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第148話 騎士の誇り

 マーニャ達と別れた後、俺はカナルトスの街に向かった。


 いたるところから砂煙が上がっている街の上を、注意深く観察しながら飛び回っていると、どこからともなく金属を弾くような音が聞こえてくる。


 すぐに音のする方に向かった俺は、記憶の欠片の中で見たのと同じような光景に鉢合わせた。


 宙を漂いながら鞭を振り回すマルグリッドと、鞭の攻撃をナイフやカットラスでいなすクリュエル達。


 二人の背後には、例の如く屋根の上に弾き飛ばされてしまった様子のカーズが横たわっていた。


 そんな彼の元に降り立った俺は、目を閉じたままのカーズに話しかける。


「大丈夫か? 目の傷、結構深そうだけど」


「……この程度、何の問題もない」


 俺が傍に降り立ったことに気づいていたのか、全く驚く様子のないカーズは、目を閉じたまま応えてくる。


 しかし、彼の負っている傷はどう見ても問題が無いようには見えない。


『こいつ、絶対に強がってるわよ』


 頭の中で呟いたシエルに心の中で賛同しながら、俺はため息を吐いた。


「で? カーズ、もしかしてお前……っ!?」


 マルグリッドのことを知ってるのか?


 そんな、1つの疑問を投げかけようとした俺は、不意に現れた気配を警戒するために、踵を返した。


 背後に突如として現れた気配の正体は、ジャックという名の魔法騎士。


 金色に輝く鎧に身を包んだ彼は、俺達と同じ建物の屋根に降り立ったらしく、片膝を立てた状態でうずくまっている。


 そうして、ゆっくりと立ち上がったジャックは、隣に居る獅子型のバディを撫でつけながら、口を開いた。


「さて、貴殿らに告げる。大人しく投降せよ。大人しくするなら、危害は加えん。騎士の誇りに誓おう」


「また濃いのが来たなぁ……なんだよその金ぴかの鎧は。そんなに目立ってると、戦場じゃ長生きできないんじゃない?」


 威厳を放つように、厳粛な雰囲気で告げるジャックに対して、俺は少し呆れながら返答した。


 もちろん、投降するつもりなど全くない。


 そんな俺の考えを読んだかのように、ジャックの隣に座っている獅子が告げる。


「ジャックよ、この小童はおぬしを侮辱しておるようだぞ?」


「仕方があるまい。まだ子供のようだしな。現実というもの教えてやろう。アラン、準備は良いか?」


 そう言ったジャックが、アランと呼ばれた獅子の頭をそっと撫でた途端、神々しい光が辺りに放たれる。


 直後、猛烈に嫌な予感を覚えた俺は、なるべく光を見ないように目を閉じながら、横っ飛びに建物から飛び降りる。


 ゴロゴロと地面を転がった俺は、咄嗟に屋根の方を見上げて、背筋が凍った。


 俺が先ほどまでいた場所付近の屋根が、大きく抉られているのだ。


 まるで、巨大な爪で切り裂かれたようだ。


 普通に考えれば、岩でできた建物の屋根を切り裂くことなど不可能だろう。


 そんな爪痕の傍にジャックと思われる男が立っている。


 先ほどまでの姿からは想像もできないほど、筋骨隆々になって巨大化した姿のジャック。


 恐らく、リンクしたことによって姿が大きく変わったのだろう。


 非情に強そうな彼の見た目に、若干気後れしながらも、俺はジャックに文句を言った。


「ちょっ! 子供相手にいきなり本気を出す騎士がどこに居るんだよ!」


 思わず叫んだ俺に対して、ジャックだけでなくシエルまでもが、俺の言葉を否定した。


「貴様がただの小童ではないことなど、既に知っている!」


『ニッシュ、ジャックの言う通りよ。協力してもらったとは言っても、普通の子供はサーペントなんて倒せないもん』


「まぁ、確かにそうだよなっ!」


 返事をすることさえ許さないつもりなのか、ジャックは俺が短くぼやいた瞬間を狙うように、屋根の上から飛び降りてくる。


 当然のように振り上げられている剛腕と、その先端の爪を見て、俺はすぐさま後ろに飛び退いた。


