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八つ裂き

淑女たるもの自分の感情を表に出してはいけない。


そう教えられてきて、常に感情を隠すように生きてきたのである


今更身体に染み付いた事をいきなり辞める事も出来なければ、そんな勇気など持てよう筈もない。


どうせ感情を出したら棒で叩かれ、貴族の令嬢たれと説教をされるのは目に見えている。


いや、今は殿下の婚約者たれと説教されるのかもしれない。


感情を一回で良いから何の枷もなく表に出したいという欲求を無理矢理押し込む度にわたくしの心が軋む音が聞こえて来るようだ。


無心、無心、無心。


そう、思うも雑念はわたくしの頭の中から消えてくれない。


キラキラと眩しい殿下の笑顔。


何故か聞くだけで安心してしまう殿下の声。


大きくてあったかな殿下の手。


わたくしのやりたい事を否定しないと仰ってくれたクロード殿下。


それら全てが頭の中でいっぱいになり、何故か胸が苦しくなる。


風邪でも引いたのだろうか?


苦しい。


こんなに息苦しくなるのであればクロード殿下に会わなければ良かったと思う反面、早く会いたいと思うわたくしもいる訳で。


「リーシャさん?どうかなさって?」

「………いえ、何も御座いませんわ。お母様」

「なら良かった。少し顔色が優れない様に見えたもので。ですが一応帰宅したらお医者様に念のため診察して貰いましょう」

「………はい。お母様」


それは側から見れば娘の身体を気遣う母親の様に見えるのであろう。


しかしわたくしは、これら全てがわたくしの肩書、クロード殿下の婚約者というわたくしの心配している事を知っている。


そして幸か不幸か、お母様がわたくしに声をかけてくれたおかげで頭の中のクロード殿下は消えてくれたみたいである。


「遅いっ!!いつまで待たせるのよっ!お姉さまの婚約なんかどうだって良いでしょっ!!直ぐに帰って来なさいよっ!!」

「あぁ、ごめんね俺の愛しい愛しいリリアナよ。怒った表情も可愛いけどお父さんは笑顔のリリアナが一番可愛いと思うな」

「一人でお留守番させてごめんなさいね、リリアナ。今度貴女の好きな物を買って来てあげますから機嫌を治して頂戴な」

「本当っ!?お母様っ!?」

「ええ。何でも買ってあげるわ」


家に着くと何ども見てきた光景が広がっていた。


何度も妹が羨ましいと思った。


私もお父様やお母様から少しだけで良いから、リリアナの一割で良いから愛して貰いたかった。


「じゃあ私クロード殿下の婚約者になりたいっ!!」


そして、妹のその言葉を聞き、私の心臓は大きく跳ね上がる。


止めて。


そう叫びたいのにまるで石になったかの様に自分の身体が言う事を聞かない。


「そう言われても、困ったわね………高位貴族のお嫁さんじゃダメかしら?」

「嫌だっ!クロード殿下が良いっ!!」

「いい加減になさい、リリアナ。貴族令嬢の覚える初歩的なマナーも教養も無い貴女に勤まるものではございません」


変わりにわたくしの口から出てきたのは妹を否定する言葉。


否定される事がどれだけ苦しい事なのかわたくし自身が分かっている筈なのに、わたくしはコレしか知らないから。


「ではお母様、わたくしは、今日はもう部屋で休んで来ますわ。お医者様が来たら呼んで下さいな」


わたくしは、まるでオークのような形相でわたくしを睨みつけ罵倒している妹を無視して自室へと向かう。


この状態の妹には何を言っても無意味であり、癇癪を起こした妹に危害を加えられる事もある為相手にせず妹の視界から消え去るという事が正しい判断であるからだ。


そして、わたくしのベッドの上には父親から唯一プレゼントされたクマのぬいぐるみが八つ裂きにされ、裂けた箇所から白い綿が出てきていた。

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