63話 あの人の予言!?
さっきの部屋に戻る。
部屋にはリュウちゃんと見覚えがあるおじさんがいた。
「あれ? おじさん!」
馬車で乗り合わせた、貧しい農民に荷物を盗られかけた行商人のおじさんBだ。
おじさんは日本語がわからないけど、にこにこ顔で挨拶をしてくれる。
なんでここに?
リリアナさんが教えてくれた。
「この村に来る馬車に乗り合わせたって言ったでしょ? 寒村に物資を届けるとか。それがブーゴ村なら宿もないし、行商人はここに泊まるんじゃないかと思って」
リュウちゃんも言う。
「この方は村に必需品を届けてくれる商人で、当然私も村民もお世話になっています」
なるほど。
こんな辺鄙な村の近くに向かう乗合馬車に乗っていたんだったら、そういうこともあるか。
しかも客人を泊められる家はここしかないのだ。
「トールさんはこの方を助けてくださって、しかも山賊になりかけた周辺の農民を救うために芝居を打ってまでピエール卿にかけ合ってくださったとか」
「うふふ」
リリアナさんが笑っている。
あの一件を話してくれたのか。
「実は私も不思議に思っていたのです。農民の方々の夜逃げで放棄された畑をシキガミで支えていたんですが、そのシキガミが続々と帰ってきたのはどうしてかと。さすがにシキガミ使役の負担が大きかったので助かりました」
「そんなこともやられていたんですか」
畑は放っておくとすぐにダメになってしまうと聞いたことがある。
ディートが感心した。
「へ~。シキガミを遠くの畑まで遠隔操作するなんてエミリより凄いわね」
「はい。私は一族の血が濃く、都にいる父から、魔法の力はこの地にやってきてツチミカド家の家訓を作ったセイメイ以来と言われているのです」
オンミョウジのセイメイだって?
どこかで聞いたことがあるっていうか……映画とかにもなってるアレじゃね?
なんで? なんで異世界にいるの?
晩年、移り住んだのか?
「それゆえに、家訓を守ることに慎重にならざるを得ませんでしたが……」
リュウちゃんが僕を見て微笑む。
やっと中学生ぐらいの女の子の笑顔を見れた。
「トールさんはとてもいい方のようですし、話を聞かないといけないようですね」
「本当に? ありがとう!」
見返りを求めてたわけじゃないけど、学校を休むことになっても寄り道した甲斐があった。
「まずはどうして九尾の狐の封印を解こうとしているのか教えてくれませんか?」
実はコンさんに頼まれたからって以外にもちゃんとした理由がある。
「九尾の狐、コンさんは肉体は殺生石、精神は女の子に封印されてるみたいなんだ」
「はい。そういう種類の封印もありますね。それが封印を解くこととどのように関係してるんですか?」
「実は女の子のほうは代々コンさんに取り憑かれていて、母親から娘へ継承されていく仕組みみたいなんだけど」
狐神さんの様子を思い出す。
「今、取り憑かれている女の子の体調が凄く悪そうなんだ。コンさんが封印から解かれたいと言い出したのと彼女の体調の悪化は時を同じくしている」
「つまり……九尾の狐の精神の封印の触媒にされていることが、女の子の体調悪化の原因になっているのではないかということでしょうか?」
「そうそう!」
「その可能性は十分にありますね。封印を解いてしまえば、その女の子の体調が治るんじゃないかということですね」
「それ! 単純にコンさんの頼みを聞きたいってだけじゃないんだよ」
リュウちゃんは僕の推測と同じような考えをしてくれた。
と、思っていたのだが。
「なるほど……それは封印が解けかけているのかもしれませんね」
「どういうこと?」
「封印が解けかけているから女の子の体に悪い影響を与えるのです。それならもう一度封印をかけ直してしまったほうがいいのではないですか?」
「えええ。うーん。コンさんも封印を解いてほしいって言ってるし、狐神さんっていうんだけど、彼女もそれを望んでいるのだから解いたほうがよくないですか?」
「やはり封印のほうが安全です」
「でも……」
コンさんは狐神さんや歴代の狐神家の女性と仲良くしてきた。
それにコンさんは狐神さんを救いたくて、封印を解いてほしいと言ったのではないだろうか。
数百年、あるいは千年単位で狐神家の娘と仲良く共存していたのだから、もともとは悪いモンスターだったとしても救いたいという考えになったのでは?
