リアル簀巻
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「さっきぶりですかね、クヴィスト夫妻」
「く、クロード殿下っ!?い、いいっ、一体なぜっ!?いえいえそんなことよりもっ、ささ、いつまでも玄関で話す訳にも行きますまいっ!中へ入って下されっ!」
「ふむ、ではお言葉に甘えよう」
恐らく、クヴィスト夫妻が帰宅してから一時間前後と言った所であろうか?
長女と俺との初顔合わせも終わり、緊張で凝り固まってしまった身体を夕食までまったりと過ごしながらほぐして過ごそうかという所で先程の緊張の原因である俺が、まるでクヴィスト家の馬車を追いかけて来たかと思える程の時間差で、しかも先触れもなく訪問して来たのである。
クヴィスト夫妻は戸惑いや緊張、恐怖と言った感情が暴れまくっているのであろう。
それらが表情に出ており実に分かりやすい。
「ささ、此方へお座り下さい」
そう進められ俺が座るのを見てクヴィスト夫妻は俺の対面へと座り、メイドへ小言で───恐らくお茶の準備であろう───命令する。
「そ、それでクロード殿下。わざわざ我が家に来てくださったのはありがたいのですが、その理由を───」
「やはりお姉様では力不足だったのですねっ!クロード殿下っ!当然だわっ!あんな蝋人形の様な気持ち悪いお姉様を婚約者にする筈がないものっ!そしてわざわざ我がクヴィスト家へお越し下さったという事はこの私をクロード殿下の婚約者にしてくれるという事ねっ!!」
お茶の準備が終わるまでに俺の訪問理由だけでも聞こうと夫であるボーゼフが喋り出したその時、躾のなっていない猿がいきなり部屋へ入って来るなり「キーっ!キーーっ!」と喚き出すでは無いか。
少しばかり躾が必要の様である。
「我が婚約者であるリーシャに対してその言いよう、流石に無礼過ぎやしないか?なぁ、クヴィスト夫妻よ」
「す、すみませんっ!すみませんっ!娘には後で言って聞かせますのでっ!………ほらリリアナ、この部屋には入って来てはいけないよ?お父さん達はコレからクロード殿下と大事なお話があるからね。自分の部屋へ行っておいで」
「お父様うるさいっ!私とクロード殿下は両想いだって何で分からないのっ!?」
「ニーナ」
「かしこまりました」
流石約十年間も俺の良き側仕えとして過ごして来ただけの事はある。
俺が彼女の名前を言うだけで俺が今何を望むか理解して行動する位造作もない。
そしてニーナはものの数秒で躾のなっていない猿を何処から用意したのか布団と縄で身体を縛りタオルで口を塞ぐ。
リアル簀巻なんて初めて見たわ。
誤字脱字報告ありがとうございますっ!
ブックマークありがとうございますっ!
評価ありがとうございますっ!
後書きで書こうと思っていた事を忘れてしまいました^^