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第137話 追憶:視線の主

「え? マーニャ!? ちょ、ゲイリー! どういうことだ!?」


 不穏な言葉を残して水の球から出て行くゲイリーに対して、俺は声を掛ける。


 しかし、彼は俺の言葉を無視したまま、包囲網を作っている水の塊の方へと飛んで行った。


 ゲイリーが水の球から出た途端、例の如く無数の弾丸が彼に向けて放たれるが、それらの弾丸は悉く打ち消されている。


 どうやらゲイリーは、身体の周囲に水による防御膜のようなものを展開しているらしく、それが弾丸を吸収しているみたいだ。


 俺達を包み込んでいる、この水の球を応用した魔法なのだろう。


 そんな彼の後ろ姿を見つめていると、メアリーが声を掛けてきた。


「ウィーニッシュ、行きましょう」


「……あぁ、分かった」


 彼女に促され、俺は意を決した。


 ゲイリーが進んでいった方向は、まだ柱による補強が済んでいない方角だ。


 俺に着いて来いとでも言うつもりなのか。


 もしくは、彼が包囲網を崩してくれる隙を突けと言うことなのだろう。


「行くぞ!」


 俺は改めて20本のラインを描きながらメアリーに呼びかけた。


「準備は出来てますわ!」


 威勢よく帰って来たメアリーの返事を聞いた俺は、すぐさま水の球から飛び出す。


 それと同時に、張り巡らせていたジップラインを発動させる。


 俺やメアリーを取り囲み、大きな螺旋を描いているラインには、先ほどまで俺達を包んでいた水が乗っている。


 簡易的な水の防御壁を作ってみたんだが、案外うまくいって良かった。


 所々に隙間があるような出来だけど、ノーガードよりは断然マシだ。


 その水の渦を纏ったまま移動を開始した俺達は、前方でゲイリーが戦闘を始めたことに気が付く。


 河から水を集めて大きな剣状にしたそれで、浮いている水の塊を殴りつけている。


 殴られた水の塊は、為す術もなくゲイリーの操る水の剣に飲み込まれたかと思うと、そのまま姿を消してしまった。


 倒す、というよりは、吸収する。そんな感じの攻撃だ。


「今だ! 行け!」


 包囲網に穴が開いた瞬間、ゲイリーが俺達に向けて声を張り上げる。


 言われるまでもなく、加速を開始していた俺達は、俺達の後を追いかけようとする水の塊の方に向き直っていた。


 そんな彼とすれ違い、俺達は直進する。


 心なしか、頭上の街の方からも戦闘の音が聞こえるような気がするが、今はそれどころではない。


「よし! 急いで柱作って、街に行くぞ! 準備は良いか!」


「言われなくとも、準備は万端です!」


 それから俺とメアリーは、作業のように淡々と柱を造り上げた。


 自分たちの仕事を終えた俺たち2人は、未だに戦い続けているゲイリーの言葉に従い、街へと向かった。


 ここまでの時間は、体感で10分くらいだろうか。


 いよいよサーペントと戦うことになるのかと、息巻いて街に上がった俺達は、ずっと聞こえていた戦闘音の正体を目の当たりにする。


 未だに街を見下ろしているサーペントと、宙を舞うアンナが、銃撃戦を行っていたのだ。


 大量の水を駆使して、無数の弾丸を打ち続けるサーペント。


 そんな化け物の攻撃を素早い動きで躱しながら、崩れてしまった瓦礫を弾丸として放つアンナ。


 両者の戦いの余波は、街全体に広がっていると言っても過言ではないだろう。


 ただ、正直に言って、アンナの方が劣勢だと言わざるを得なかった。


 その証拠に、彼女は力の9割を防御か回避に使用しているらしく、たまに訪れる隙を突いて、攻撃に転じているからだ。


 これでは時間の問題だろう。


「メアリー。氷魔法でサーペントの動きを封じることとかできないか?」


「あれほど大きなものを凍らせたことがありませんので、難しいかと。サーペントが河の上に倒れこんでくれない限り、できないと思いますわね」


「倒せればいいのか……いや、そんな簡単な話じゃないか」


 色々と方法を模索してみたが、何も良い考えが思い浮かばない。


 どうしたもんか、と頭をひねる俺とメアリーは、直後、視界の端で動くピンク色の影に気が付き、身構えた。


 人気のなくなった通りのど真ん中で身構える俺たち二人。


 そんな俺達のことを凝視しながら姿を現したのは、予想通り、マルグリッドだ。


 なぜか崩れた建物の中から出てこようとしない彼女は、ニヤリと笑みを浮かべると、持っている鞭を構える。


「おい、マルグリッドとか言ったよな! この状況が分からないのか!? 一旦休戦だ! まずはサーペントをどうにかするぞ!」


 今にも攻撃を仕掛けてきそうな彼女に向けて、俺は提案する。


 しかし、マルグリッドは一瞬だけキョトンとした表情を浮かべると、ケラケラと笑いだしてしまった。


「何が可笑しいのですか? あなたもこの街が壊れてしまうことは避けたいはずでしょう?」


 憤りを感じたのか、メアリーがそんなことを言う。


 が、俺達の言葉は、真の意味でマルグリッドには届いていなかったらしく、笑いを押さえた彼女は、涙をぬぐい取りながら言ってのけた。


「そんなのどーでもいいよ! それより、早くあたしに殺されてよ! じゃないと、あたしが怒られちゃうじゃん!」


 言った直後、間髪入れずに彼女は鞭を振るった。


 目にもとまらぬ速さで振るわれる鞭を、左頬で盛大に受けてしまった俺は、右後方に転がる。


 パチンという軽い音とは裏腹に、重い鈍痛が顔中に広がる。


 あまりの痛さに左頬をさすった俺は、更に鋭い痛みを感じ、歯を食いしばった。


「っ!」


 まるで刃物で切り裂かれたかのように出血している。


 なるべく傷を広げないように血を拭った俺は、マルグリッドを睨みながら立ち上がる。


「ウィーニッシュ!」


「大丈夫だ。それよりもメアリー。サーペントを止める手立てを考えててくれ。こいつは俺が相手する」


 そう言った俺の言葉を聞いたメアリーは、ゆっくりと頷いた。


 同時に、更に大きくニヤけたマルグリッドが、こんなことを言い出す。


「サーペントを止めたいの? だったら、あたしはその邪魔をしようかなぁ」


 彼女の言葉の意味が分からなかった俺達は、ゆっくりと前に歩き出すマルグリッドの様子を見守ることしかできない。


 そして、一歩一歩と歩き出した彼女は、ついに崩れてしまっている建物の中から、通りへと足を踏み出した。


 途端、強烈な視線が、俺達の元へと降り注ぐ。


「なっ!?」


 その視線の主を見上げた俺は、直後、マルグリッドが鞭を振るった音を聞き、咄嗟に横に大きく飛び退いたのだった。

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