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49話 セカンドオピニオンは勝てないかも

「ただいま~」

「おかえりなさい! ご主人様!」

 部屋に戻るとシズクがおかえりなさいを言ってくれる。

 何も言ってくれないマミマミさんが畳で寝そべりながらゲームをしていた。

 相変わらずYシャツとパンツ一枚だ。

 服装を何とかしてくれとか、勝手に寮に来ないでくださいとか、突っ込みたい気持ちを抑える。

 何故なら今は教えて欲しいことがあるからだ。

「あの~マミマミさん」

「……」

 マミマミさんはテンニンドーのスオッチのゲームの画面に集中していた。

 パンツが見えようがお構いましだ。

 まあまだ少女にもなっていない体だが。

「ちょっとゲームを休憩して僕の話を聞いてくれませか?」

「あ~死んだ。話しかけるから」

「マミマミさんは九尾の狐って知ってますか?」

「知っているに決まっとろうが」

 知っているのか。

「なんか九尾の狐が殺生石に封印されたから助けて欲しいって言ってるんですけど」

「なに~九尾の狐が? ぶはははははは」

 マミマミさんが笑い出す。

「何が可笑しいんですか?」

「何を言い出すかと思えば。何処でそんな話を吹き込まれたんじゃ。腹が痛い。い~ひっひ」

 畳の上を転げ回って笑っていた。

「もう。そうやって馬鹿にして」 

「いや、すまん、すまん。九尾の狐の力は我々のような神に近い。一介の人間であるトオルに助けなど求めるかの~ひひひ」

「神? マミマミさんぐらい力が強いってこと?」

「神にも格がある。ワシほどではなかろう」

「へ~」

 神様ねえ。

 マミマミさんも狐神さんも神っぽくない。

 機嫌が悪くなると面倒だからこれは言わないでおこう。

「まあ四、五本の尻尾を持つ狐がお前を騙そうとしてるんじゃないか?」

「四、五本の尻尾の狐?」

「数百年ぐらい生きた狐がたまに少しだけ力を持つ。トオルがあったのはそれだろう」

「え? 数えたら九本ありましたよ」

 尻尾の数は確かに九本だった。

 見せつけられて数えたのだから。

「幻覚を見せられたんだろう。ワシでも九尾など見た記憶がない」

 幻覚か。そうかもしれない。

「幻界とかいう精神世界に連れて行かれましたが」

「そこからして嘘じゃな。幻界を作るには七か八は尾を持つ狐でないとな」

「だから本物なんじゃ? 実際に変な世界に連れていかれたし」

「九尾の狐などそうそういない。神じゃぞ。神たる威厳はあったか?」

「無いけど」

「じゃろ」

 マミマミさんにも神様の威厳なんて無いけどなあ。

「僕は騙されたってことか。悪い狐なんですか?」

「悪いって。からかっただけじゃろ?」

「からかうってことは悪いじゃないですか?」

 昔話なんかでも狐に化かされるとかそんな話を聞いたことがある。

「お前が不思議な術を使える賢い動物だったとする。周りには術も使えないのに自分たちが一番賢いと思ってる猿がのさばっていたらからかいたくならんのか?」

「なるほど……確かに」

 マミマミさんは人間に辛辣な時がある。

 しかし、言っていることは確かにその通りだ。

「狐も人間も悪いやつの割合はそう変わらんよ。むしろ狐のほうが少ないんじゃないか?」

「やっぱりからかわれただけか」

「九尾なら人間に助けなど求めないし、九本の尻尾を隠す。見せられたのはむしろからかわれた証拠だ」

 そうなのかな~。

 本当に九尾が困っている気もするけど。

 あ、そうだ。肝心なことを聞き忘れていた。

「殺生石の封印されたのが本当だとしてマミマミさんなら封印を解ける?」

「ん~多分できんかな」

「え? そうなの?」

 当然できるものかと思っていた。

 だって神様なんだし。

「やり方がわからん」

「それ、できないってことじゃん」

「違う! ワシには力はある。やり方さえわかればできる!」

 マミマミさんが口を尖らせて反論する。

「つまり普通の人じゃやり方もわからないし、やり方がわかってもパワー不足でできないってこと?」

「そういうことじゃ。まあ殺生石を見ればできるかもしれん。叩き割ればいいだけかもしれんし」

「そんな乱暴な」

 ドヤ顔をしてるけど、結局できないんじゃないか。

 その前に狐の精霊が九尾かどうかもわかんないしなあ。

 どうする?

