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第150話 ヘルハウンズ

「ヘルハウンズ?」


 カーズの言葉を復唱した俺は、傍に立っていたメアリーと視線を交わした。


 どうやらメアリーも初めて聞いた単語らしく、俺に対して首を傾げてみせる。


『なんだか、物騒な名前ね』


 シエルは俺の頭の中でそう呟いたかと思うと、一方的にリンクを解除してしまった。


 前にチラッと聞いた話だが、リンクしている間は、ずっと神経を尖らせているとかなんとかで、ものすごく疲れるらしい。


 俺の頭の上にうつ伏せになった彼女は、手足や尻尾を力なく投げ出している。


「お疲れ、シエル」


「ふぅ……ホントに疲れたわよ。あとは任せるわ」


 そう言って休息を始めたらしいシエルの背中をそっと撫でた俺は、ジャックとアンナに詰め寄っているカーズに目を向けた。


 彼の表情には憤りが含まれているように見える。


「魔法騎士がなぜ、あいつらと行動していた? 何が目的だ?」


「機密事項だ。そう簡単に話して回る内容ではない」


 カーズの問いかけに淡々と返答するジャック。


 そんな彼の態度が気に食わないのか、カーズはさらに強い憤りを滲ませる。


「機密事項?」


 怒りに身を任せて、今にもジャックに殴りかかりそうなカーズ。


 すかさず彼とジャックの間に割って入った俺は、仲介役を買って出た。


「おい、ちょっと落ち着けって。ジャックとアンナに怒りをぶつけてもしょうがないだろ? こういう話は、大体お偉いさんが絡んでるもんだ。現場で働く人間は、その決定に従うしかないんだよ」


