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第101話 木立の騒めき

 そんなこんなで、居住区の整備を進めた俺達は、なんと4年間もの間、特に問題もなく生活を続けることができた。


 もちろん、その間にハウンズからの襲撃が無かったのかといわれると、そうではない。


 何度も奴らの息のかかった傭兵が、俺たちの住む横穴付近まで調査に現れたのだが、結局俺達を見つけ出すことはできなかったらしい。


 まぁ、防衛をヴァンデンスに任せていたので、当然と言えば当然かもしれない。


 暗がりで使う幻覚魔法は、非常に効果的だ。


 ダンジョンの横穴、しかもかなり下層の方の横穴を、数名の傭兵達だけで調査し尽くすのは不可能だろう。


 ハウンズにとっても、俺達を探し出すことに全力を出すつもりは無いようだ。


 それはある意味、俺達の狙い通りでもあった。


 基本的に、俺が夜にゼネヒットの街を飛び回るくらいしか、ハウンズに被害を与えていない。


 30人の奴隷が逃げ出したと言えば、かなり大きな被害に聞こえるが、ハウンズにとっては大した被害ではなかったのかも。


 どちらにせよ、なるべく大人しく過ごしていたのが功を奏したと言えるだろう。


 しかし、全てが上手くいったわけじゃない。


 特に、モノポリーとの接触について、俺達はこれといった進展を図ることができていなかった。


 てっきり、毎晩ゼネヒットで暴れていれば、あちらから声を掛けてくると思ったんだけど……。


 もしかしたら、モノポリーはまだ結成されていないのかもしれないなぁ。


 そんなことを考えながら、夜の闇の中を滑空していた9歳の俺は、不意にかけられた声に、変な声を出してしまう。


「アンタがウィーニッシュか?」


「ひゃい!?」


 それは、ゼネヒットでの2時間の特訓を終え、帰路についていた時だった。


 シエルとのリンクも解き、疲れと油断で気を抜いていた、完全に不意打ちだ。


「ニッシュ、なに変な声出してんのよ?」


「いや、悪い。気を抜いてた」


 左肩にしがみついているシエルに短く応えた後、俺はジップラインで全身を続けながらも、身体を背後に振り向かせる。


「ん~っと……マジか」


 風魔法で飛びながら着いて来ている女性。


 その姿を見た俺は、思わず唸らずにいられなかった。


「驚かせて悪いな、アタシはクリュエルだ。ちょっとアンタに話がある」


 そういったクリュエルは、有無を言わさぬといった表情で、俺を追い越し、東の方へと扇動し始めた。


 そんな彼女の後姿を見ながらため息を吐いた俺は、語り掛ける。


「俺はウィーニッシュ。って、もう知ってるよな。で、俺に話ってのは?」


「いろいろと込み入った話で、アタシが話しても良いけど、詳細はアタシらのボスから話す。だから、このまま着いて来い」


 振り返ることもなく言ってのける彼女に、俺は少しだけイラつきながらも、なるべく軽い口調で告げた。


「ちょっと待った。俺にも俺の事情ってもんがあるんだよなぁ。だから、少し待ってくれ。仲間に事情を話したい」


 俺の言葉を聞いた彼女は、ゆっくりと速度を落とすと、面倒くさそうに俺を見て呟いた。


「……まぁ良いか。でも、早くしろ」


「分かってるって」


 しぶしぶ俺の後を着いてくる彼女に、苦笑いを向けながら、俺はいつもの木の麓に向かう。


 時間的に、既にゲイリーが待機しているはずだ。


 案の定、木の麓で待機していたゲイリーはフードの下の鋭い視線を俺に投げながら、問いかけてくる。


「おい、なんだそいつは?」


 口調と仕草に、明確な敵意が込められている。


 そんな彼を落ち着かせようと、彼の近くに着地した俺はいつもの調子で軽口を投げかけた。


「おい、ちょっと落ち着けって、別に、ナンパで引っ掛けてきたわけじゃないから! むしろ逆にナンパされた感じだから」


「そんなことを聞いた覚えはない」


 俺の軽口を聞いたゲイリーは、警戒はしつつもいつもの調子で返答した。


 多少なりとも、警戒を薄めてくれていればいいんだが……。


「少しは落ち着いた? よし、じゃあ、師匠に伝言を頼むよ」


「伝言?」


 言葉を並べながら、背後にいるクリュエルとゲイリーの様子を伺った俺は、とりあえずの事情を説明する。


「この女性はクリュエルさんだ。で、なんか俺に話があるらしいから、ちょっと行ってくる。朝までには戻れると思うけど……」


 そこで言葉を区切った俺は、そーっとクリュエルの顔を見た。


 朝までに戻れるか、という確認をしたいが、彼女がそこまで全て把握しているかも分からない。


 というか、クリュエルがどんな人間なのか、俺が知る訳もない。


 話をしたことだって、ほんの少ししかないのだ。


 俺の視線に気が付いても、全く表情を変えることなく見つめ返してくるクリュエル。


 そんな彼女の様子を見た俺は、仕方がないので、とりあえずの対応策をゲイリーに伝えることにした。


「……とりあえず、1時間後にまたここで待ち合わせで。間に合わなかったら、戻り次第大穴の上でいつもの合図を送る。じゃあ、よろしくな」


 俺の言葉を聞いて頷いて見せるゲイリー。


 彼が理解を示してくれたのを確認した俺は、クリュエルに合図を送ると、再び空に飛び上がった。


 しばらく無言のまま、俺達は東の森の方へと飛び続ける。


 すると、意外なことにクリュエルの方から、俺に質問を投げかけてきた。


「仲間はどれくらい居る?」


「ん? まぁ、沢山。逆にアンタ達は何人なんだ?」


「……」


 俺に聞いておきながら、自分は答えるつもりは無いのか。


 少しばかり憤りを感じた俺は、すぐに自分が何も答えていないことに気が付き、一人嘲笑していた。


 そして、東の森の上空に差し掛かった時、肩にしがみついているシエルがぼそりと呟く。


「ここ、東の森よね?」


「そうだな」


「黙って着いて来い」


 短い言葉を交わした俺達に、クリュエルが静寂を促してくる。


 そうして俺達は、風に揺れる木立の騒めきが響いている東の森に降り立ったのだった。

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