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第130話 青い薬

 俺が宿に戻ったのは、若干陽が傾き始めた頃だった。


 衣服がずぶ濡れになってしまわないように、人目につかないところで体を乾かしたりしていたら、少し遅くなってしまったのだ。


 それでも髪の毛などは全然乾ききっていない。


 そんな俺の様子を見て、カーズが訝しむように尋ねて来る。


「どうして濡れてるんだ?」


「重要な情報を得た代償ってやつだよ」


 言いながらメアリーの傍を通ろうとした時、メアリーが俺に苦言を呈してくる。


「ちょっと、近寄らないでくださる? 私の服が濡れたらどうするの」


「不本意なんだけどさ、俺、今ものすごくメアリーに抱き着きたくなったよ」


 彼女の言い草に苛立ちを覚えた俺は、部屋に備えてあった布で頭を拭きながら言い返す。


「ふざけるのはそこまでにしろ。とりあえず、全員の情報を共有するぞ」


 俺とメアリーの言い合いを諫めるように告げたカーズが、ゆっくりと俺達の姿を見まわしている。


 そんな彼につられるように、俺も部屋にいる面々の姿を見渡した。


 椅子に腰かけているメアリーと彼女の胸元から顔を出しているルミー。


 ベッドに腰かけているクリュエルの後ろでは、カーズのバディであるシェミーがゴロゴロと転がっている。


 そして、俺達を嘗め回すように見回しているカーズはというと、窓の傍に一人佇んでいた。


「まずは俺から」


 短く告げたカーズが、淡々と言葉を並べ始める。


「俺とクリュエルは予定通りバーバリウス商会の店で情報収集をしたんだが。そこで気になるものを見つけた」


 そう言った彼は、ズボンのポケットから小さな瓶を取り出すと、陽の光にかざす様に見せつける。


「それは?」


 青い液体の入った小瓶を見せられても、それが何か分からなかったので、俺は単刀直入に尋ねた。


「バディバフという薬だ。簡単に言えば、バディの能力を底上げするための薬ってところか」


「バディの能力を底上げする薬!? そんなのがあるのか!?」


「あぁ、俺も存在自体は知っていたが、実物を見るのは初めてだ」


「そんな珍しいものが、普通に売られてるのか……」


「いや、これは買ったものではない。シェミーに頼んで裏から盗んでもらった」


「おい! 普通に犯罪じゃねぇか!」


「何を言っている? この薬自体が犯罪のようなものだぞ」


「……まじかよ」


 小瓶をまじまじと見つめながら、俺はとある光景を思い出していた。


 それは、記憶の欠片の中で見た、スタニスラスのバディ、エルバの事。


 その尋常じゃない強さの秘訣は、この薬だったのだろうか。


「製法は詳しく明かされていないが、十中八九、非人道的な方法で作り出されていると思われる」


「そうなのか? ってか、なんであんたはそんなに詳しいんだよ」


「その話は追々するとして、話の続きだ」


 俺の質問をサラッと受け流したカーズは、リハーサルでもしていたかのように、クリュエルに目配せする。


 合図を受けたクリュエルは、ゆっくりと頷くと、カーズと同じように小瓶を取り出して告げる。


「もう一つ、これはアタシが見つけたものだ」


「それはバディバフとは違うの?」


 俺と同じ疑問を抱いたらしいシエルが、俺よりも先に質問する。


 問いを受けたクリュエルは、小さく首を横に振ると、説明をはじめた。


「いや、元々バディバフが入っていた瓶だ、ただし、中身は既に廃棄されている」


「廃棄? 薬なんだろ? なんで廃棄する必要がある?」


「バディバフは時間経過とともに色味が変化するらしい。で、古くなると価値が大きく下がるため、新しいものを瓶詰めし直して売った方が儲かるんだろう」


 言われてから改めてクリュエルの持っている瓶を見た俺は、確かに中に残留している液体が青黒くなっていることを確認する。


「なるほどな……日持ちはしない薬なのか」


「で、奴らは古くなったバディバフを、そのままセルパン川に廃棄している」


「は!?」


 クリュエルがしれっと付け加えた話を聞いて、俺は思わず声を漏らした。


 バディを強化する薬をセルパン川に流しても、問題は無いのだろうか……。


 いや、そもそも、俺の持っている衛生観念に関する常識がこの世界で通用するかは分からないが。


 そんな俺の疑問を、クリュエルが解決してくれる。


「そのせいかは分からないが、最近、河で獲れる魚の量が激減しているらしい。その理由を探った結果、バーバリウス商会の廃棄物にあるんじゃないかと、とある団体が騒ぎ立てている」


「なるほど、それがあの……」


 納得しながら、俺は少し安堵していた。


 少なくとも、こちらの世界にも環境汚染などの考え方はある程度あるらしい。


 まぁ、実害が出ている以上、考えない方がおかしいことなんだろう。


「そうだ、今日もバーバリウス商会に抗議に来ていた連中だ。彼らはセルパンキーパーズと名乗っているらしい」


「セルパンキーパーズ……まぁ、そのまんまね」


 苦笑いを浮かべるシエルの言葉に、同じく苦笑いを浮かべた俺は、少しだけ彼らのことをフォローしておくことにした。


「ネーミングセンスはともかく、目的は明確だな。それに、共感もできる」


 しかし、俺のそんな些細なフォローは、この場にいる面々には響かなかったらしい。


「一応、俺達の得た情報はこんなところだ」


 何事もなかったかのように、カーズが話をしめる。


「分かりましたわ。それでは、私が得た情報をお話します」


 そんな彼の話を引き継ぐように、今度はメアリーが話し始めたのだった。

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