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第158話 取り敢えずの目標

 下に目を落としながら、なるべく瓦礫の少なそうな場所を目指して、ジップラインを伸ばした俺は、躊躇することなく魔法を発動させる。


 が、不思議なことに、俺のジップラインは発動しなかった。


「発動しない!? どうなってるんだ?」


 そのまま為す術もなく落ちてゆく俺は、薄暗い視界の中に、近づいて来る穴の底を目にする。


 先に落下してしまった大量の砂や瓦礫たちが、山のように積み上がっている上に、俺は勢いよく突っ込んだ。


 砂が大量にあったおかげだろうか、なんとか地面と衝突して潰れてしまうことは避けれた俺は、埋もれた砂の中から這い出る。


 未だに降り注いで来る砂や石から頭を防御しながら、上を見上げた俺は、すぐにこの状況を理解した。


「この大穴は……もしかして、ダンジョンなのか?」


 暗闇の中、遥か頭上にぽっかりと空いた丸い穴の中に、青い空が見て取れる。


 その穴の直径はかなり大きいようで、ざっくり見た感じでは、カーブルストンの街がそっくりそのまま穴の中に落ちてしまったようだ。


 その証拠に、周囲には建物と思われる瓦礫がいくつも転がっている。


 未だに舞い上がっている砂ぼこりのせいで痛む目を、うっすらと開けながら周囲を見渡した俺は、ゆっくりとその場に立ち上がった。


 しっかりと仁王立ちしようとしても、足場の砂にくるぶし辺りまで埋もれてしまう。


 かなり歩きづらいな。


 そう思った俺は、もう一度ジップラインを試してみたが、やはり、ジップラインを使うことはできなかった。


「なんで使えないんだ? ……ぶぇ、しゃべると口に砂が入るな」


 口の中に入り込んだ細かな砂を吐き出した俺は、腕で口周りを覆いながら歩き出す。


「誰かいないか! 声が聞こえたら何か合図をしてくれ!」


 なるべく砂を吸い込まないようにしながら、そう叫んだ俺は、右手の方から何やら唸る声を耳にした。


 急いでそちらに向かった俺は、砂の中から生えている2本の腕を見つける。


 すぐにその腕を掘り起こしてみると、万歳の状態で埋もれていたアンナが、姿を現した。


 砂の上に這い出した彼女は、しばらくケホケホとせき込んだ後、俺を見上げて告げる。


「ありがとう、助かったわ」


「礼は良いよ。それより、他の皆を探そう」


「そうね。クレモン! みんな! どこにいるの? 返事して!」


 そうして、周囲を探し回った俺とアンナは、無事に他の皆を助け出すことができた。


 とはいえ、それはあくまでも近くにいた人々だけで、カーブルストンにいた人間を全員助け出せたわけじゃない。


 特に、建物の中にいた人々に至っては、一人も確認できていない。


 落下の衝撃で、建物が崩壊してしまっているのだ。


 あまり考えたくないけど、生き延びている可能性は低いように思える。


「このあたりにいるのはこれで全員かしら」


 咳込んでいるアーゼンや、アーゼンとサンドワームの戦いを見物していた人々を見渡して、アンナが言う。


 そんな彼女は、どこかうんざりとしたような表情で、はるか遠くに見える空を見上げた。


「本当にダンジョンが発生してたとはね……」


「ん? なんだよそれ、まるでダンジョンが発生してたのを知ってたみたいな口ぶりだけど」


「えぇ。まぁね。正直、信じてなかったけど、まさか街の下にあるとはだれも思わないじゃない?」


「おい、それはどういうことだ!」


 バツの悪そうな表情で告げたアンナに、アーゼンが声を荒げて詰め寄る。


 とはいえ、歩きにくい足場のせいで、その勢いは半減してしまっていた。


「ちょっと待て、アーゼン。今は口げんかしてる場合じゃないだろ。とにかく、カーブルストンの街があった辺りを回って、生存者を助けよう。詳しい話はその後だ」


 俺の提案を聞いたアーゼンは、舌打ちをしてアンナを睨んだかと思うと、そのまま近くの瓦礫の方へと歩き出した。


 彼の後に着いてゆくロウと、街の住民達を見送った俺は、そのままアンナと顔を見合わせる。


「なんか、アンタと一緒にいると面倒ごとに巻き込まれる気がするわ」


「いや、それはこっちのセリフだっつの。それより、さっきの話、詳しく教えてくれよ。事前にダンジョンがあるって知ってたのはどうしてなんだ?」


 そう問いかけた俺は、アーゼンが向かった瓦礫とは別の方へと歩き出した。


 俺の後について来るアンナは、足元に注意を向けながらも、話を始める。


「知ってたって言っても、この街に来て初めて知ったのよ? それも、あの領主の屋敷でね。カーブルストン周辺の街が砂漠化してる理由は、ダンジョンが発生しているからってガジュツ所を見つけたの」


「ダンジョンが砂漠化の原因? そんなことあるのか?」


「私もそう思ったわ。だから信じてなかったし。でも、こんな状況になったら……ねぇ。何か関係あるのかと思っちゃうわ。あ、クレモン、この近くを飛んで、誰か居そうだったら、すぐに教えて」


「分かった」


 指示を受けたクレモンは小さく頷くと、アンナの右肩から飛び立って俺達の周囲を旋回し始めた。


 フクロウであるクレモンは、この薄暗い中でもある程度目が効くのだろう。


 だったら俺も、と考えた俺は、頭の上にいるシエルとリンクしようとした……が。


「あれ? リンクできない?」


「ニッシュ、今リンクしようとしてたの? 全然気づかなかったわ。ちょっと待ってね……あれ?」


 いつもなら何も言わずとも、リンクしようとすればシエルが合わせてくれるはずなのだが。


 なぜか彼女は俺の考えに気づかなかった。


 そのうえ、彼女がしっかりと意識しても、リンクできないようだ。


 リンクできないことに戸惑っている俺とシエルに気が付いたらしいアンナが、不思議そうに俺に問いかけてくる。


「どうしたの?」


「いや、リンクできないんだ。……そういえば、さっき魔法も使えなかった」


「え? そんなこと……あれ? 本当だ。私も使えないかも」


「マジか……ってことはまさか、このダンジョン内では魔法を使えないとか?」


「いやいや、そんなことあるわけ」


 そう言って笑って見せたアンナの表情は、瞬く間に曇って行った。


 何度も魔法を行使しようとしても、失敗する事実に気が付いてしまったのだろうか。


 明らかに焦りを顔に浮かべているアンナを励ますために、俺は提案する。


「そうだ、その学術書をもう一度読んでみよう。ダンジョンができてることを予言してたんだ。何かしら脱出のヒントがあるかもしれない」


「そ、そうね。こうなったら、領主の屋敷を探して、書斎を掘り起こすわよ」


「それと同時進行で、生存者の確認だな」


 俺の言葉を聞いて、アンナは力強く頷いて見せた。


 取り敢えずの目標が見えて、安心したのだろうか。


 そうこうしていると、アーゼンがいくつかの瓦礫を掘り起こし、その付近で数人の住民を見つけ出している。


 俺達も負けてはいられないと周囲に目を配り、ようやく、領主の屋敷の残骸を見つけ出すことに成功したのだった。

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