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6話 色々とあった件

 食堂から自分の部屋の前に戻り、ドアを開けて鍵を締める。


「シズク、ただいま~。いる?」


「ご主人様、おかえりなさーい」


 シズクが奥からやってくる。


「ごめんね。会長に夕飯を作れって怒られちゃってさ」


「いいんです」


「シズクもお腹減ったよね。これ作ったんだけど」


 寮生たちには勉強の夜更かし用の夜食と誤魔化して残ったご飯でおにぎりを作ってきた。


 ちなみにあれだけ食べた会長の分も作らされた。六合も炊いたのに一食で無くなってしまった。


「ひょっとして私のためにですか?」


「うん。食べてよ。シズクの口に合うかどうかわからないけど」


「本当にいいんですか? ご主人様の分は?」


「僕はさっきの会長と一緒に食べちゃったんだ」


 シズクは白スライムの姿から心音ミルの姿になって女の子座りだが、背筋を伸ばす。


「え? 人型になるの?」


「そっちのほうが、人間のご主人様は喜ぶと聞いています」


「あ、なるほど」


 きっと異世界の昔の人は白スライムを人間の姿にしていたのだ。


 スライム姿でいいよと言おうとしたが、どうも心音ミルの姿が気になる。


 なんとなく、プロポーションが、さっきと違うような……。


「これはどうやって食べるんですか?」


「あっ。そっか。食べ方、わからないよね。手で持ってパクッと」


 僕がジェスチャーで食べ方を伝える。


 シズクがおにぎりを手にとって一口食べた。


「うわあああああああ。すっごく美味しいです」


 シズクが本当に幸せそうな顔をする。


「よかった~。白スライムが食べられるものわからないからさ。ダンジョンではなにを食べてたの?」


「石壁に生える苔やモンスターの死骸とかです」


 また視界がぼやけそうになる。


 白スライム族は、きっと人間から隠れ住むようになってから、そんな食生活をしているのだろう。


 それならおかかのおにぎりも美味しいだろう。


「有機物ならなんでも食べられますよ。畳でも」


「そ、そうなんだ。畳は食べないでね。あ、それといいって言った時以外には人間をスキャンしないでね」


 シズクがシュンとしてしまう。


「会長様もスキャンしてはダメだったんですね……」


「い、いや知らなかったんだから仕方ないよ。言ってなかったし」


 しかし、今の心音ミルは前の姿と違ってなにか色っぽい。まあいいか。


「会長は誤魔化せたし、もう気にしないで食べてよ。あ、そうだ。『オイッスお茶』も持ってきたんだ」

  

「はい!」


「それから、もしよかったらダンジョンのことをもっと教えてよ」


「私でわかることなら!」


◆◆◆


 食後、僕らはまたダンジョンに来ていた。今は錆びた鉄の扉の前だ。


「ふーむ。つまり、この先はダンジョンの奥に繋がっているけど、強力なモンスターがいるってことか」


 僕が鉄の扉を開けるボタンを押すのを止めた理由を聞くとスライム姿に戻ったシズクが教えてくれた。


「はい。私はダンジョンの壁や床に変身して少しずつ地上に向かったので、怖いモンスターには見つけられませんでしたが、この階層にはオオムカデがいます」


 オオムカデか。確かにいたな。僕の倍ぐらい大きかった。


 ムカデは正確には昆虫じゃないけど、昆虫は自分の何倍も大きいものを運べるパワーがあるし、外骨格は非常に硬い。


「確かにレベルを相当上げなきゃ勝てそうにないな」


「はい! 危険かと思って止めたんです」


 シズクが言うには、ここは様々な強さのモンスターがいる階層らしい。


 オオムカデのような強力なモンスターもいれば、青スライムのような雑魚もいる。


「それにしてもここにモンスターを遮断できる扉があって中は四角い空間か。まるでダンジョンの部屋みたいだね」


「ダンジョンにはこういう場所がたまにあって開閉できるんです」


「中のモンスターを倒せば安全にキャンプできるな。まるでファイファンのセーブポイントみたいだ」


「ファイファンってなんですか?」


「ファイファンはゲームっていう遊びの一種だよ。今度一緒にやろう」


「はい! やってみたいです!」


 それにしても、この鉄の扉を開けないことにはもう青いスライムはいない。


 かといって、開けたら死んでしまうかもしれない危険なモンスターがいる。


「レベルアップするにはどうしたらいいんだ」


「困りましたね。人間はモンスターを倒すことでレベルを上げますし……」


 そうだ! ライフルがあれば、大ムカデも! 


