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65話 封印を解きましょう!

「リュウちゃん、封印をかけ直す方法は? ちゃんとかけ直せば狐神さんの負担も少なくなるんじゃないの?」

「封印は3年ぐらいは延長できるでしょう。その間に別の手を打てます。しかし、触媒の女性が弱り切っています。丁寧に封印し直しても一生廃人になってしまいます」

 ううう。そうだ!

「じゃあ一時的に僕に封印したら?」

「封印の触媒になれる人間は少ないんです。トールさんがなれるわけが……あ、あれ?」

 リュウちゃんに顔をペタペタ触られる。

 医者のようにまぶたを手で開かれたり、口を開けさせられたり。

「す、凄い」

「何が」

「封印術の触媒になれる人間なんて万人に一人ですよ。トールさんはある意味で封印術の触媒に非常に向いています」

「ある意味?」

「封印術の触媒になれる人間には二つの要素が必要です。まず封印のしやすさです。モンスターの精神を自分の体に入れる慣れ親しみやすさとでも言いましょうか……トールさんはずば抜けています」

「おお!」

「モンスターと仲良くなれる人に多いです。トールさんはモンスターと仲良くなれることが多くないですか?」

 僕は人間の友達がほとんどゼロなのにシズクやマミマミさんが友達だ。

「確かに」

「ちなみに人間とは……普通……以下かな……」

「ほっといてよ! それよりもう一つの要素は?」

「封印術の触媒としての耐久性です。トールさんの場合は限りなくゼロです」

「えええっ?」

「多くの人はどっちもゼロですよ。トールさんの場合、封印のしやすさは最強、封印の耐久性は最低という感じですね」

「もし僕に封印したらどうなるの?」

「3日で廃人ですね。それも苦しんで」

「そ、それはちょっと」

 皆が不安そうに僕を見る。

 決めてほしいという視線だ。

 マミマミさんを待っている時間はない。

 異世界のどこにいるかまったくわからないし、探しに行っても、行き違いになってしまうかもしれない。

「神社に行こう。殺生石の封印も解いて、コンさんを復活させる。美夕さんとシズクはマミマミさんを待ってて。もし帰ってきたら神社に」

「うん。わかった」

 力の強いリアが狐神さんを背負う。

 よし、と皆が寮から出ようとする。

 皆の後ろ姿を見てはっとする。

「ま、待った~」

「な、何よ?」

 僕の大声に、皆が一斉に振り返る。

 聞き返したディートの姿は魔女だ。

 狐神さんを背負ったリアは、でかい剣を装備した女騎士。

 怪しげな少女陰陽師もいる。

「さ、最低限は日本の格好になって外に出ないと通報されてしまう」

「なんでよ」

「日本でそんな格好が許されるのはハロウィンの渋谷ぐらいなもんだよ」

「意味わからない!」

「と、とにかく、美夕さん、シズク、頼むよ」

 美夕さんとシズクが再び三人を美夕さんの部屋に戻す。

 三人が戻ってくるまで玄関で狐神さんを背負う。

「す、すまんな」

「コンさん。気が付いたの?」

「ああ。今から神社に行ってくれるのか?」

「うん。ところでコンさんはどうして弱ってるの?」

 リュウちゃんは復活しかけているモンスターは力が増すと言っていた。

 コンさんが力なく笑う。

「コンコンコン……。いいではないか。封印を解いてくれれば心配には及ばない」

 ううう。

 コンさんが悪さをしないか心配なんですけど。

 そうこうしているうちに三人が戻ってきた。

 ディートは黒ワンピにグレーのニット。

 リアは白シャツにチェックのスカート。

 リュウちゃんはTシャツにジーンズという健康的なスタイルだ。

「でも烏帽子」

 頭を指差す。

「恥ずかしいですよ。これだけは外せません」

 なんで烏帽子を外すと恥ずかしいんだよ。でも、リュウちゃんは青髪だしちょうどいいか。

 ディートの耳も尖っているが、仕方ない。

「そうだリアの剣は?」

 他の人は変な格好で済むが、リアの剣は銃刀法違反だ。

 リアが振り返って背中を見せる。

 アレは昔寮に住んでた野球部の先輩が忘れていったバットケースだ。

「剣を隠しているならギリギリOKにするか。時間もないし、行こう!」