 直後、飛び退く直前まで俺がいた場所の地面が、巨大な爪によって切り裂かれる。


「あの爪の攻撃……一撃でも喰らったらシャレにならないぞ」


『そういえば、さっきの攻撃にカーズは巻き込まれてない?』


「あっ!」


 シエルの呟きを聞いた俺は、焦りを抱きながら屋根の上に目を向ける。


 流石のジャックも、戦闘不能状態に陥っているカーズに危害を加えるつもりは無かったらしい。


 さっきまでと変わらず、横たわっている彼の姿を確認できた。


「騎士としての誇りってやつに感謝しないとな」


 視界の右端で、未だに戦闘を繰り広げているマルグリットとクリュエルとイワンを気にしながら、眼前で身構えるジャックを、俺は睨みつける。


 そして、両手の先からラインを伸ばしながら身構えた俺が、今まさに一歩を踏み出そうとしたその瞬間、空から聞き覚えのある声が響いてきた。


「やめてください! カッセル様!」


 そう叫びながら降りて来たのは、アンナだ。


 アンナの後ろにはメアリーの姿もあることから、サーペントの拘束を終えて戻って来たところなのだろう。


 美しく白い翼を羽ばたかせて、俺とジャックの間に着地した彼女は、荒れた呼吸を落ちつけながらジャックに話し始めた。


「カッセル様、今は彼らと争っている場合ではありません。サーペントの放った浮き水によって、街のいたるところに負傷者が居ます。まずは、彼らの救援が先です」


「それももちろん重要だが。その小童が暴れれば、より重大な被害が出るぞ?」


「彼はサーペントの攻撃を止めるのに一役買ってくれました。それについては、カッセル様もご存じのはずです。それに、彼は事前にサーペントが現れることを知っていました。そして、私に警告してきたのです」


「なに……!? それは本当か?」


「はい。騎士の誇りに誓って」


 そこで会話は途切れ、2人は揃って俺のことを見つめてくる。


 ジャックはどこか猜疑心にあふれたような視線。


 アンナはどこか珍しいものを見るような視線。


 各々の考えには違いがあるようだが、アンナの説得のおかげで、ジャックはその敵対心を一旦納めてくれたみたいだ。


 これで一件落着。


 そう思ったのもつかの間、右の方から乾いた金属音が鳴り響いてくる。


 マルグリッドの放った鞭の一撃で、クリュエルのナイフが大きく弾き飛ばされたようだ。


 丸腰になった彼女が、咄嗟に退避しようとするところに、ケラケラと笑うマルグリッドが鞭を放つ。


 しかし、マルグリッドの攻撃がクリュエルに届くことは無かった。


 イワンが手にしていたカットラスで、華麗に弾きかえしたのだ。


 そうこうしている内に、ナイフの元にたどり着いたクリュエルが、戦線に復帰する。


 そんな様子を一通り眺めた俺は、同じく眺めているアンナに声を掛けた。


「あの……速くマルグリッドを止めてもらえませんか?」


「え? あぁ……マルグリッドさん! 止めてください!」


 俺の言葉で我に返ったらしいアンナが、そう言いながらマルグリッドの方へと駆け寄ってゆく。


 そこでようやくアンナの様子に気が付いたらしいマルグリッドは、やめるように告げるアンナを見やると、ニヤリと笑った。


 途端に嫌な予感を覚えた俺が動くよりも早く、マルグリッドの鞭がアンナに向けて放たれる。


「おい!」


 仲間割れか!?


 すぐにアンナの元に飛び込もうと思った俺は、直後、そんな必要は無いのだと理解した。


「ちょっと! 危ないでしょ!」


 目にもとまらぬ速さで剣を抜き取ったアンナは、何事でもないように鞭を弾き返したのである。


「これが魔法騎士の実力か……」


 そんなことを思わず呟いた俺は、ひどく不機嫌そうにしているマルグリッドの表情に気が付き、言葉を失う。


『ニッシュ、こいつらって本当に仲間なのかしら?』


 シエルの呟きを聞いて、俺も同じ疑問を抱いたのだった。

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