 マミマミさんを連れて行こうか。

 九尾かどうかぐらいはわかるかもしれない。

 けどな~マミマミさんを寮の外の日本の街に連れて行ってもいいものか。

 巨狼の姿になるなとか基本的なことは教えるつもりだけど、ともかく常識がない。

 万が一、九尾の狐と巨狼が妖怪大戦争にでもなったら立川が崩壊してもおかしくないぞ。

 そうだ。今日はあの二人が来る日じゃないか。

 セカンドオピニオンに話を聞いてみようか。


◆ ◆ ◆


 美夕さんとダンジョンの部屋を模様替えする。

 僕の寮の部屋からふすまを開けて、そこにある扉を開けるとダンジョンなのだが、そこはやはり部屋のような構造になっている。

 その部屋を異世界の仲間たちの憩いの場、休憩所にしようとしている。

 ダンジョンの奥側からは勝手に入ってこれない扉も付いているしね。

「学校で廃棄されたパイプ椅子や机を置いてと。電気が通ってればねえ」

「木野先輩のキノコ栽培部屋の電気はどうしてるの?」

 美夕さんが僕に聞いた。

「先輩は電気なんて使ってないんじゃないかな」

 キノコに電気はいらないのかもしれない。

 そんなことを考えていると。

――トントン

 扉をノックされる。

「お、来たかな」

 扉の側面にあるボタンを押す。

 扉がガガガと上がっていき、黒い三角帽と黒マント、剣に鎧の女性の姿が現れる。

 ディート、リアだ。

 二人は真神であるマミマミさんを人狼という危険なモンスターと勘違いして退治しようとしたの償いに、食料になる魔物をお供え物として定期的に持って来ることになっている。

「やあ、ディート、リア」

 僕が挨拶をするとディートとリアが顔を見合わせる。

「あれ? 今日はお出迎え?」

「珍しいですね。というかはじめてかも」

「え? そう?」

 今まで出迎えていなかったかなあ。

「いつももっとおざなりな対応だけど?」

 考えてみるとディートの言う通りかもしれない。

 寮の仕事が忙しいのだ。

 僕は親なしでたいじしようt働く高校生だしね。

「そ、そんなことないよ。さあ、どうぞどうぞ。座って」 

「何か気持ち悪いわね」

 サビが浮いて捨てられていたパイプ椅子に二人を座らす。

 捨てられた学校の備品もダンジョンルームでは大活躍だ。

「美夕さん、お客様にコーラとポテチをお出しして」

 美夕さんがコクコクとうなづいてコーラとポテチを取りに行く。

「コーラとポテチ! 私、大好きです!」

 リアが喜ぶ。

「私は日本のお酒がいいんだけどな~」

 くっ。ディートめ。遠慮がまったくない。

「学生寮にお酒なんてないよ」

「この前、飲ませてくれたじゃない」

「あれは料理用の料理酒をディートが勝手に飲んだだけじゃないか」

「む~」

 いかん。

 機嫌をそこなったら狐神さんの件を協力してくれなくなる。

「今度、買ってくるよ。今度ね」

「ホント? やった~」

 高校生でも買える料理用の料理酒なんて美味いんだろうか。

 そうこうしているうちに美夕さんがコーラとポテチを持って来てくれた。

 捨てられた学習机の上にコーラを注いだコップ置いてポテチを広げる。

 酒のほうがいいと言っていたディートも嬉しそうにパクついている。

「私、コンソメ味よりカラムーチョスのほうが好きなんだけどな」

 美味しそうに食べてるのに文句を言っている。

 このエルフはとりあえず最初に文句を言うタイプらしい。

 ってかなんでエルフがカラムーチョス知っているんだよ。

 まあいい。目的を果たそう。

「ところでちょっと二人に聞きたいんだけど狐の精霊って知ってる?」

「何それ? リア、知ってる?」

「聞いたことないですね。わかりません」

 言い方が悪かったのだろうか?

「じゃあ九尾の狐って知ってる?」

 二人のコーラを飲む手とポテチを運ぶ手が止まる。

「きゅ、九尾の狐ですって!?」

「た、大変です!」

 た、大変ってどうしたのだろうか。

「何が大変なのさ?」

「前に人狼は村を滅ぼすって言ったでしょ?」

 ディートが机を平手で叩きながら立つ。

「そんなことも言っていたね」

 二人はマミマミさんを人狼と勘違いして攻撃したのだ。

 その人狼は人間に紛れ込み村を滅ぼすという。

「人狼が村を滅ぼすモンスターなら、九尾の狐は国を滅ぼすモンスターよ」

「えええ? 国?」

 話した感じはとてもそんな危険なモンスターには見えなかったけど。

「モンスター狐は尾の数で危険度がわかります。九本は一番数が多くてもっとも危険です」

 リアの説明は真剣そのものだ。

「九本の狐の力が最も強いとは聞いていたけど」

「強いというよりも危険です」

「というと?」

「九尾は美しい女性の姿で現れます」

「へ~」

 まあ美人ではあったか。

 ただ、僕が知っている九尾は狐神さんの体に取り付いてるから狐神さんがベースになっている。

 九尾の時も雰囲気が変わっているだけだ。

 笑い方とか。

「そして権力者に取り入って悪政に導きます」

「ど、どういうこと?」

「そうですね。ニホーンで例えるなら、偉い人のお嫁さんになって偉い人に悪い政治をさせるんです」

「マ、マジかよ」

 こ、怖! 日本にもう何匹か入ってるんじゃないか?

 冗談はさておき単純に力で人間を襲うというわけではないのか。

 そういえばそんな話を聞いたことあるぞ。

 そもそも九尾の狐って日本のゲームや漫画に出てくるわけだから神話や伝説があるのかもしれない。

 後でインターネットでも調べてみようか。

「で、トールはどうしてそんなこと聞いてきたの? 九尾の狐を見たの?」

 ディートが身を乗り出す。

 本当のことを話そうか?

 ディートとリアは冒険者として危険なモンスターを狩る仕事もしているらしい。

 教えたらすぐに日本の街に向かいたがるんじゃないだろうか。

「い、いや~そういうモンスターが日本のゲームにいるからそっちの世界にいるのかなって」

「あ~ゲームね」

 ディートは納得してくれた。

 ゲームや漫画に出てくるようなモンスターは異世界に実際にいる場合が多い。

 単純な興味でディートやリアに聞くことがある。

 上手く誤魔化せたようだ。

「もし九尾の狐を見つけたら教えて下さいね」

「うん。その時はお願いするよ」

「はい! 私たちでも退治できるかわからないけど頑張ります!」

 いつものようにリアの返事は元気だけど、勝てるかどうかはわからないのか。不安だな。


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