66話 決戦! 伝説の妖狐!
「幻界? 鳥居をくぐってないのに? はっ!」
すすき野に気を取られていた。
振り返るとディートとリアとリュウちゃんが戦闘態勢をとっていた。
彼女たちの前方には九尾!
まばゆい光を放つ、黄金の毛並み。
扇のように展開する尻尾。
大きさは人よりも少し小さいぐらいか?
しかし……。
「ちょ、ちょっと、なんで皆は戦闘態勢?」
ディートが叫ぶ。
「こいつ九尾じゃないわ。八尾よ」
八尾? 一、二、三……本当だ八本しかないぞ!
「ど、どういうこと?」
「知らないけど、騙したってことは後ろ暗いことがあるんでしょう? 幻界をも発動してきたし」
「尾の数は格らしいから、九本だって虚勢を張っただけじゃないの? それに、どうして幻界を使ってきたら戦わないといけないのさ」
リアが剣を構え直す。
「幻界は、それを発動したモンスターが戦うのに有利な世界なんです!」
「そ、そうなの?」
リュウちゃんが指と指の間に複数の紙を挟んでいた。いかにも攻撃態勢だ。
「やはり八尾は封印されたことで人間を恨んでいるのでしょう」
コンさんがドスの利いた声で笑う。
「コンコンコン。当然だ。タケチヨを助けてやったのにテンカイめ。何百年も封印しおって!」
やっぱり封印されたことにめっちゃ怒ってるみたいだぞ。
しかも、タケチヨとかテンカイとかなんか聞いたことある名前だ。
ま、まままさか。
葵の御紋の世子の幼名とそのブレーンのお坊さんの名前じゃないのか?
「この恨みはらさでおくべきか~」
た、大変だ。
神話級ではないかもしれないけど、歴史級の危険モンスターかもしれない。
「リュ、リュウちゃん。僕を触媒に……」
リュウちゃんが首を横に振った。
「大丈夫です。敵は九尾ではなく八尾、しかも、精神体の封印を解いただけで肉体は未だ殺生石の中」
「け、けど」
「それに何故か弱っています」
弱っている? 本当だ。
よく見ると八尾は肩で息をしている。
苦しそうだ。
「確かに私は弱っている。だが、そこらの人間風情に負けはしないぞ!」
会った時のマミマミさんほどではないが、凄い圧力だ。
ディートが杖を構えた。
「私たちがそこらの人間風情かどうか、試してみることね」
「アリア! 行くわよ!」
「はい! ディートさん!」
ディートとリアは連携攻撃をかけるらしい。
ディートは魔法の詠唱をはじめ、リアが剣を構える。
なんか聞いたことある詠唱だぞ。
「スペルルーツバインドォ!」
魔法名とともに土中から木の根が現れ、四方八方からコンさんに絡みつく。
マミマミさんに効かなかった連携攻撃か……。
負けフラグじゃないのか?
「むっ。う、動けん!」
マミマミさんには効かなかったけど、コンさんには効いたぞ。
マミマミさんは体を少し動かしただけで引き千切れたのに。
「アリア!」
「はい!」
リアが天高く飛び上がる。
降下しながらリアの宝剣を叩き込むメテオスラッシュとかいう技だ。
まさか勝てるのか?
「ふん」
コンさんが鼻を鳴らした瞬間、すすき野にブワーッと風がなびく。
「え?」
高く飛び上がったリアがボトリと落ちる。
「ぐっ」
ディートも片膝をついた。
「これは?」
リュウちゃんが鼻を押さえている。
「すすきの花粉を使った精神攻撃です。リアさんは眠らされてしまいました」
「げっ」
リュウちゃんとやり取りしている間にディートも倒れてしまう。
「弱っている八尾でも、ここまでの強さとは……」
「ど、どうするの?」
「こうなったら封印術を使うしかありません」
3日で廃人か。
でも、封印を解こうと言い出したのは僕だ。
全滅するよりもいい。
それに3日もあれば、皆もいるし、マミマミさんも帰ってくるだろうからどうにかなるかもしれない。
「わかった。僕を使って封印術を!」
「いえ、私を触媒にします」
「えええ。自分を使って封印術できるの?」
「そのための式を発動しています」
式?
リュウちゃんとコンさんの足元に、また紙があって光の線を結ぼうとしている。
だが、その速度は遅い。
「私はトールさんほど封印しやすくはありませんが、多少の持続性があります。廃人になるまで一週間は封印できるでしょう」
「それで封印できるまで時間がかかるのか……、でも、なんでリュウちゃんが?」
八尾は必死にディートの魔法の根を振りほどこうとしているが、まだ小さな根を千切れたかなという程度だ。
「おばあ様が見た巻物にはきっと、ニホーンから来た少年の代わりに私が封印の触媒になることが書かれていたのでしょう」
リュウちゃんが言った。
おばあさんのエミリさんは、巻物を見てからさらに酒量が増えたという。
確かに孫娘の悲劇が書かれていたら酒量が増えてもおかしくない。
「魔を払い民を救うのがツチミカド家の使命。後は頼みます」
「後は頼みますって言ったって」
そうだ。リアの剣で先にコンさんを倒せば。
あれ?
リアがいない。
どこかと思ったらリュウちゃんの後ろに!
「危ない!」
「えっ?」
叫んでも遅かった。
リアの剣がリュウちゃんの後頭部に振り下ろされる。
リュウちゃんがドサリと倒れる。
「リア!」
返事がないし、目の焦点が定まっていない。
「操られているのか?」
「コンコンコン。ご明答」
操られたリアがリュウちゃんを五芒星の外に引きずり出した。
「これで封印の式は発動しない」
「くそ」
「驚いたぞ。テンカイほどではないが、これほどの手練が現代にもいるとはな。しかし、私の勝ちだ」
ディートもリュウちゃんもやられてしまった。
リアは操られている。
絶体絶命、どうすればいいんだ?
そうだ。
本体の殺生石をディートの杖でぶっ叩いたらどうだろう。
コンさんはまだ精神体だ。
「小僧。トールとか言ったな。私はお前をとても気に入っている」
「な、何?」
「どうだ。私の味方にならないか?」
「リュウちゃんを殺しといて何を言っているんだ」
「コンコンコン。殺生石があるだろう。私自身は呪によって触れられないが、お前が叩いてヒビを入れればいい。さすれば完全体として復活できる」
やばっ、作戦は変更だ。
殺生石を叩いてはいけなかったのか。
「ふざけるな!」
「ふざけてなどいない。私が人間を支配した後にはお前に世界の半分をやろう」
急に何を言い出すんだ。