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8話 ぼっちは僕だけのようだ

 ジリリリリリリ。朝六時半。目覚まし時計が鳴る時間だ。


「なんですか? この音」


「目覚まし時計だよ。起きる時間を教えてくれるんだ」


「ニホーンには便利なものがあるんですね!」


「人間の話で聞いたことない?」


「ないです! 鳥の鳴き声で起きているって聞きます」


 やっぱり異世界は中世レベルなのかもしれないな。


 手早く顔を洗い、歯を磨いて食堂に行く。


 四人分のサラダとスクランブルエッグを作る。


 おっと忘れちゃいけない。手早くシズクの分も作って隠した。


 朝食はセルフサービスなので後はジャムとかバターとかパンを出しておけばいい。


 トーストを二枚焼いて自分の部屋に持っていく。


 牛乳も飲もうかな。シズクも牛乳飲めるかな。


「おや、鈴木氏? 部屋で食べるのかな?」


「あ、おはようございます」


 げっ。食事をお盆に乗せて食堂を出ると木野先輩に会ってしまった。


 食堂は七時からになっている。まだ六時五十分なのに早い!


「はっはっは。鈴木氏はたくさん食べるのですな。結構結構」


 先輩は別に気にしなかったようで食堂に入っていく。これからもシズクと暮らすなら見つからないように気をつけないと。


とりあえず僕の部屋に戻る。


「シズク。一緒に食べよ~」


「はーい」


 食べながら押し入れを確認する。


「参ったなあ~やっぱり普通の押入れだよ。僕が学校に行った時にダンジョンで過ごして貰おうと思ったんだけど」


「ご主人様と学校に行っていいですか?」


「ええ? 日本にはスライムとかいないから見つかったらダメなんだよ」


「はい! それはわかりましたけど、見つからなければいいんですよね?」


 シズクはそういうと体の形を変えはじめる。


 畳の上に制服ができた。


「せ、制服?」


「はい!」


「驚いた。完全に制服だ」


 軽く触れてみる。


 触感も完全に繊維のそれだ。


「でも、どうして?」


「私、ご主人様の生活を学んで早くお手伝いしたいんです」


「お手伝い?」


「お仕事とか家事とか」


 仕事って、そうか。


 シズクは完全に僕に成ることができる。


 パー◯ンには事件が起きた時に自分の代わりをしてもらえるコピーロボットがあったけど。


 そういえば白スライム族は異世界では主人の代わりに仕事をしたらしい。


 悪人のようにシズクを利用するつもりはないけど、一緒に暮らすのだから家事を手伝ってもらうのはいいだろう。


 それに留守番をするぐらいだったら早く日本のことを知ってもらったほうがいいかもしれない。


「わかったよ。一緒に行こう」


「ありがとうございます!」


 制服になったシズクを持ち上げる。


「あれ? ブレザーとズボンがくっついているよ」


「ごめんなさい。分裂はできないので何処かでくっつけるしかないんです。なのでご主人様に裸になるか下着だけ来てもらって私がその上から服になります」


「なるほど。下着は着るよ」


「裸のほうがいいかもしれないですよ。洗濯もしなくていいし」


「それは何というか……色々と上級者っぽいから、また今度で……」


「わかりました」


 下着姿になるとシズクが服になって、僕に装着した。


「ほ、本物の服と変わらないよ。むしろ着心地がいいかも」


「えへへへ」


 それからは一応、教えられる範囲で日本のことをシズクに教えた。


 時間になったので学校に行くことにする。


 ちなみにこはる荘から教室まで急げば、ドアトゥードアで三分だ。


 外は黒い雲が覆われていた。まあ今は降っていないし、校舎まで走ればすぐだ。傘は持って行かなかった。


 八時五十分からのショートホームルームのギリギリに着く。


 僕には友達がいないので一人で席に座っているのがいたたまれないのだ。


 自分の席につくと隣の席の立石さんににらまれる。


 転校してから何故かずっと、彼女ににらまれている。何かしただろうか。


 担任の先生がやって来た。


「出席を取ります。赤原くん」


「はい」


 順番が来て僕の出席も取り終わる。制服になったシズクの着心地は良すぎて、スライムを来ていることを忘れそうだ。ボーと出席を取り終わるのを待つ。


「美夕さん」


 教師が言った。


 みゆうさん……どこかできいたような。美夕さん? まさか!?


 返事はないが、教室の端で挙手する黒髪の少女がいた。


 間違いない。美夕麗子だ。


 確かに僕が転校してこのクラスの生徒になってから、あの席は空席だった。


「今日はいるのね」


 先生は返事も聞かずに、そのまま次の生徒の出欠を取る。


 僕は今までも出席を取る時に美夕さんの名は聞いていたはずだが、名字だけだから気が付かなかったらしい。


 彼女が学校でよろしくねと言っていたのはこのことだったのか。


 一時限目の授業も終わり、休み時間、友達のいない僕はやはり席に座ってぼーと教室を眺めていた。


 ふと美夕さんを見ると席を立って教室を出て行く。やはり黒髪で顔は見えないが、スカートから出る黒いストッキングがよく似合っていた。


 ちなみに素晴らしいことに、この学校の制服のスカートは短い。


 美夕さんから昨夜「学校でよろしくね」と言われたが、僕の席は窓際の後ろ、彼女の席は廊下側の後ろで離れている。


 つまり教室の端と端。


 よろしくねと言われても、よろしくできることはなにもなさそうだった。

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