目先の利益に目が眩むから本来の価値を見誤る
◆
「さてと、出かける準備をするぞ。ニーナ」
「かしこまりました。クロード殿下」
リーシャが豪華な馬車に出迎えられ、実家へと帰って行くのを見届けた後、俺は一度自室に戻り出かける準備をする旨を側仕えであるニーナへ告げる。
その言葉を聞いたニーナは片膝を付き頭を垂れ了承する。
側仕えとして赤子の頃から仕え、実に従順な側仕えと育ったものであると、この十年間を思い返す。
このニーナの態度を一言で表現するならば『寝返った』という事である。
その方法は至って簡単である。
相手よりも好条件を叩きつけ、ダブルスパイをするようにお願いしただけである。
所詮は汚れ仕事をする人間であるのだ。
同じ汚れ仕事であるのならば好条件の方へ寝返るだろうという俺の予測は見事に的中し、今では痒いところに手が届く有能な部下であると言えよう。
デメリットがあるとするならばニーナが寝返っている事に気付いた相手が俺と同じ方法で再度ニーナを手中に収めようと行動に移す可能性があるという事なのだが、ニーナが寝返る可能性は俺の地位を利用して完膚なきまでに潰しているのでニーナに裏切られる心配も無い。
ニーナに持ち掛けた事と言えば、ニーナの娘である俺の二つ歳下のミーシャを将来俺の愛妾ないしそれと同等に近い待遇にするという事である。
そこにミーシャの意思は無い為本来であれば使いたくはなかったのだがこの威力は絶大でニーナは迷うことなく二つ返事で了承した。
当たり前である。
将来国王となる者の妾と言うだけでその一族は将来安泰は約束されたも同然である上に、あわよくば国王の子供を身ごもらせる事が出来るからである。
男爵家であるニーナ、そしてその娘からすれば破格の待遇と言えよう。
しかし、俺は【妾は作るがそういう行為をする】とは一言も言っていない上になんなら【妾にする】という内容も濁している。
騙している様で心苦しいのだが、目には目を、歯には歯を、裏切りにはそれ相応の対応を、という事で許して欲しい。
もしかすれば妾にはするのかもしれないが子供が欲しいと言うのであれば愛人は何人でも作ってくれてもかまわない。
貴族または王族の世界とはこういう、魑魅魍魎が蔓延る世界であるという事を忘れて目先の利益に目が眩むから本来の価値を見誤るのである。
俺がそんな事を考えている等とは知らないニーナは俺の指示通りあるモノを手にして俺の後ろをついてくるのであった。
◆
クロード殿下とのひと時は夢の様な時間であった。
未だにあのひと時は夢だったのではないかと思える位には。
今ならば両親がここまでわたくしを厳しく育てていた事の理由が分かる気がする。
そう思うとわたくしは両親に、実は愛されていたのでは?とあり得ない事を考えてしまう程には今のわたくしは心が満たされていた。
こんな気持ちは初めてであり、少々感情を持て余してしまいそうになるのをぐっと堪える。
誤字脱字報告ありがとうございますっ!
ブックマークありがとうございますっ!
評価ありがとうございますっ!
三日目にして総合評価が200ポイントを超えており、思わず二度見しました(*'▽')感謝感激です
ミーシャの伏線はおいおい回収致します。
これ以上はネタバレになりますので何卒です^^