起きてる?』


 困惑しつつも、眼前に敵がいるので振り返ることができない俺は、気を取り直して身構える。


 と、その時。


 聞き覚えのある声が響いてきた。


「ジェラールさん! 一度退いてください! 私たちが援護します!」


 聞こえて来たマーニャの声を聞いた俺は、やはり振り返る訳にもいかず、目の前に立つフレデリックの様子を伺う。


 どこか呆れたような表情をしているフレデリックは、ヤレヤレと首を横に振りながら俺に向けて告げた。


「あんなこと言ってますけど、どうします? あれで本当に俺達を止めれると思ってんのかな?」


 彼がそんなことを言った直後、1本の矢がフレデリック目掛けて飛んできた。


 完全に急所を狙ったその矢を、フレデリックは手にしていたメイスで弾き飛ばしてしまう。


 しかし、そんなことに動揺するわけでも無いマーニャが、再び声を上げる。


「聞こえてますよ! それより! ジェラールさん、早くしてください!」


 その声を聞いたと同時に、俺は踵を返して走り出す。


 当然ながら、そんな俺の反応をフレデリックが予想していないわけがない。


 俺を捕えようと飛び掛かって来る騎士たちを掻い潜り、何とかマーニャ達のいる高台の麓にたどり着いた俺は、坂を駆け上がる直前、背中に危機感を覚えた。


 振り返りざまに尻尾で迎撃を試みる俺だったが、追ってきたフレデリックは尻尾を跳んで避けて見せる。


 そして、大きく振りかぶったメイスを、俺の脳天目掛けて振り下ろそうとした。


 すぐに横に跳んで避けようとした俺は、刹那、どこかから飛んできた一本の矢を目にする。


 その矢はメイスを高く振り上げているフレデリックの胸元に着弾した。


 当然ながら、鎧を着ているフレデリックに、その矢がダメージを与えることは無い。


 ダメか。


 一瞬頭の中にそんな考えが浮かんだ俺だったが、直後、その考えを自ら否定する。


 カンッという甲高い音と共に鎧に弾かれたその矢は、弾かれた勢いで、俺とフレデリックの間を回転しながら舞う。


 その様子を見た俺は、矢の先端が普通の矢じりではないことに気が付いた。


 円筒状の小さな何かが、矢に縛り付けられているのだ。


 ほんの一瞬のはずが、随分と長く感じられる。


 まるで時間がゆっくりになってしまったかのように感じた俺は、回転する矢の先端の筒から、大量の煙が噴出されるのを目の当たりにした。


「うげっ!?」


 フレデリックのそんな声を聞きながら、横に飛び退いた俺は、そのまま坂を上り始める。


 そして、先ほどフレデリックが言っていた言葉の意味を理解した。


 坂に生えていたはずの木々が、いくつも切り倒されているのだ。


 そうして出来た丸太を、切株に引っ掛けるような形で、簡易的な壁がいくつも作られている。


 そんな壁の裏側に、石や手製の槍を持った男達が待機しているのだ。


 まるで、即席の砦。


 彼らは坂を駆け上がる俺の後ろに向けて、石を投げるなどして敵の追撃を妨げていた。


 中には、風魔法を使って威力を上げようとしている者もいる。


 そうして、高台のてっぺんまで登った俺は、土砂と大量の丸太で塞がれている横穴を見て、唖然としたのだった。

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