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56話 レトルトカレーをもう一度作る

「ったく面倒ね。アローシールド」

 ディートが魔法を唱える。

 飛んできた矢が光の壁に当たって落ちる。

「助かった」

 とりあえず矢が飛んでくることはなくなったようだ。

 これで帰ってくれないかなあ。

「来るわよ」

 やっぱり来るよな~。

 ときの声があがるのと同時に、剣や斧を振り上げた山賊が林の陰から現れる。

「あ、あれ?」

 山賊たちは何やらノロノロしている。

 それに装備もボロボロだった。

「あれ?」

 振り下ろされた剣を金属バットで簡単に受け止められる。

 そのままタックルすると山賊は後ろに吹っ飛んでいった。

「よ、弱いぞ」

 少し離れたところからディートの声が聞こえる。

「当たり前じゃない。オオムカデのほうが10倍強いわよ」

「そうなのか?」

 確かに弱い。

 そう言ってるうちに、新手の山賊のお腹をバットでやすやすと突くことができた。

 これなら殺さずに済む。

「よそ見しないで!」

 え? 今、僕に向かってきている山賊なんかいるか?

「■×○▲」

 げえええ。

 おじさんAが三人に襲われている。

 っていうか、ほとんど組み付かれているじゃないか。

「うおおおお」

 おじさんに組み付いた山賊の背中を金属バットで叩く。

 派手に悲鳴をあげて転げ回った。

 それを見て他の二人は慌てて逃げていった。

「おじさん、怪我ない?」

 あれだけ組み付かれていたのだ。

 剣やナイフで刺されたのでは?

 おじさんは何か叫んでいるが……怪我はしていないようだ。

 少なくとも大量出血とかはない。

 辺りを見回す。

「いつの間にか山賊がいない」

 馬を狙った山賊も片付いたようで、ディートも僕らのほうにやってきた。

「ね。全然、雑魚だったでしょ」

「うん。弱かったよ。殺さずに済んだ」

「私も殺さなかったわ。この辺に出てくる山賊は職業山賊っていうよりも食い詰めた貧農ね」

「そういうことか」

 御者とおじさんBが、気絶したり、苦痛にうめいている山賊を縛り上げていた。

 山賊は合計七人か。

 三人ぐらいは逃げたのだろう。

「あれ?」

 さっき山賊に組み付かれていたおじさんAが、膝をついて地面を叩いている。

「おじさん、やっぱりどこか怪我したのかな?」

「返せ~って叫んでるわよ。荷物でも取られたんじゃない」

 あ~そういうことか。

 それで組み付かれてたけど、刺されてもいなかったのか。

「殺して奪うっていうよりもかすめ取る山賊なんだな」

「やっぱり貧農なのよ。去年はちょっと凶作だったしね」

「この人たちどうなるの?」

「運が良ければ懲役10年。悪ければ絞首刑。さらに悪ければモンスターに生きたまま食われるわね」

「えええええ? モンスターに食われるの?」

「だってこんな人数連れていけないもの。街に着いたら官憲に報告して間に合えば、まあ懲役よ。労働力欲してるから」

 そりゃそうか。

「それにほら」

「ん?」

 ディートが未だに地面を叩いているおじさんを指差す。

「実害も出てるしね」

 言葉がわからない僕でもわかる。

「おじさん……」

 慰めようとしたらおじさんが振り返って僕の足にすがりついた。

 何か必死に頼んでいる。

「ううう。これも言葉がわからなくてもわかる」

 ディートのほうを見る。

「しょうがないわねぇ。でも嫌なもの見ることになるかもしれないわよ」

「嫌なもの? 何かわからないけど、行こうよ」

「まったくお人好しなんだから」

 ディートが縛り上げた山賊に何やら話しかけた。

「アジトはあっちだって」

「急ごう!」

 ディートと走ると、崖が見えてきて洞窟が開いていた。

「あの洞窟の中みたい。乗り込むわよ」

「ちょっと待って。あそこに糸があって……」

 糸は板と小さな棒につながっていた。

「いいから」

 ディートが僕の腕を引っ張って崖に向かう。

―カランカラン

「ほら! だから言った……あれ?」

 洞窟からは手を上げた山賊と女性と子供が出てきた。

「襲うわけにはいかないでしょ。やっぱりもともと貧しい農民ね」

 ディートの言うように見るからにみすぼらしい。

「戦意も全然ないしね」

「とりあえず荷物を返してもらいましょ」

「荷物ねえ……」

 簡単に返してもらうことができるだろうか。

 案の定、おじさんの荷物はすぐに見つかったが、山賊というか貧しい農民の男たちはなかなか手放そうとしない。

「白旗上げたくせにみっともない。離しなさいよ」

「ディート……そうは言ってもなあ」

 目の前には明らかにお腹を減らした子供たちがいる。

 山賊まがいの貧しい農民の男たちが捕まったり、モンスターに食われたら、この子たちがどうなってしまうのか想像もしたくない。

「とりあえず合流して皆で話し合わない?」

「トールが甘いのか、ニホーン人が甘いのか」

「ディートもなんだかんだ付き合ってくれてるじゃん」

「たまには違う世界の人の目線で世の中を見てみようと思っただけよ」

 僕もいつか逆に、異世界人の目線で世の中を見ないといけない時も来るんだろうか。そしたらこんな子供たちを見捨てて……。

 そんなことを考えながら、今はレトルトカレーを作らないといけないだろうなと思っていた。

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