 言いながら、俺は前世の記憶を思い返す。


 現場とお偉いさんの間で食い違う意見に、板挟みされるような状況。


 かといって、関係のない人に助けを求めることなんて、到底できない。


 しがないサラリーマンなら誰もが抱くジレンマというやつだ。


「どうしてそんなに現場目線なのよ。君は別に、魔法騎士でもなんでもないでしょ」


 俺に呆れたような視線を向けるアンナは、そう呟くとリンクを解除した。


 背中にあった大きな翼が消え去り、代わりに姿を現したフクロウのバディが、アンナの右肩で羽を休め始める。


 そんなアンナに苦笑いを返した俺は、申し訳程度に告げた。


「ま、まぁ、細かいことは気にしないでくれ」


「で、これからどうしますの? このままおしゃべりを続ける気でしょうか?」


 話が全く進展しないことに業を煮やしたのか、メアリーが髪の毛をいじりながら告げた。


 彼女の言葉に賛同するように頷いたアンナが、この場の全員を仕切りだす。


「そうね、ここで暇を潰してる場合じゃないわ。街の見回りに行かなくちゃ。君達にも手伝ってもらうわよ。それで構いませんか? カッセル様」


「あぁ、だが、貴様は別だ」


 そう告げたジャックが睨みつけたのは、イワンだった。


 彼自身も、ジャックの発言の意味を理解しているらしく、肩を竦めてため息を吐いている。


『イワンが捕まるのは避けた方が良いな。じゃないと、俺達がここに来た意味がなくなる』


 俺がそんなことを考えた瞬間、何かが転がるようなカランコロンという音が、響いた。


 咄嗟に地面に目を走らせた俺は、いつか見たことのある筒状の物体を目にする。


 その筒状の物は1つだけじゃなく俺達を取り囲むように転がっていて、例の如く煙を吐き出し始めた。


「何奴!?」


「な、なにこの煙! くさっ!」


 ジャックとアンナがそんなことを叫ぶ中、俺はこの煙幕を投げた人物の思惑を理解し、すぐに走り出す。


 今の今まで姿を見せないと思ったゲイリーが、俺達の話を盗み聞きして、逃げるべきだと判断したのだろう。


 先ほどの煙幕がゲイリーの物だと知っているので、多分、他の皆も彼の思惑に気が付いているはずだ。


 唯一気づいていないとすれば、それはイワンだけだろう。


 北方面に走りながら、さっきまでイワンが居た方向に目を向けていた俺は、煙の中を連れ立って走る2つの影に気が付く。


 フードのようなものを被っているシルエットから察するに、ゲイリーが誰かを引き連れているようだ。


『状況から考えて、ゲイリーがイワンを連れ出したみたいだな』


 これで後顧の憂いは無くなった。


 俺がそう考えた時、背後から声が響いて来る。


「待てぇ! 貴様ら! 何のつもりだ!」


「カッセル様! 多分あいつらはゼネヒットのある北の方に逃げたと思います!」


「やべっ! 追って来てるじゃん!」


 煙を抜けて、屋根の上に飛び乗った俺は、街の北に向けて走りながら背後を盗み見た。


 俺と同じく北を目指している他の皆のさらに後ろから、煙をかき分けてジャックが姿を現す。


 リンクした状態の彼は、怒りを乗せた鋭い眼光を俺達に投げかけてきた。


「状況は違うけど、結局追いかけられんのかよ!」


 他の皆もジャックの様子を見たらしく、全力で屋根の上を走っている。


 まぁ、肉食獣のような獰猛な表情で追いかけられたら、普通に怖いよな。


 心の中で軽口を告げた俺は、頭の上でぐでっとしていたシエルを掴み上げ、走りながら彼女に語り掛けた。


「シエル! 休んでるところ悪い! 今すぐリンクできるか!?」


「ん? ……はぁ。あとは任せるって言ったじゃない。そんなことも一人でできないの?」


「あぁそうだよ! 俺はお前が居ないと何にもできない、木偶の棒だよ! 頼む、リンクしてくれ!」


「仕方ないわねぇ……」


 面倒くさそうに告げるシエルは、しぶしぶ俺とリンクしてくれる。


 急速に敏感になる5感に身体を馴染ませた俺は、踵を返し、ジャックに向かって屋根から飛び降りた。


「向かってくるかぁ! いい度胸だ!」


 叫ぶジャックが両腕を大きく振り上げる。


 そんな彼の眼前に飛び込んだ俺は、両手からラインを伸ばすのと同時に、尻尾にポイントジップを設置した。


 直後、ジャックが大きなクロスを描くように、空間を切り裂く。


 しかし、彼の攻撃が俺の身体を切り裂くことは無かった。


 ジャックの爪が空間を切り裂く直前、俺は尻尾に作っていたポイントジップで、俺自身の身体を地面に向けて弾いたのだ。


 猛烈な衝撃を背中に受け、四肢で地面に着地した俺は、頭の上をジャックの斬撃が掠めるのを感じながら、地面の中にラインを走らせる。


 そうして、すぐ真上にいるジャックを見上げた俺は、勢いよく彼の顎下に飛び込み、アッパーを繰り出した。


 同時に、地面に走らせていたジップラインを発動する。


 俺のアッパーを食らって、後ろによろけたジャックは、地面から現れた10本の岩の槍によって、身体を拘束されてしまった。


 流石のジャックも、これで当分は動けないだろう。


「悪いな。ここで捕まる訳にはいかないんだ」


 それだけ告げた俺は、背後で待てと叫ぶジャックを置き去りにして、皆を追いかける。


 その後、無事に街を出た俺は、既にセルパン川のほとりで集合していた皆と合流し、帰途につく。


 ゼネヒットへの道中、返る場所もなく、おまけに俺達の話に賛同したイワンが仲間になったことは言うまでもないだろう。


 ちなみに、セルパンキーパーズに所属していた漁師達も、カナルトスを抜け出して俺達の仲間に加わった。


 1つだけ気がかりがあるとすれば、サーペントのことだ。


 結局、サーペントが暴れた理由も分からないし、倒れた奴があの後どうなったのか知らない。


 案外生きていて、ひっそりと河の底に戻ってくれていればなんて思うが、そんな願望は叶うだろうか。

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