 リアがバットケースを背負ったので、僕が狐神さんを背負う。

 五人で寮を出た。

「こ、これがニホーン」

 ディート、リア、リュウちゃんが驚いている。

 ここはまだグラウンドの端っこだ。

 車も家もビルもない。

 先が思いやられる。

「驚くのは後にして、行くよ」

 ディート、リア、リュウちゃんが気弱な返事をして僕についてくる。

 住宅街を小走りに進む。

 ディートとリアが走りながら言った。

「なんて家が多いの」

「しかも、立派な家です」

 リュウちゃんが怯えた声を出す。

「四角い移動する箱の中に人が乗っています」

 車のことだけは教えておいたほうがいいか。

「今のは車だよ。アレにだけは絶対ぶつからないでね」

 他のことは教えている暇がない。

 人目を避けるために住宅街の中を移動していたが、それでも通りすがりの人に凝視される。

 当然だ。明らかに浮いている。

 なんなら顔色が悪い人を背負っているし。

 大丈夫だろうか。今だけは現代日本人の無関心に期待するしかない。

「こ、ここは?」

 神社に行くには、一本大きな通りを渡らないといけない。

「この道の向こう側なんだ」

 リュウちゃんは完全にビビっている。

「絶対にぶつかってはいけない車っていうのが絶え間なく行き交ってますよ」

 車の知識のない異世界人も、ぶつかったら危険とは感じるらしい。

「大丈夫、あそこに赤く光ってるランプがあるだろ? アレが青っていうか緑になれば車が止まるから」

「無理です。足が震えて走れません」

 生まれたての子鹿のようになっている。

「仕方ないわね」

 ディートが烏帽子の少女を背負う。

「ディートとリアは大丈夫?」

「うん」

「はい」

 ディートとリアはなんとか大丈夫のようだ。

「行こう!」

 狐神さんを背負って走るが、レベルアップをしているので軽い。

 大通りを抜けると神社はすぐだ。

「着いた! コンさん!」

 鳥居の先はすすき野につながっていない。

「あの空間に行かなくても大丈夫。殺生石はお堂の中にある」

「そうなの? コンさん、コンさん!」

 コンさんがぐったりする。

 また意識を失ったようだ。

 リュウちゃんはディートの背中から降りていた。

「大丈夫?」

「ええ。もう大丈夫です。もう一度確認しますが、本当に九尾の狐を復活させるのですか? 国を滅ぼした伝説もある超S級モンスターですよ」

「どうしよう?」

 頼みの綱のマミマミさんもいないし、ディート、リア、リュウちゃんの三人の力を借りても勝てそうにない。

 かといって急がないと狐神さんが死んでしまいそうだ。

 リュウちゃんが僕の肩に手を乗せて笑う。

 そんなことされても。

「やっぱり、き、決められないよ」

「付き合いは短いですけど、私はトールさんを信じます」

「なんで?」

「行商人のおじさんを助けたり、貧しい農民を助けました。白スライムに慕われ、トールさんのためにディートさんやリアさんが命をかけようとしています」

「そりゃ嬉しいけど、そのディートとかリアとかリュウちゃんの命もかかってるんだよ」

 リュウちゃんが少し考える。

「言い直すことにします。もし助けて悪い狐で全滅したとしてもトールさんを恨みませんよ」

 ディートとリアも親指を立てた。

「よし助けよう! でも、もし悪い狐だったら」

 リュウちゃんに耳打ちする。

「僕を封印の触媒にしてくれ」

「でも3日でっ」

「皆の命には代えられないから」

「……わかりました」

 いつの間にかリュウちゃんの指と指の間に複数の紙が挟まっていた。

「えいっ!」

 気合を発するとリュウちゃんの指にあった複数の紙が飛んでいって、地面に降ろした狐神さんの周りにペタッと貼りつく。

 その紙同士が光の線を結ぶ。

 光が絵を描く。

「星マーク?」

「五芒星です」

「そうとも言うよね……」

 リュウちゃんが魔法の詠唱をはじめて、しばらくすると狐神さんの体から黄金色の煙の塊のようなものがふっと飛び出る。

 その瞬間、顔色が良くなった狐神さんの周りからすすき野が広がっていく。

 すぐに辺り一面が見渡す限りのすすき野になった。

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