 ライフルか……。アメリカなら買えるかもしれないけど、日本では現実的じゃないよなあ。


 ふと時間を見ると午後九時半だった。


「いけない。もうこんな時間だ」


「この時間になるとなにか都合が悪いのですか?」


「寮のお風呂の時間は決まっていてさ。そろそろ入らないと」


 こはる荘のお風呂は時間が十時までと決まっていた。もちろん男女別だ。


 まあ夕食の時間と違って誰の監視があるわけでもない。


 遅い時間に入ったほうが、木野先輩も入った後になるだろう。


 別に木野先輩が苦手なわけではないが、今日は一人でゆっくり入りたい。


「お風呂! 私、ご主人様のお背中を流しますね」


「えええ? いいよ、悪いし」


「ご主人様のお背中をお流しするのは白スライムの務めなのです!」


「そ、そうなんだ。じゃあ、お願いしようかな~」


 木野先輩とお風呂に入るのは少し気を使ってしまうが、シズクとはもう何年も付き合ったパートナーみたいだ。それに異世界のことで聞きたいことはまだまだある。


 お風呂に入りながら聞くことにしよう。ダンジョンから部屋に戻ってお風呂に行く準備をする。


 寝巻を小さ目のダンボールに入れる。まだ籠は買っていないので、籠の代わりだ。


「シズクもお風呂までここに入っていてね」


「はい! ニホーン人に見つからないようにするんですね」


 日本にはもうモンスターがいないことをシズクには教えてある。


 ダンボールに寝巻とバスタオルとシズクを入れて寮の廊下を移動する。


「ご主人様はやっぱり貴族なのですか?」


「き、貴族? なんで?」


「仲間の白スライムたちからおウチにお風呂がある人間は貴族と聞いています」


「日本は庶民でも家にお風呂が大体あるよ」


 貴族がいたり、庶民の家にはお風呂がなかったり、ダンジョン側の世界は中世ぐらいの文化レベルなのかもしれないな。


 男湯の脱衣場に入る。うん。木野先輩はいないようだ。


「シズク~もう大丈夫だよ」


「はーい!」


 服を脱ぎながらシズクに語り掛ける。


 ダンボールからポヨンと姿を現す。


「体を流してから湯船につかろう」


「はい!」


 シズクにもかけ湯をしてあげた。二人で湯船に浸かる。


 お風呂の大きさは一般家庭より、ちょっと大きいぐらい。


「ふ~いい湯だね~」


「ホントですね」


 ダンジョンで汗をかいたから最高だ。


 シズクは体のほとんどをお湯の上に出していた。


「シズクは水に浮くんだね」


「はい! 空気を取り込みました」


「そんなこともできるんだ」


「はい! 服になったりもできますよ」


「服自体にも変身できるんだ。便利だね~」


 僕や心音ミルに変身していた時も服を着ていたしな。


「ところでダンジョン側の世界には魔法もあるの?」


「使える人間も多いって聞いていますよ。モンスターにも魔法を使う種族がいます」


「あるのか! そうだ! スキルは!?」


「人間によれば、私の変身もスキルらしいです」


 魔法にスキル。夢が広がるな。


「スキルを確認するのはどうしたらいいのかな?」


「白スライム族は人間と交流を持たなくなって長いですからわかりません。もちろん人間ならスキルの確認方法も知っていると思います」


「なるほど。スキルを詳しく知るためにはダンジョン側の世界の人間に会う必要があるな」


 長話をしているとだんだん熱くなってきた。


「さてとそろそろ体を洗おうかな」


「お背中をお流ししますね」


「うーん。やっぱり恥ずかしいなあ」


「でも……」


「じゃあ他は自分でやるけど、背中だけ頼もうかな」


「はい!」


 泡立てたスポンジで体を洗いながらシズクと話す。


「そういえば、そっちの世界にはひょっとして亜人とかもいるの?」


「亜人といいますと?」


「エ、エルフとか獣人とか」


「はい! いますよ!」


「お、女騎士とかもいたりする?」


「はい! 女性の騎士もたまにいると聞いています」


 エルフに女騎士……。なんとしても異世界人に会いたい。


「ご主人様、お背中以外は洗えました?」


「うん。背中お願い」


「はーい!」


 シズクが歩いてくる音が聞こえる。歩いてくる音? スライムに足はない。


 鏡を見た。そこに映ったのは……。


「シ、シズク? それ心音ミルの姿じゃないか!」


「お背中をお流しする時はご主人様の好きなお姿になるって決まりです」


 どういう決まりだよ。わからんでもないけど!


 ま、まあいい。どうせ肝心の部分は何もないのだろう。


 それに心音ミルはこの手のキャラとしては胸もちいさ……くないぞ?


 意外とっていうか十分に。


「ってか、あるじゃん! 色々と!」


「はい! 服を着たポスターやフィギュアでは女性の体がわかりませんでしたが、会長様をスキャンしたので」


「つつつ、つまり、その体って会長の?」


「はい! そうです」


 会長、これほどとは……。


 また注意というか色々教えないといけないようだが、今はそんな場合じゃない。


「かゆいところは御座いませんか~?」


「な、無いです」


 女の子の細い指で背中を洗ってくれるのを、僕は前かがみになって必死に耐えるしかなかった。

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