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第174話 考えたくない話

 ヴァンデンスに許可を貰ったマーニャが、森林エリアに向かって詰め所を飛び出した頃。


 先に詰め所を出ていた面々が、次々と接敵していた。


 まずは、森林エリア。


 町まで続く道の防御を固めろと、防衛班の面々に指示を出していたジェラールは、駆けて来た伝令から話を聞き、エリアの対角に目を向ける。


 視線の先にあるのは、敵が侵入してくると想定されていた横穴の入口。


 そこに、ぞろぞろと人間が姿を現しているのだ。


 鎧を身に纏っているその姿は、間違いなく、魔法騎士達だ。


 中でも1人、豪華な鎧を着ている者がいる。


 多分、リーダー的な役目の騎士だろう。


「ついに来やがったな……お前ら! ここは絶対に死守するぞ! 全員無事に帰って、イザベラのシチューにありつくんだ! 良いな!」


「おぉ!!」


 町に続く道の前を陣取り、武器を構えている皆に声を掛けた俺は、荒々しく響く彼らの声を聞いて、改めて敵に目を向けた。


 そして、皆に顔を見られないようにしながら、心の中で独白する。


『戦力差がありすぎる』


 人数、装備、練度。


 どれをもってしても、こちらには勝ち目がないように思えてしまう。


『ダメだ、俺が弱気になってる場合じゃねぇな』


 全体の戦力差で負けているのなら、個の力で勝るしかない。


 一応、防衛班のメンバーは全員、ある程度の魔法は使えるようになっているけど、流石に魔法騎士相手には敵わないはずだ。


 だとするなら、この場で唯一リンクを使える俺が、より多くの敵を倒す必要がある。


「おい、そろそろ行こうぜ! ここは俺様達の出番だろ?」


 同じことを考えたのか、足元にいるワイルドが、俺を見上げながらそんな声を掛けてきた。


 彼の提案を躊躇することなく呑んだ俺は、彼を肩に担ぎ上げると、瞬時にリンクする。


 体中に鱗が発生し、体格までもが大きく変化する。


 全身に力がみなぎって来るのを感じた俺は、道を守っている防衛班の面々に目配せをした後、全力で駆け出した。


 この森林エリアは、中心が大きく窪んでいて、見ようによっては大きな闘技場のようにも見れる。


 そんな中心に向かって坂道を駆け下りた俺は、同じように対面から駆け下りて来た1人の騎士と対峙した。


 黒い短髪に少し幼く見える顔立ちの騎士は、銀色の鎧を身に纏い、背中にはなぜか、様々な種類の武器を背負っている。


 剣に槍に弓矢に斧にメイスなど、どうやって背負っているのか不思議だ。


 一風変わった彼の様相を目にした俺が、その騎士に声を掛けようと思った直後。


 騎士の方が先に声を掛けてきた。


「え? まさか、リンクしてんの? 嘘だろぉ~!? そんな話聞いてねぇぞぉ?」


「先を越されちゃってるねぇ。どうする? フレディ」


 見るからに落ち込みを見せる騎士と、そんな騎士を茶化すアライグマ。


 多分、このアライグマが彼のバディなんだろう。


 黙ったまま睨みつける俺の視線に気づいたらしい騎士のフレディは、大きなため息を吐くと、口を開いた。


「まぁ、やるっきゃないかぁ。え~っと。俺はフレデリック・ド・オーモン。見ての通り、魔法騎士だ。大人しく投降すれば、命までは取らない。……なぁ、できれば投降してくれないか?」