「トールさんはご存知ないかもしれないですが、九尾の狐は本当に危険なモンスターなんです」
「いや、でもこっちには対モンスターの最……」
最終兵器と言いかけてやめた。
マミマミさんのことを言ってもなかなか信じてくれないだろう。
「私は封印をかけ直したほうがいいと思いますが……とにかく行きますか」
「おお。来てくれるの?」
「はい。封印のかけ直しであれば、魔を払い民を救うというツチミカド家の家訓にもそぐいますから。殺生石も見にいかないといけませんしね」
どうやら封印を解ける人を連れていくという旅の目的は果たされるようだ。
今のところは封印をさらにかけ直すつもりのようだが。
◆ ◆ ◆
翌朝、皆でツチミカド邸の玄関に集まる。
リュウちゃんはシキガミにあれこれ指示をしている。
完全自動操縦にすれば、距離的に離れていても二週間はその通りに動き続けるらしい。
リリアナさんが僕のところにやってきた。
「とりあえず、旅の目的を果たせそうでよかったですね」
「はい! リリアナさんのおかげです」
リリアナさんがいなかったら、ピエール卿もリュウちゃんも説得はできなかっただろう。
「じゃあ私は父のところに帰りますので、これでお別れですね」
リリアナさんはかなり長く城から出て見聞を広げる旅をしていたそうだから、一旦父親がいる城に帰るのだろう。
「本当に色々とありがとうございました」
「トール様にディートさんがいなかったら……」
「ん? いなかったらなんですか?」
「ううん」
「なんですか?」
「いなかったら、もう少し旅に付き合ってあげようかと思ったんですけどね。ほら駆け出しでしょ?」
リリアナさんは僕を駆け出し冒険者だと思っているようだ。
まあ実際そうだけどね。
「まあ、ディートは頼りになりますからね」
「うん。でもディートさんって気が短そうだし仲間割れするかもしれないですね。そしたらアラゴンの城に来てくださいね。冒険に付き合ってあげますよ」
僕とリリアナさんが笑っていると、ディートがやってきた。
「何笑ってんの?」
「いや別れの挨拶だよ」
「ふーん」
リリアナさんと別れて、ディートとリュウちゃんでセビリダ行きの乗合馬車に乗った。
「さっきは何を話してたのよ」
馬車が動き出すとすぐにディートに聞かれてしまった。
「いや別に。とりあえずリュウちゃんが来てくれることになってよかったねってさ」
「じゃあなんで笑ってるのよ」
「いや別に。にこやかに別れの挨拶をしてただけだよ」
そんなやり取りをしているとリュウちゃんが暗い声を出す。
「余裕ですね。九尾の狐と対峙するというのに」
リュウちゃんの格好はまさに陰陽師だった。
烏帽子っていうんだろうか?
平安時代の人がしてそうな帽子に、ちょっと神社の人にも似ている白い衣を着ている。
狩衣というらしい。
「リュウちゃん、凄い格好だね」
「戦装束ですから。相手は九尾ですよ」
ああ、そういうことか。
「ところで異世界じゃ普通の格好なの? 馬車の御者のおじさんもそんなに驚いてなかったけど」
ディートが首を振る。
「見ないけど、まあこっちの世界は謎の少数民族や人間とハーフの種族や亜人種なんかもいるから格好も色々よ。トールもそこまでは珍しがられなかったでしょ?」
「なるほど」
確かにそれほどは驚かれなかった。
「でもまさか日本の陰陽師の服を異世界で見れるなんて」
ディートが慌てる。
「ちょっと、ニホーンのことを気軽に言わないほうが」
「いやだって、リュウちゃんは日本に来ないといけないし、隠す意味も」
「っていうよりニホーンにオンミョウジがいるの? 魔法はないって言っていたじゃない」
「いや魔法はないけど昔は陰陽師がいたって話もあるんだよ」
ところがディート以上に慌てているのはリュウちゃんだった。
「ト、トールさん、今、ニホーンって言いましたか!?」
「あ、うん言ったけど」
「トールさんはニホーン人? いやそれよりもニホーンにはオンミョウジがたくさんいるんですか!?」
めちゃくちゃ詰め寄られる。
「い、いや。たくさんはいないかな。というか今は一人もいないかも。でも伝説はたくさんあるんだ」
「私の家はニホーンから来たという伝説があるんです」
「あ、ああ……」
例のツチミカド家の家訓を作った人ってあの人だよね。多分……。
「何か思い当たることがあるんですか?」
「ま、まあ」
僕が知っている知識を話す。
陰陽師といえばあの人っていう伝説のあの人の話だ。
「その話は何年前の話ですか?」
「え? いつだろう? 待って。平安中期かな。千年ぐらい前かも」
「私の家に代々伝わっていることと一致します」
伝わっていることってどういうことだろう。
「伝わっていることって?」
「私の死後、千年ほど後にニホーンから少年が訪れんってセイメイが巻物に書き残しています。一種の予言の書とでもいいましょうか」
な、なんだって?