55話 山賊襲撃
おじさんも日本人の曖昧な笑いに飽きてしまって、馬車の車輪の回る音だけが響いている。
外の景色はずっと林の中だった。
ただ、木はまばらなので、異世界の気持ちいい太陽は拝める。
太陽が高くなった頃、急に馬車が止まった。
「着いたの? 林の中みたいだけど?」
「お昼、休憩よ」
「あ~」
おじさんA、Bが馬車を降りて枯れ枝を集めている。
どうやら、この場で料理をはじめるらしい。
御者の人も馬を木につないで、水筒と食料が入ってるだろう包みを取り出した。
「私たちも食べましょうか? 色々持ってきたんでしょ?」
「まあね」
インスタント麺、レトルトカレー、お餅、缶詰……さっきの宿から持ってきたパンもある。
網を炭火の上に置いて、パンの上にアンチョビとチーズを置いて炙る。
「それ何?」
「アンチョビとチーズがあるからパンの上に乗せて軽く焼いてみるよ」
「美味しそう~」
それだけでは物足りないのでお餅も焼いた。
「私、お餅大好き~」
「僕もだよ」
炭火がチーズとお餅を焼いていく。
「できたよ~」
「いただきま~す。美味しい~」
お餅の磯辺巻きにして食べる。アンチョビとチーズのパンも最高。
ディートと二人でワイワイ食べているとおじさんA、Bが寄ってくる。
特にお餅の磯辺巻きに興味があるようだ。
ジェスチャーでしきりに、自分たちの食べ物と少し交換しようと言ってくる。
変なスープか。
あまり交換したくないけど、これも旅の醍醐味か。
「じゃあ、どうぞ」
磯辺巻きは二つずつ作ったけど、僕は一個食べてしまったので残りは一個。おじさんAの分しかない。
おじさんAは見るからに美味いというジェスチャーをした。
おじさんBはとても悲しい顔をしている。
ディートを肘でつついた。
「え~私は二つ食べたい~」
「もう一人のおじさんが可哀想じゃん……」
「トールが勝手に交換したのに~もうないの~?」
「ごめん四個しか持ってきてない。日本でまた作ってあげるからさ」
「仕方ない」
ディートがおじさんBに磯辺巻きを渡す。
おじさんBも料理バトル漫画かと思うような大げさなリアクションをした。
お礼にくれたスープは量だけは多いが、色味はあまり美味しそうではない。
「茶色いね。異世界ではよくあるスープ?」
「見たことないわねえ。そもそも行商人とか冒険者の料理なんて適当だし」
ふわっとスープが香る。
どこか懐かしい香りだ。
「匂いは良いね」
「そうね。悪くないね」
一口すすってみる。
「ん? これは醬油? いや魚醬っぽいな」
「あーなんかニホーンっぽい味がすると思ったら調味料が似てるのね」
へ~、異世界にもこんな味があったのか。
四人で和気あいあいと食事をとる。
「ん?」
ところがディートが急に声をあげて、しかめっ面になる。
「どうしたの?」
おじさんがセクハラでもしたのだろうか?
そんな人のようにも見えないけど。
「招かれざる客が来たわよ」
「え? おじさんたち、やっぱりセクハラを……」
「違うわよ。山賊ね。感知魔法にひっかかったわ」
な、なななななな、なんだって?
「さ、山賊~?」
「まあこの世界ではあるあるだから。治安がいいニホーンにだって少しはいるでしょ?」
「少しはいるって山賊のこと? 一人もいないよ! って、早く逃げなきゃ」
「なんで逃げるのよ。ほらおじさんも武器を取り出してる。トールも早く」
確かに異世界あるあるらしい。
おじさんたちもディートの反応で棍棒を取り出していた。
「お、おじさんたちも戦うのか。山賊だぞ?」
「せいぜい10人ぐらいの雑魚よ」
「じゅ、10人もいるのかよ」
でもディートの魔法はモンスターを軽く薙ぎ払う。
10人もいる山賊だって雑魚にすぎないのかもしれない。
少しほっとする。
「じゃあ、私は馬と馬車を守るからトールはおじさんたちを守ってあげてね」
「な、何いいいいいいい? 僕も戦うの?」
「そりゃね。包囲されてるから全員一気に倒せる魔法は高価な触媒使わないといけないし」
「ケチケチしないでよ」
「いいけど……辺り一面吹っ飛ぶわよ」
「ごめん。僕も戦う」
剣ではなく金属バットを抜く。
人は殺したくない。
ディートがおじさん二人や御者にも指示を出す。
本人は馬の前に立ち、僕たちには円陣を組めという指示だった。
ヒュッヒュッという風切り音とともに何かが飛んでくる。
げっ、あれは……。
サクサクと矢が地面に突き刺さる。
ぞっとする。
「や、矢だ!」
こんなもん当たったら大怪我するぞ。
ってか死ぬ?