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第142話 より大きな羽

 問答無用でアンナ達に連行された俺とメアリーは、カナルトスで最も大きいと思われる建物、カッセル邸の一室に通された。


 その部屋にはすでに、小さな鳥かごのようなものに入れられたシエルとルミーが、机の上に置かれている。


 シエル達が無事であることにホッと安堵した俺は、とりあえず椅子に座って部屋の中を見回した。


 岩を削ったりして作られたと思われる屋敷の内装は、外見の武骨さとは裏腹に非常に凝った作りになっている。


 とはいえ、両手を拘束されている以上、俺達が客として扱われることは無いだろう。


 もう少し手の拘束を緩めることができないか試行錯誤をしながら待機していると、おもむろにアンナが部屋に入ってきた。


 彼女は俺たち二人に目を配りながら、手元の資料を机の上に置き、静かに告げる。


「さて、まずは少年から話を聞きましょうか。あなたの名前はウィーニッシュで間違いないわね?」


『なんで知ってるんだよ……』


 意表を突かれた俺は、黙り込んだままアンナのことを凝視してしまった。


 本来ならば、適当な名前を名乗ってしらを切るべきなんだろうけど、動揺のあまり、頭が回らない。


 そんな俺の反応を確かめるように、アンナはそのきれいな瞳で俺のことを見つめる。


 俺の様子から何らかの情報を得ることができたのか、小さく頷いた彼女は、そのまま言葉を続けた。


「君はゼネヒットに夜な夜な現れるという、小さな怪人のことを知っているかしら?」


「さぁ? なんのことだか」


 次こそはしらばっくれることに成功した俺だが、彼女が信じてくれたとは到底思えない。


 それを裏付けるように、アンナは淡々と話を続ける。


「その怪人は、毎晩、警備を掻い潜りながらゼネヒットの街中を駆け巡るって噂なの。そして、その噂が立ち始めたのと同時期に、ゼネヒットで窃盗の噂も立ち始めたわ」


「いや、だから俺はそんなこと知りませんって」


「……窃盗の被害を受けているのは、殆どがバーバリウス商会に関わりのある店舗や倉庫なのよね。で、これを聞いて、君はどう思う?」


『これは完全に疑われてるなぁ……しかも、窃盗の方も調べが付いてるのか。まぁ、俺をどれだけ調べたところで、窃盗の証拠は出てこないけどな』


 否定する俺の言葉など完全に無視して、アンナは話を続ける。


 仕方がないので、俺は少しだけ考えたフリをしながら、問いかけに答えることにした。


「どう思う、ですか。そうですね、その怪人はよほど器用な奴なんだなぁと思います」


「そう。ちなみに、その怪人はここ2週間ほど、ゼネヒットの街に姿を現していないらしいの。今、どこにいるのかしらね?」


「はぁ。そんなこと俺に言われても」


 しばし流れる沈黙。


 肌にべっとりと貼りつくようなその沈黙に、俺が強烈な居心地の悪さを覚え始めた時、アンナが小さなため息を吐いて、メアリーに目を向けた。


「じゃあ、次。メアリー・エリオット。あなたはこんなところで何をしているの?」


「私はメアリー・エリオットなどという者ではありませんわ! 人違いではなくて?」


 勢いよく否定して見せるメアリーだが、その口調と身に纏っているドレスのせいで、信ぴょう性は皆無だ。


 アンナも俺と同じ意見のようで、呆れたような表情を浮かべつつ、話を続けた。


「あなた、それで本当にごまかせてると思ってるわけ? まぁ良いわ。あなたはロゴフスキ領のデカウ村に匿われていた。これは間違いないわね?」


「っ……」


 これもまた図星を突かれたメアリーは、黙り込んでキッとアンナのことを睨みつけている。


 そんな彼女のことなどお構いなしとでもいうように、アンナは話し続ける。


「そのデカウ村で、数週間前に戦闘行為があったみたいなの。で、調べてみると、2人の人間の行方が消えていた。一人は、黒焦げになって死んだはずの男。もう一人は、匿われていたはずのあなた」


 そこで言葉を区切ったアンナは、思い出したように俺の方へ目を向け、悪戯っぽく笑ってみせる。


「そういえば、ゼネヒットの小さな怪人がデカウ村に現れたって噂もあったわね。あなた達がここに一緒にいるのは偶然かしら?」


『ほとんど全部筒抜けじゃん! どうやってそこまで調べたんだ?』


 表情や声には出さないようにしながら、俺は一人で動揺していた。


 そんな俺の動揺を見抜いたとでも言うように、アンナはその長い金髪を左手でかき上げると、首のストレッチをしてみせる。


 まるで、最後の切り札を出そうとするような彼女の仕草に、俺が身構えた時、アンナはおもむろに腰のポーチから小さな仮面を取り出した。


「それは!?」


 咄嗟に叫んでしまったメアリーが、しまったという表情で硬直している。


「これはやっぱりあなたの物ね。安心して? 後で返却するつもりだから」


 一旦言葉を区切るアンナ。


 彼女は手にしていた仮面を机の上に置くと、「その代わり」と付け加えながら、俺たち二人に問いかけてきた。


「仮面をつけたドレスの女性が私達を嗅ぎまわっていたという報告が上がっているわ。あなたたち、何を企んでるの? それを教えてくれたら、仮面は返してあげるわ。まぁ、内容次第だけど」


 勝ち誇ったような表情のアンナを見ながら、俺は考える。


 どうすればいい?


 状況を考えれば、最悪だ。


 本心を言えば、今すぐにでもここから抜け出して、考えうるだけの対策を構築したい。


 けど、目の前の魔法騎士、アンナから逃げながらじゃ、対策なんて打てないだろう。


 そこでふと、俺は記憶の欠片で見たアンナの姿を思い返す。


 彼女だけが、サーペントのことを知っていた。


 それがどんな意味を持っているのか、今の俺には分からない。


 ただ一つ言えるのは、彼女は俺が知らないことを知っている可能性がある。


 それだけだ。


『一か八かの賭けだな』


 前にミノーラも言っていたはずだ。


 未来を展望するためには、より大きな羽が必要になる。と。


 それが、アンナの持っている翼の事なんじゃないか?


 まぁ、違うんだろうけど。


 しょうもない考えが頭の中を駆け巡り、自分に呆れながらも、俺は意を決する。


 深いため息を吐いて苦笑いを浮かべた俺は、アンナの瞳を凝視しながら告げたのだった。


「俺達は、この街を守るためにここに来たんだ。近いうちに、伝説の龍、サーペントが現れて、街を破壊するぞ」

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