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68話 守りたい、この笑顔!

 今回の事件の関係者が真神の間に集まった。

 コンさんと狐神さんもいる。

 狐姿のコンさんは巨狼姿のマミマミさんと人間のぐちを言い合っている。

 コンさんは江戸時代にタケチヨという人間に入れ込んで、寿命を与えようとしたところ、テンカイというお坊さんに封印されてしまったらしい。

「ご政道を乱すなとかつまらないことを、あのクソ坊主め!」

 コンさんが訴えるとマミマミさんが深くうなずく。

「それは確かにクソ坊主じゃのう」

「そうでしょう。私は末永くお使えしたかっただけなのに」

 確かにコンさんの話を聞いていると、テンカイというお坊さんが思い通りにできるタケチヨを手の中に置きたかっただけにも聞こえる。

 実際、コンさんはかなり良い狐でコンさんが弱っていたのも、弱っていく狐神さんに生命力を分け与え続けていたからだった。

 それにしてもコンさんが封印された際に出てくる関係者の名前が恐ろしすぎる。

 恐ろしいから聞かなかったことにしたい。

 さてと。

「リュウちゃん。そういうわけだからもう大丈夫だよ」

「本当に大丈夫なんですか? しかも完全体にしてしまいましたし」

 殺生石は破壊して、コンさんを完全体にしてしまった。

「封印を解いた以上、信用するしかないかな。マミマミさんもいるしね」

「私には一緒になって悪さしそうな気もするんですが」

「悪さをするって言っても、陰険なことはしないと思うから」

 コンさんのほうにも多分悪いことがあっただろうに、テンカイを悪者にして盛り上がってる二人をリュウちゃんと微笑ましく眺めた。

「そうですね」

「でしょ」

「ニホーンではモンスターと人間が仲良く暮らしているという伝説は本当だったんですね」

「うーん。それはどうかなあ?」

 モンスターなんか神話以外に見たことないし。

「リュウちゃんが最後まで慣れなかった車ばっかりだしね。コンクリートジャングルだし、空気は汚いし。立川はまだマシなほうだけど」

「でも、ここには白スライムも神狼も八尾もいるんですから」

 なるほど。超レアモンスターが三匹?もいる。

「確かにそうだね」

「いつかニホーンは伝説通りになりますよ。それにしても我が家の予言の巻物には何が書かれていたんだろう。結局私は無事だし」

「巻物かあ」

 リュウちゃんのご先祖様が書いた予言の書には日本から来た少年、つまり、僕のことも書かれていたようなのだ。

「おばあ様はそれを読んでさらに呑んだくれたそうですから、何か辛いことが書かれていたのではないかと思っていたのですが」

「ふーむ。概ねハッピーエンドだしね」

 コンさんを野に放っていいのかとか微妙に思いやられる課題もあるけど、他に大きな問題はない。

「ディートさんが思い出すのを待つしかありませんね」

「思い出すかなあ? お酒を飲むと昨日やらかしたことも忘れちゃうタイプだよ」

「あ、あれ?」

「どうしたんですか?」

 僕も何か忘れている気がする。

 思い出せないでいると美夕さんと狐神さんがやってきた。

 二人とも、落ち着いているため、気が合うのだろうか。

 そういえば、クラスも同じだしね。

「鈴木」

「何? 狐神さん」

「この寮のことを教えてあげる約束になってたよね」

「あ~そうだった!」

 そもそも狐神さんについていったのは、寮のことを教えてあげるという話がきっかけだった。

 異世界に行ったり、山賊まがいの貧しい農民を助けたり、そのために貴族を騙したり、コンさんの封印を解いたのも、寮のことを教えてくれるという話からはじまったのだ。

 すっかり忘れてた。

 けど、ここは真神の間だ。

「狐神さん、寮が異世界につながってるのは今体験してると思うんだけど、それ以上の秘密があるの?」

 狐神さんがうなずく。

「聞いたら驚くっていうよりも、ショックを受けるかもしれないけどいい?」

 ショックを受けるだって?

 異世界につながっている以上の秘密がこの寮にあるのか?

「な、何?」

 僕が聞くと狐神さんが妖しく笑う。

 ダンジョンの魔王が復活したとか、魔剣が封印されてるとか、そういう話だろうか。

「この寮を取り壊そうって話があるの」

「え?」

 寮がなくなる?

「私のお父さんが学校の理事の一人でね。話を聞いたの」

「えええええっ!」

 寮の話って、そういう現実的なやつ?

「どうしてさ」

「寮生四人しかいないでしょ。採算、全然合わないのよ」

「でも、寮はおばあちゃんのものだし」

 もともと、学校に隣接していたおばあちゃんの土地建物を学校に提供したのが、寮のはじまりと聞いている。

「鈴木のおばあ様に保証金を払って、寮生四人にアパート代を出したほうが長い目で見たらお金が全然かからないって」

「そ、そんな」

「一年生があと二人ぐらい寮を使えば、存続できるって話もあるんだけどね」

「ううう」

 もう入学から何ヶ月も経過しているということは、寮なんか入らなくても通える生徒ばかりということだ。

 今さら新しい寮生なんか見つかるわけがない。

 ファンタジー的な話じゃなくて、現実的な話だった。

 異世界人やマミマミさんに頼ってもどうにもならないし。

 寮がなくなったら、ゲートはどうなってしまうんだろう。

 最悪、シズクやマミマミさん、ディートやリアとも会えなくなってしまうかもしれない。

 そうでなくとも、今のように安全に会える環境はなくなってしまう。

 美夕さん、木野先輩、会長とも、今ほど付き合わなくなってしまうかもしれない。

 それに美夕さんは日光恐怖症なんだぞ。

「どうしたらいいんだよ……」

「じゃあ、教えたからね」

 狐神さんは笑顔で、また美夕さんのほうに去っていった。

 なんで人が頭を抱えてるのに笑顔なんだよ!

 マミマミさんとコンさんは楽しそうに人間の悪口を言っている。

 ディートとリアとリュウちゃんは冒険談義だ。

 美夕さんと狐神さんはずっと話し込んでいるから、友達になれたのかもしれない。

「ご主人様~、狐神さんが元気になってよかったですね」

 シズクが笑顔でぴょんぴょん跳ねる。

「ううう。守りたいこの笑顔」


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