 ここまでやる気のない魔法騎士も居るんだな。


 思わずそんなことを考えてしまった俺は、気を取り直して返事をする。


「悪いが、それはできない。俺にも守らなくちゃいけないもんがあるんでな」


「あぁ、まぁ、そうなるよなぁ」


 頭を掻きながら短く言ったフレデリックは、仕方がないとばかりに肩を竦めて見せると、背中に手を伸ばした。


 そのしぐさを見た俺は、咄嗟に身構える。


「え~っと、鱗があるから、斬撃は効きそうにないなぁ」


 そう呟いた瞬間、フレデリックはメイスを手に取ると背中に背負っていた武器をその場に落とした。


 直後、一直線に突進を仕掛けてくる。


 大きく振りかぶったメイスを、俺の脳天目掛けて振り下ろそうとするフレデリック。


 突然の攻撃に、一瞬彼を見失いかけた俺は、左に飛び退きながら、尻尾を使ってフレデリックの腹部に打撃を打ち込む。


「ぶほっ!!」


 見事にフレデリックの腹に命中した尻尾は、その勢いのあまり、彼を後方に弾き飛ばした。


 とはいえ、彼は魔法騎士だ。


 これだけで終わる訳もなく、平然と立ち上がる。


「だぁ~、奇襲失敗。やっぱり、面倒だなぁ」


 そう言うフレデリックの後ろから、ぞろぞろと騎士が歩いてきている様子を見た俺は、額を汗が伝うのを感じたのだった。


 ところ変わって氷雪エリア。


 身体の芯まで冷え切るような猛吹雪の中、メアリーは大声を張り上げる。


「何なんですの!? あいつは!」


 言いながらも氷魔法を発動した私は、目の前に分厚い氷の壁を作り出した。


 普段であれば、そのまま次の攻撃に移るべきなのだが、今回はそうはいかない。


 壁を作ったと同時に風魔法で後ろに大きく跳んだ私は、目の前の氷壁にひびが入るのを目撃する。


 直後、盛大な音と共に、氷の壁は砕け散り、舞い上がった白い靄の中に大きな影が姿を現す。


 4足歩行で、鼻先に大きな角を持っている、大きな生物。


 実物を見たことが無かった私は、改めてその姿を見て、歯を食いしばった。


 サイと呼ばれる動物型のバディ。


 その巨大な角と体重を駆使した突進は、彼女の作り出す氷を、易々と砕いてしまうのだ。


 かといって、サイ自体を凍らせようとしても、その背中に乗っている魔法騎士が炎魔法で邪魔をしてくるのだ。


「フハハハハ!! よし、良いぞライ! 我々の力を示すのだ! そうして、ジャック様に認められようではないか!!」


「当たり前よぉ! それより、落ちるんじゃねぇぞピエール!」


 ライと呼ばれた際の背中に立ち、巨大な大剣を振り回している魔法騎士のピエール。


 その体つきは屈強で、髪は暗めの深紅。


 身に纏っている銀色の鎧が、他の騎士達とは違って豪華なため、ある程度地位のある騎士のようだ。


「大丈夫か!? メアリー」


 背後からイワンの叫びが聞こえてくる。


 どうやら、町に続く道の防衛の方は問題は無いらしい。


 横目で背後を確認した私は、雪の上に着地すると、眼前に迫るライとピエールを睨みながら叫ぶ。


「私は大丈夫ですわ! それよりも、視界が悪いので、皆さんはしっかりと辺りを警戒していてください!」


 叫ぶと同時に氷の槍をいくつも作った私は、それらを風魔法に乗せて放った。


 狙いは当然、迫りくるライ。


 しかし、私の放った槍は悉くピエールの大剣が砕いてしまう。


 その様を見ながら高く跳び上がった私は、吹き荒れる雪をかき集めるように、風魔法と氷魔法を発動する。


 そうして、出来上がった巨大な氷の塊を、ライ達に向けて落としたのだった。


 ところ変わって、火炎エリア。


 エリア全体が熱気に包まれたこのエリアで、カーズは金色の鎧に身を包んだ魔法騎士と対峙していた。


 背後では、クリュエル率いる防衛班の面々が、迫りくる騎士達への迎撃をしている。


 そんな中、ただ立ち尽くしているカーズは、相対する金色の騎士に声を掛けた。


「また会ったな」


 そう言った俺は、目の前の騎士のことを思い出す。


 彼は確か、ジャック・ド・カッセルという名前だったはずだ。


 最後に見たのは、カナルトスでのこと。


 大きな獅子のバディを引き連れているので、間違いはないだろう。


「ふん……言われてみれば、あの時に倒れていた男か」


 言われて思い出した様子のジャックは、隣に立つ獅子の頭を撫でつつ、口を開いた。


 そんなジャックに、俺は問いかける。


「あの後、マルグリッドは見つかったのか?」


 質問を聞いたジャックは、小さく笑みを溢すと、返事を述べた。


「貴様にそれを教えるとでも思っているのか?」


 言うと同時に、獅子とリンクしたジャックは、その巨体で俺を見下ろしながら、更に告げる。


「これが最後の警告だ。大人しく投降しろ。これ以上は、何を言おうと容赦せん」


 威圧的に告げるジャックを見上げた俺は、隣を浮遊していたシェミーに目配せをすると、一歩前に出た。


 それで何かを悟ったらしいシェミーは、サッと後ろに下がってゆく。


 ある程度シェミーが下がったことを悟った俺は、深いため息を吐くと、ジャックに向けて告げた。


「悪いが、俺はもう、大人しくしているつもりは無い。これ以上は、見過ごすわけにはいかない」


 言うと同時に、両手を左右に大きく広げた俺は、全力で炎魔法を展開する。


 身体の奥底から湧き上がるような熱が、肌から染み出て、周囲の空気を熱く焦がす。


 そうして、俺を囲むように発生した大量の炎を、俺はジャックに向けて放った。


 とてつもない熱気のせいか、ジャックは炎に包まれ、彼の立っていた周囲の岩が、ドロドロと溶解し始めている。


 そんな様子を見た俺は、しかし、安堵することはできなかった。


 眼前にいたはずのジャックの声が、全く違う場所から聞こえてきたのだ。


「リンクせずにそれだけの威力……いや、貴様、どういうことだ?」


 頭上から聞こえた声を見上げた俺は、落下してくるジャックから距離を取るために、左に向かって移動する。


 そんな俺を凝視するジャックは、轟音と共に着地すると、煌々と輝く身体をのそりと動かしながらニヤッと笑った。


「貴様は生け捕りだな。すぐにでも報告せねばなるまい」


 ジャックの言葉の真意を理解しかねた俺は、身構えつつ、彼を睨みつけたのだった。


 そしてついに、3つのエリアで激しい戦闘が始まる。


 この防衛戦は、この俺ウィーニッシュにとって、1つの転換点だったと言ってもいい。


 知っているつもりだった。


 見てきたつもりだった。


 そんなこの世界に、より深い闇が存在しているのだと、知らされた事件。


 捕食者の悲哀を、知ることになったきっかけ。


 全てを終えた今でも、俺には彼らの抱えている闇の底を、見ることができないでいる。


 きっと、見ない方が良いのだろうけど。


 だとしたら、見たものはどうなってしまうのか。


 あまり考えたくない話だ。

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